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続編
40 幼馴染の反応
しおりを挟む――――それから僕は姉さんに事情を説明して早めに帰ることにし、ドレイクを連れて街で新しい靴と下着を数枚買い込んだ。そして、そのままある場所へと向かったのだが……。
「こんばんはー」
扉を開けて声をかければ、すぐに返事があった。
「おや、いらっしゃい、コーディー君」
「いらっしゃい」
ローレンツさんとターニャさんが笑顔で出迎えてくれた。早めに来たから、店内にいるお客さんはまだ少ないようだ。しかし二人の視線はすぐに僕の後ろに隠れているドレイクへと向かい、ローレンツさんはすぐに声を上げた。
「こ、コーディー君、その子っ!」
ローレンツさんは驚いた顔をして言い、僕はカウンターに近寄ってこそっと事情を説明した。
「ローレンツさん、この子は若返りの泉の水を飲んで子供に戻ってしまったドレイクなんです」
「若返りの!?」
ローレンツさんは驚いた顔のまま、またドレイクに視線を向けた。けれどすぐにカウンターから出てきて、僕の後ろに隠れているドレイクの前でしゃがんだ。
「こりゃたまげた。本当に子供の頃のドレイクだ」
さすが幼馴染、一目見ただけで本物のドレイクであるとわかったみたいだ。でも記憶を失っているドレイクは目の前で興味津々に自分を見つめる大人が怖いのか、僕にしがみつきもっと後ろに隠れた。
「はは、この引っ込み思案な感じも子供の頃と同じだ」
ローレンツさんは懐かしそうに言い、そして僕に尋ねた。
「ドレイクは記憶がないのかい?」
「ええ、そのようです。僕の事も忘れてるみたいで」
僕が答えるとローレンツさんは「そうか」と呟くと、ドレイクに自己紹介した。
「ドレイク、俺はローレンツ。お前の幼馴染だ」
ローレンツさんが教えるとドレイクはちらっと顔を僕の後ろから出して、小さな声で答えた。
「ろーれんつ?」
「ああ、そうだ。よろしくな」
ローレンツさんはにこっと笑うと、ドレイクは後ろに隠れながらも小さく頷いた。そしてローレンツさんは立ち上がると僕にこう言った。
「しかし子供に戻るとはなぁ。一瞬、あいつの子供かと思ったよ」
どうやらローレンツさんも僕と同じことを思ったらしい。まあ、あれだけ女性と関係があったからそう思っても仕方ないよね。
……でも、もし本当にドレイクの子供だったなら……なんだかモヤッとするなぁ。
僕はなぜだか、胸の内側がモヤモヤと気持ち悪くなった。けれど、そんな事を考えている間に、ローレンツさんは奥さんのターニャさんにドレイクの事情をこそっと説明していた。
「ええ? 本当に!?」
ターニャさんはローレンツさんから聞いて驚きの声を上げると、まじまじとドレイクを見た。なのでドレイクは僕の後ろにまた隠れてしまう。
……本当、こんなにシャイな子がドレイクなんて。
僕はそう思うが、ドレイクの小さな体からぐぅぅっと腹の虫が聞こえてきて、ここに来た理由を思い出した。
「あ、お腹空いたよね。ごめんごめん。ローレンツさん、ドレイクが子供の頃に好きだった食べ物とか知ってませんか? よかったら、それを今日は出して貰えたらって思って」
僕はそう尋ねた。僕は今のドレイクが何を食べれるかわからない、けれどきっと幼馴染であるローレンツさんなら知っているだろうと思ってここに来たのだ。
そして僕の考えは合っていたようでローレンツさんは二つ返事で答えてくれた。
「勿論! だがドレイクが好きな食べ物か……やっぱりアレかな? すぐに作るよ。コーディー君も食べてみるかい?」
ローレンツさんに尋ねられて僕は「はい」と頷く。
……子どもの頃のドレイクが好きな食べ物って何だろう? 気になる。
「じゃあ、空いてる席に座ってて」
ローレンツさんはそう言うとカウンター内に戻り、早速調理に取り掛かった。僕はそんなローレンツさんにお礼を言う。
「ありがとうございます!」
……良かった。やっぱりローレンツさんに頼んで正解だったな。
僕は改めてここに来てよかったと思いながら、近くのテーブル席に座った。
「ドレイク君にはこのクッション、椅子に敷いておくわね」
ターニャさんはまだ背丈の足りないドレイクの為に椅子に少し厚みのあるクッションを敷いてくれた。僕はそこまで考えていなかったから、心遣いが助かる。
「ターニャさんもありがとうございます」
「いいえ。じゃあ、料理ができるまでちょっと待っててね。その間にドリンクはどうする?」
「あ、僕はお水を貰えますか? ドレイクはジュースでも飲む?」
僕が尋ねると向かいの席に座ったドレイクは「おみずがいい」と答えた。なので僕はターニャさんにお水を二つ頼む。ターニャさんは「わかったわ」と答えると、すぐに水の入ったグラスを持ってきてくれた。
けれど他のお客さんに呼ばれて、テーブルを離れてしまった。
……ローレンツさんがドレイクに何を作ろうとしているのか聞こうと思ったけど、できるまで待つしかないな。
僕はそう思いつつグラスを手にして水を飲む。けれど目の前に座るドレイクはお店が興味深いのかキョロキョロと見渡し、カウンターで忙しく動いているローレンツさんをじっと見つめた。
「気になる?」
……幼馴染だから、やっぱり気になるのかなぁ。
僕が声をかけるとドレイクはこくっと頷いた。
「あの人、ぼくにオサナナジミって言ったけど、オサナナジミってなに?」
どうやら幼馴染の意味が分からなかったようだ。
「幼馴染って言うのは付き合いが長いお友達の事だよ」
僕が説明するとドレイクはやっぱりわからないのか「ふーん?」と曖昧に答えた。
……ドレイクに『君は本当は大人で、今は子供に若返っているんだよ』って伝えたけどわかってなかったもんな。でもわからない方が当然だよね、まだ五歳なんだし。
そう思っていると、ドレイクはやっぱりローレンツさんが気になるのかカウンターの方をじぃっと見つめている。その横顔がなんだか可愛くて、僕はついつい眺めてしまう。
……子供の頃、姉さん達が僕の事をよく見てるなーって思ってたけど、こういうことなのかな?
でもドレイクを見つめているとその視線は僕に向いた。
「コーディーと僕はオサナナジミ?」
「僕とドレイクが? ううん、違うよ。ただの友達」
僕はすぐに否定した。けど言ってすぐ、ドレイクと友達以上の関係である事を思い出してしまう。
……ただの友達はあんなことしないよね、きっと。けど友達って言うほかないもんな。そもそも友達っていうのも怪しいけど。
でも悶々と考えているとドレイクに「コーディー?」と呼ばれてしまった。その
顔を見れば不思議そうな顔で僕を見ている。
そして大きな琥珀の目で見つめられるとあの日の事を鮮明に思い出しそうになって、僕は慌てて誤魔化した。
「なんでもないよ! あ、ローレンツさんが料理を持ってきてくれたみたい!」
ローレンツさんがカウンターからこちらへ向かってくるのが見え、僕が教えるとドレイクはこちらに向かってくるローレンツさんに視線を向けた。
「おまたせ、二人とも!」
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