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続編

39 ちびっこドレイク 前編

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 ―――――それから。

「はい、アイスレモンティーをどうぞ」

 僕が差し出すと円卓の椅子に座るちびっこドレイクは何も言わず、こくりと頷いてカップを両手で持つとこくこくっと飲んだ。

「ここにあるクッキーも食べていいからね」

 僕がクッキーの乗っているお皿を手前に動かすと、おずおずと手を伸ばし、クッキーをもぐっと食べた。そこにいるのは大人ドレイクと似つかない、どうにも大人しい子供だった。

 ……この子、本当にドレイク? 隠し子じゃなくて??

 僕はちびっこドレイクを見ながら思うけど、鮮やかな赤髪と琥珀の瞳、そしてあどけない顔にはドレイクの面影がある。隠し子と言うには似過ぎていた。

 ……やっぱりドレイクなんだろうなぁ。

 僕はついまじまじと見てしまう。するとその視線を感じたのか、ちびっこドレイクは不思議そうな顔で僕を見上げた。

「あ、ごめん。じろじろ見ちゃって。クッキーまだまだ食べていいからね?」

 僕が告げるとちびっこドレイクは二枚目のクッキーに手を出した。
 そしてその様子を見ていたのは、勿論僕だけでなく――――。

「あらあら、本当に可愛くなっちゃったわねぇ」
「なんだか、子供の頃のコーディーを思い出すわぁ~」
「で、若返りした原因は?」

 ダブリン姉さんとゴールウェイ姉さんはちびっこドレイクを見てほのぼのと言い、ドローエダ姉さんはヒューゲルさんに真面目に尋ねた。

「魔獣討伐の後、野営をしながら王都への道を帰っていたのですが。その際、若返りの泉が突然に現れ、ドレイクはその水を飲んでしまったようなのです。……翌日にはこの姿に。記憶も忘れているようで、名前しか覚えていなく」

 ヒューゲルさんはちびっこドレイクを見て言った。

 ……若返りの泉。確かどこからともなく突然現れて、泉の水を飲んだ人は言葉の通り若返ってしまって、飲んだ量によってはその存在まで消えてしまう。だから危険な泉に指定されているって図鑑に書いてあった。……まさか、それをドレイクが飲んじゃうなんて。でも五歳児に戻るだけで良かった。もしももっと飲んでいたら……。

 そう思うと僕はちびっこドレイクを見て、ゾッとする。
 もしかしたら、もう二度とこうして会えなかったのかもしれないのだから。

「しかし若返りの泉か。ここ数年、聞いていなかったがまさか野営先に出るとはな。だがエニスも討伐に行っていただろう?」
「エニス様は後の部隊にいまして、先にこちらに来る方が早いと判断して伺った次第です。若返りの泉はまだ不明な点が多く、魔女様方なら何かご存じではないかと」

ドローエダ姉さんの質問にヒューゲルさんは神妙な顔をした。ドレイクの事を本当に心配しているのだろう。

「ふむ、若返りの泉か……。それならキラーニが一番詳しいだろう、そろそろ戻ってくるはずだ」

 ドローエダ姉さんが言った矢先だった。
 食堂に置かれている大きな姿見鏡から、キラーニ姉さんが「ただいま」と言いながらぬっと出て来た。そしてあまりのタイミングの良さにその場にいた全員の目がキラーニ姉さんに向かう。

「な、なに?」

 キラーニ姉さんは珍しく戸惑った顔を見せたが、そんなキラーニ姉さんにゴールウェイ姉さんが声をかけた。

「キラーニ、ナイスタイミング! ちょうどあなたの話をしてたのよ」
「わたし? なんで?」
「キラーニ、若返りの泉について以前調べていただろう」
「若返りの? ……うん、そうだけど」
「若返りの泉を飲んだ後、対処法はあるのだろうか?」

 ドローエダ姉さんが尋ねるとキラーニ姉さんは『なんでそんなことを聞くのだろう?』とでも言いたげな顔をして答えた。

「飲み過ぎて、存在が消えたら、無理。でも、若返っただけ、ならアスハの実を一日一粒、食べる。それで、一週間以内に戻る、はず。個人差は、あると、思う」

 キラーニ姉さんが考えながら答えれば、ダブリン姉さんが声を上げた。

「あらあら、アスハならドローエダが育てているんじゃない?」
「ああ、私の温室にある。ヒューゲル、解決策になっただろうか?」

 ドローエダ姉さんが尋ねるとヒューゲルさんは頷いた。

「はい、ありがとうございます。魔女様方」

 ヒューゲルさんは深々と頭を下げてお礼を言った。けれど、話が見えないキラーニ姉さんは首を傾げ、近くにいた僕の服の袖をくいくいっと引っ張った。

「コーディー、一体、なに?」
「あ、実はドレイクが若返りの泉の水を飲んじゃったみたいで」

 僕は椅子に座ったままのちびっこドレイクを視線で教える。するとようやくキラーニ姉さんも事情が分かったようだ。

「っ!?」

 普段表情が変わらないキラーニ姉さんも小さなドレイクを見て驚いた。でもそんなキラーニ姉さんを他所に、ダブリン姉さんはヒューゲルさんに尋ねた。

「でもヒューゲル、この後ドレイクはどうなるのかしら? こんなに小さいと一人では過ごせないでしょうし」
「しばらくは騎士団の寮で見ようかと言う話になってはいますが……」
「あらあら、でも騎士団のみなさんも仕事があるからずっとは見ていられないでしょう?」

 ダブリン姉さんに指摘されてヒューゲルさんは口を閉じた。しかし代わりに答えた人がいた。

「なら、コーディーが面倒を見たらいいんじゃない?」

 ゴールウェイ姉さんは突然とんでもないことを言い出した。

「ゴールウェイ姉さん!?」
「コーディー、困っている子を放っておけないでしょう?」

 ゴールウェイ姉さんは人のいい顔で僕に言った。そして、そう言われたら断れない。

「う、まあ、それはそうだけど。僕が小さい子の面倒なんて」
「大丈夫よ。コーディーなら!」

 何故かわからないけど、ゴールウェイ姉さんは自信たっぷりに言った。

 ……その自信はどこから来るの。

「でも……ドレイクはそれで大丈夫? しばらく僕と一緒に過ごすことになるけど」

 僕はちびっこドレイクに尋ねる。すると僕をちらっと見た後にこくりと頷いた。

「ほら、ドレイクもその方が良いみたいだし。これで決まりね!」

 ゴールウェイ姉さんはパンッと手を叩いて言った。

 ……大丈夫かなぁ。

 僕は一人、心配に思いながらちびっこドレイクを見つめた。



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