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続編
33 フォレッタ亭にて 後編
しおりを挟む―――食事を終えてコーディーがフォレッタ亭を出た後のこと。
ターニャは仕事がひと段落したところで「あなた」とローレンツに声をかけた。
「んー、どうした?」
「コーディー君とドレイクさん、何かあったの?」
不思議そうな顔をして尋ねるターニャにローレンツは「まあなぁー」と答えた。するとターニャは心配そうな顔になり、ローレンツは慌てて否定する。
「あ、別に喧嘩とか、そう言う訳じゃないんだよ。ドレイクの奴が素直じゃないって話さ」
「素直じゃない?」
ターニャは首を傾げたが、ローレンツは困ったように笑い昨晩の事を思い出した。
雨の中、珍しくしょげた顔で店に入ってきたドレイクの姿を……。
◇◇◇◇
「いらっしゃい……って、またドレイクか」
開店前に入ってきた客がドレイクだとわかってローレンツは声色を下げる。そんな幼馴染にドレイクはじろっと視線を向けた。
「客に向かって失礼なんじゃないか?」
「わりぃわりぃ、ついな」
ドレイクに指摘されてローレンツはすぐに謝った。そんなローレンツに言葉を返さず、ドレイクはいつものカウンターの角席へと座る。
しかし、その雰囲気は暗い。
「浮かない顔だな……もしかしてコーディー君の事か?」
ローレンツが尋ねるとドレイクはぎろりと睨むように見返し、その目は『なぜ、知っている?』と尋ねていた。
「おいおい、ここをどこだと思ってるんだ? 話はお客さんから聞いたよ」
ローレンツが答えるとドレイクは舌打ちをした。
「口の軽い客がいたものだな」
「仕方ないだろう、人ってのはゴシップが好きなんだから。特に魔塔の魔女様が絡んでるとなれば猶の事だ。……それより今回の件、コーディー君はとんだとばっちりだったな。若い魔女はコーディー君に対して勝手な私怨を持っていたらしいが、お前との仲をも嫉妬してクッキーを渡したんだろう?」
ローレンツが何気なく言えば、ドレイクは「……ああ」と短く答えた。その声色はさきほどより暗い。なのでローレンツは思わず口にしていた。
「ドレイク、お前……やっぱりコーディー君と出会ってから変わったな」
「は?」
ローレンツの突然の言葉がわからずドレイクは片眉を上げた。
「俺が変わっただと?」
「そうだよ。今までのお前だったらきっと自分は関係ないって顔してただろ。女の子を手酷くフッたってなんてことない顔をしてた。だが今は責任を感じてるって顔してるぞ」
「別に責任なんて、俺はただ……」
ドレイクはそこまで言うと口を噤んでしまった。なのでローレンツは「俺はただ……なんだ?」とその言葉の先を尋ねたがドレイクは答えなかった。いや、まるで言いたくないという様子で。
そんなドレイクを前にローレンツは小さく「はぁ」とため息を吐いた。
「ドレイク、お前、今自分がどんな顔をしてるのかわかってるのか?」
ローレンツが問いかけるとドレイクは怪訝な表情を見せた。
「どんな顔、だと?」
「今のお前は、好きな子を自分のせいで傷つけてしまったって顔をしてるぞ」
ローレンツがハッキリと告げるとドレイクは真っ向から否定した。
「ハッ、また例の病の話か? そんなんじゃないと何度も言ってるだろう」
「じゃあ、なんでお前はそんなに落ち込んでるんだ?」
「だから、落ち込んでなどと」
ドレイクが言おうとすればローレンツはもう一度「はぁ」とため息を吐いた。
「ドレイク、俺もお前と同じだからわかる。恋だの愛だのを信じられない気持ちは。……俺達は孤児院に捨てられたからな」
ローレンツは捨て子だった昔を思い出し、寂し気な目を見せる。けれど言葉を続けた。
「だけどよ、後悔するような事になる前に素直になった方がいいぞ」
ローレンツは真面目な顔をしてドレイクに告げた。だが、そんなローレンツにドレイクは鼻であしらう。
「後悔するような事って」
「俺は何度もターニャを泣かせた。今のお前みたいに気づこうとしないでな」
ローレンツは間髪入れずに答えた。そして同じように身に覚えがあるドレイクは黙り込む。
「だからドレイク、早く素直になった方がいいぞ。それにコーディー君はいい子だ。お前がもたついている間に誰かに攫われるぞ?」
ローレンツが忠告するとドレイクはますます黙り込んだ。
しかし、そこへ買い出しに行っていたターニャが戻ってきた。
「ただいま~。あらドレイクさん、いらっしゃい」
開店前にすでに席に着いているドレイクにターニャは声をかけた。そして、テーブルに何もない事に気が付く。
「もう、あなた。ドレイクさんにお水も出してないの?」
ターニャが注意するとドレイクは席を立った。
「いや、今日はもう失礼する」
「え? でも」
食事されていかないんですか? と聞く前にドレイクは「じゃあな、ローレンツ」と言うと早々に店を出て行った。
「ドレイクさん、どうしたの?」
ターニャが尋ねるとローレンツは腕を組んで笑った。
「んー、まあ人生相談ってところだよ。それと俺はターニャにますます感謝してるって再確認したところだ」
「えー?」
ターニャはわからずに首を傾げたけれど、ローレンツは笑うだけだった。
そして出て行ったドレイクの後姿を思い出し、幼馴染の恋が上手くいくことを祈った。
――――そしてドレイクと言えば。
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