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33 フォレッタ亭にて 前編 ※
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――――例のクッキー事件から、早くも一週間後の夜。
まだまだ梅雨は開けず、どんよりとした雲がしとしとと雨を降らせて窓を濡らしていた。
そんな中、僕はお風呂から上がり「ふぅ」と息を吐いて、ベッドに腰を下ろす。
体はさっぱり、疲れも取れた。でも、心はどんよりしたままだ。
……はぁ、早くみんなが忘れてくれるといいんだけどなぁ。今日も魔研に行った時、ひそひそ話されちゃったし。
僕はタオルで髪を拭きながら、今日の出来事を思い出す。
ダブリン姉さんに頼まれてゴドフリーさんに手紙を渡しに行ったら、通りかかった魔法使いの人達にちらりと見られてひそひそ話されたのだ。
その話の内容は聞こえなかったけれど、きっと若い魔女さんが僕にクッキーを渡した件を話していたのだと思う。
そして、それはここ数日ずっとだった。
……僕を見かけると、メイドさんにしろ、騎士さんにしろ、魔法使いさんにしろ、みんなひそっと話すんだもんなぁ。なんだか居心地が悪いよ。……まぁ、仕方ないんだけど。
僕はまたも「ふぅ」と息を吐く。
例のクッキー事件はいつの間にかあっという間に人々の間で話が広まってしまった。おかげで人々の視線が痛い。
そして、その視線の多くには僕へ恐れを抱く感情があった。僕に関わると魔塔の魔女に何をされるかわからない、といったような恐れが。
……最近はその視線が薄れてきたと思ったんだけどなぁ。でも今回の事を知ればしょうがないか。僕の落ち度もあるんだし。姉さん達にこっぴどく叱られたもんなぁ。特にエニス姉さんには。
『コーディー! あれほど知らない人から物を貰っちゃダメだと言っただろう!! 今回は食べる前にゴールウェイが気が付いたからよかったものの、食べていたらどうなっていたか! 今度からもっと気をつけなさい!!』
もう二十二になるのに子供のように叱られてしまった。
……まあ姉さん達は僕のあのコトも心配して言ったんだろうけど。でもゴールウェイ姉さんが誤魔化してくれてて良かった。実はクッキーを食べて、ドレイクにあんなことされちゃったなんて知られたら……。
ますますエニス姉さんが怒る想像ができて、僕は「はぁ」と息を吐く。
……それにしてもドレイク、どうしてあの日は僕の家に来たんだろう? 串焼きが置いてあったから持ってきてくれたんだろうけど、なんで僕に?
僕は目覚めた翌日、テーブルの上に串焼きがある事に気が付いた。
まあ、それはゴールウェイ姉さんが帰った後に美味しく頂いたんだけど、どうして僕に持ってきたのかわからない。そもそも、ドレイクはなんで僕の家にやってきたのかも。
……また抱かせろ、とか言いに来たのかな?
そう思うけれど、あの日ドレイクは僕を抱かなかった。そういう雰囲気になっても良かったのに。
……約束したからって、僕に触れるだけで。
なんて考えているとドレイクの寄りかかってもびくともしない逞しい体を思い出す。大きくて硬い掌の感触も。
でも思い出せば、健康な体は素直に反応を示した。
……うっ、勃ってきちゃった。
寝巻のズボンをむくりと押し上げる。なのでズボンと下着をずらせば、ひょこっと僕の分身が元気よく顔を出した。まるで、あの時と同じように気持ちよくなりたいと主張するように。
だから僕はドレイクが触ったように自分で慰めることにした。
「んっ」
ぎゅっと握ってちゅこちゅこと上下に擦る、ドレイクの手の感触を思い出しながら。でも、やっぱりドレイクとは違う自分の手だから物足りなくて。
「んっ、ふぅっ」
『ほら、早くイけっ』
そう囁いた声を何度も思い出しながら気分を高めた。そうすれば、ようやくびゅくっと精が吐き出る。
「はぁっはぁっ……」
少し上がった息を整えながら、自分の手に付いた白いものを見る。
……出たけど……やっぱり何か違う。
僕はどこか不完全燃焼の体に心がモヤモヤする。そして、それはドレイクとの事があってからずっとだった。つまりこの一週間ずっと。
……ドレイクにしてもらった時、すごく気持ちよかったからそれを体が覚えちゃったのかな。でもだからってドレイクにもう一度してなんて口が裂けても言えないし。そもそもこの一週間、ドレイクと会ってないし。いや会ったら会ったで、すごく気まずいから嫌なんだけど。……でもあの日、なんで家に来たのかも気になるし。あーっ! もうっ、僕はどうしたらいいんだっ。
僕は一人、うんうんっと唸る。でも唸っても答えなんか出る訳もなく。
結局燻ぶったままの体ではあまりよく寝付けず、今日も僕は寝不足の夜を過ごすことになった。
――――けれどこの翌日。
久しぶりにフォレッタ亭へ行けば、僕はマスターからある話を聞くことに……。
まだまだ梅雨は開けず、どんよりとした雲がしとしとと雨を降らせて窓を濡らしていた。
そんな中、僕はお風呂から上がり「ふぅ」と息を吐いて、ベッドに腰を下ろす。
体はさっぱり、疲れも取れた。でも、心はどんよりしたままだ。
……はぁ、早くみんなが忘れてくれるといいんだけどなぁ。今日も魔研に行った時、ひそひそ話されちゃったし。
僕はタオルで髪を拭きながら、今日の出来事を思い出す。
ダブリン姉さんに頼まれてゴドフリーさんに手紙を渡しに行ったら、通りかかった魔法使いの人達にちらりと見られてひそひそ話されたのだ。
その話の内容は聞こえなかったけれど、きっと若い魔女さんが僕にクッキーを渡した件を話していたのだと思う。
そして、それはここ数日ずっとだった。
……僕を見かけると、メイドさんにしろ、騎士さんにしろ、魔法使いさんにしろ、みんなひそっと話すんだもんなぁ。なんだか居心地が悪いよ。……まぁ、仕方ないんだけど。
僕はまたも「ふぅ」と息を吐く。
例のクッキー事件はいつの間にかあっという間に人々の間で話が広まってしまった。おかげで人々の視線が痛い。
そして、その視線の多くには僕へ恐れを抱く感情があった。僕に関わると魔塔の魔女に何をされるかわからない、といったような恐れが。
……最近はその視線が薄れてきたと思ったんだけどなぁ。でも今回の事を知ればしょうがないか。僕の落ち度もあるんだし。姉さん達にこっぴどく叱られたもんなぁ。特にエニス姉さんには。
『コーディー! あれほど知らない人から物を貰っちゃダメだと言っただろう!! 今回は食べる前にゴールウェイが気が付いたからよかったものの、食べていたらどうなっていたか! 今度からもっと気をつけなさい!!』
もう二十二になるのに子供のように叱られてしまった。
……まあ姉さん達は僕のあのコトも心配して言ったんだろうけど。でもゴールウェイ姉さんが誤魔化してくれてて良かった。実はクッキーを食べて、ドレイクにあんなことされちゃったなんて知られたら……。
ますますエニス姉さんが怒る想像ができて、僕は「はぁ」と息を吐く。
……それにしてもドレイク、どうしてあの日は僕の家に来たんだろう? 串焼きが置いてあったから持ってきてくれたんだろうけど、なんで僕に?
僕は目覚めた翌日、テーブルの上に串焼きがある事に気が付いた。
まあ、それはゴールウェイ姉さんが帰った後に美味しく頂いたんだけど、どうして僕に持ってきたのかわからない。そもそも、ドレイクはなんで僕の家にやってきたのかも。
……また抱かせろ、とか言いに来たのかな?
そう思うけれど、あの日ドレイクは僕を抱かなかった。そういう雰囲気になっても良かったのに。
……約束したからって、僕に触れるだけで。
なんて考えているとドレイクの寄りかかってもびくともしない逞しい体を思い出す。大きくて硬い掌の感触も。
でも思い出せば、健康な体は素直に反応を示した。
……うっ、勃ってきちゃった。
寝巻のズボンをむくりと押し上げる。なのでズボンと下着をずらせば、ひょこっと僕の分身が元気よく顔を出した。まるで、あの時と同じように気持ちよくなりたいと主張するように。
だから僕はドレイクが触ったように自分で慰めることにした。
「んっ」
ぎゅっと握ってちゅこちゅこと上下に擦る、ドレイクの手の感触を思い出しながら。でも、やっぱりドレイクとは違う自分の手だから物足りなくて。
「んっ、ふぅっ」
『ほら、早くイけっ』
そう囁いた声を何度も思い出しながら気分を高めた。そうすれば、ようやくびゅくっと精が吐き出る。
「はぁっはぁっ……」
少し上がった息を整えながら、自分の手に付いた白いものを見る。
……出たけど……やっぱり何か違う。
僕はどこか不完全燃焼の体に心がモヤモヤする。そして、それはドレイクとの事があってからずっとだった。つまりこの一週間ずっと。
……ドレイクにしてもらった時、すごく気持ちよかったからそれを体が覚えちゃったのかな。でもだからってドレイクにもう一度してなんて口が裂けても言えないし。そもそもこの一週間、ドレイクと会ってないし。いや会ったら会ったで、すごく気まずいから嫌なんだけど。……でもあの日、なんで家に来たのかも気になるし。あーっ! もうっ、僕はどうしたらいいんだっ。
僕は一人、うんうんっと唸る。でも唸っても答えなんか出る訳もなく。
結局燻ぶったままの体ではあまりよく寝付けず、今日も僕は寝不足の夜を過ごすことになった。
――――けれどこの翌日。
久しぶりにフォレッタ亭へ行けば、僕はマスターからある話を聞くことに……。
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