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続編

32 ゴールウェイ姉さんの訪問

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 ――――それから翌日の昼前。
 僕はベッドに籠っていた。そして何度も何度も頭の中に過るのは昨晩の出来事。

「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁーーーっ、う゛う゛ぅ゛ぅぅ~~~っ」

 思い出せば思い出すほどに一人、ベッドの上で悶え、唸っていた。

 ……なんで僕は昨日ドレイクとあんな事をぉおおおおおっ!!

 もう恥ずかしくって恥ずかしくって、僕は何度も枕をぽふぽふっと叩く。
 でもそんな事をしたって、昨日した事は消えたりしない。
 ドレイクに触られて、二回もイかされた事実は。

「う゛う゛う゛ぅぅぅーーーっ」

 思い出して、僕はもう一度唸る。恥ずかしさで爆発してしまいそうだ。
 けれど、そんな時。コンコンコンッと誰かがドアを叩いた。
 なので僕は被っていた毛布からひょこっと頭を出す。

 ……だれ? ……もしかしてドレイクじゃないよね!?

 僕はドキッとするけれど、聞こえてきた声にホッとした。

「コーディー、私よ~。ドアを開けてちょうだーい」

 聞こえてきたのはゴールウェイ姉さんの声だった。
 なので僕はもぞもぞっとベッドから這い出て、寝巻のまま玄関へと向かった。そしてドアを開ければ、そこには今日も今日とて麗しいゴールウェイ姉さんがいた。

「あら、思ったより元気そうね。コーディー」
「ゴールウェイ姉さん、どうして……」
「どうしてって、急にお休みしますって連絡があったら心配するに決まってるじゃない。この前熱を出してたし、体調不良なのかなって。だから来たんだけど、思ったより元気そうね?」

 ゴールウェイ姉さんは僕をまじまじと見て言った。
 なので僕は少し居心地が悪い。仮病を使って休んだ気持ちみたいになって。
 でも昨日の一件で、今日はどうしても仕事する気持ちになれなかった。それに気持ちのせいか、体も少しだけ怠かった。

「まあ、元気そうならいいのよ。コーディーも休みたい時もあるでしょうし。……それより中に入ってもいいかしら? お見舞いに桃を買ってきたの。一緒に食べない?」

 ゴールウェイ姉さんは籠に入った桃を見せて言った。ふわりと桃の甘い香りが微かに漂う。おかげで朝起きてから何も食べていない僕はお腹が小さく唸った。

「うん、中へどうぞ」

 僕がドアを大きく開けるとゴールウェイ姉さんは「ありがと」と言って中へ入った。
 そして僕の家に何度も来た事があるゴールウェイ姉さんは慣れた足取りで部屋の中へ進む。とはいっても、すぐにリビングに着いちゃうんだけど。

「相変わらず綺麗にしてるわねぇ」
「そうかな? 普通だと思うけど」
「そうよ、私の部屋よりずっと綺麗よ。私も綺麗にしなくちゃっては思っているんだけどなかなかねぇ」

 ゴールウェイ姉さんはそう言いながら籠をテーブルの上に置いた。

 ……確かにゴールウェイ姉さんの部屋は物が多いからいつも片付いてないイメージかも。

 僕はゴールウェイ姉さんの部屋を思い出す。ゴールウェイ姉さんの部屋には服やら小物やら、人から貰った贈り物が沢山置いてある。なのでいつも片付いていないのだ。
 一応、新品同様の服とかは欲しい人に譲ったりしているみたいだけど。

 なんて考えているとゴールウェイ姉さんは僕が置きっぱなしにしていた、あるモノに気が付いた。

「あら、コーディー。これは何なの?」

 ゴールウェイ姉さんの声色が変わる。なので「え、何が?」と僕が顔を覗かすと、ゴールウェイ姉さんは例のクッキーを手にしていた。

「あ、それはっ!」
「なんで、こんなものがここにあるのかしら?」

 ゴールウェイ姉さんはにっこりと笑って僕に尋ねた。でもその笑顔が怖い。

「コーディーが自分で買ったわけじゃないわよねぇ?」
「えっと、それは」
「誰かに貰ったのかしら?」
「ええっとぉ~」
「正直に言いなさい?」

 ゴールウェイ姉さんは僕に近寄って言った。目が怖い、そしてこういう時のゴールウェイ姉さんは言うまで僕を離してくれない。

「さぁ、コーディー??」
「わ、わかったから! 言うから~!」

 ……その怖い目で見ないで―!

 僕は子供の頃の条件反射で目を反らし、結局ゴールウェイ姉さんにクッキーを貰った事を話した。でもドレイクの事は勿論言えなくて、けど。

「なるほど、メイドの子にねぇ。……コーディー、子供の頃に知らない人に何か渡されても貰ってはいけないとあれほど言ったでしょう」
「……はい、ごめんなさい」

 僕はベッドの上に正座して謝り、ゴールウェイ姉さんは腕を組んで僕の前に立つ。

 ……子供の頃と同じように叱られるなんて情けない。ううっ。

 僕は自分のいたらなさに心から反省する。
 けれど、そんな僕にゴールウェイ姉さんは尋ねた。

「でも、これはかなり強い媚薬が入っていた筈よ? 一人で、どうにかできたわけないわよね?」

 ゴールウェイ姉さんに尋ねられて僕はドキッとする。

「そ、それは」

 ……まさかドレイクに色々してもらいました! なんて言えないしっ。ど、どーしよっ。

 僕はどう答えるか困るけれど、ゴールウェイ姉さんはあっさりと僕に聞いた。

「もしかしてドレイクに助けてもらったのかしら?」
「なっ、なんでそれをっ!」
「あ、やっぱりそうなの? ふぅーん、二人ってそう言う関係になったのねぇ?」
「そう言う関係ってどういう関係!? 別にドレイクとは……そのっ、なんていうか、そう! 友達なだけであって!!」

 僕はゴールウェイ姉さんに勘違いされたくなくて、早口で捲し立てる。でも、そんな僕を見てゴールウェイ姉さんはフフッと笑う。

「そうね、お友達ね。そう言う事にしておきましょう」
「そう言う事って、そうもこうも、ただの友達だから!!」

 僕は自分で言いながらも昨晩の事を思い出して段々と頬が熱くなってくる。
 だって、まだ体が覚えてるんだ。ドレイクの匂い、呼吸、寄りかかった時の体の逞しさ、そして触れられた手の大きさを。

 ……うぅーーっ、思い出すなぁーっ!

 僕は自分に言い聞かせるけど、思い出さないようにすればするほど昨日の出来事がどんどん頭に浮かんでくる。けれど、そんな僕にゴールウェイ姉さんは言った。

「まあ、ドレイクの事はいいわ。でもこのクッキーは私が預からせてもらうわね?」

 ゴールウェイ姉さんはクッキーの袋を手にする。

「いいけど……どうするの?」
「うん? まあいいじゃない」

 ゴールウェイ姉さんは曖昧にしか答えてくれなかった。そしてはぐらかすように「それより、折角桃を持ってきたんだから食べましょう。コーディー、切ってくれる?」と僕に頼んだ。

 ゴールウェイ姉さんはすごい魔女だけど、意外に手先はぶきっちょでなのだ。なので包丁を持たせられない、指先を切っちゃうからね。だから僕は「うん」と答えて、桃をひとつ手に取る……でも。

 ……あのクッキー、どうするつもりなんだろう。

 僕は気になりながらも包丁を手に、桃を切っていく。
 でもゴールウェイ姉さんは結局最後まで教えてはくれず、この後、桃を食べ終わると「じゃあね~」と帰って行ってしまった。




 ――――でも、この日の夕方。
 僕にクッキーを渡したメイドさん、に扮した魔研に勤める若い魔女さんがゴールウェイ姉さんに捕まり、罰として北にある魔研の分局にその日の内に飛ばされ、その事を僕は翌日知ることになったのだけど……。
 この事はその日の内に人々に知られ、若い魔女さんが僕にどうしてそんな事をしてしまったのかも話は広まることになった。

 僕が大した魔法も使えないのに魔塔の魔女に今も可愛がられ、所長であるゴドフリーさんやルーシーに目をかけられている事。
 その上、ずっと想いを寄せていたドレイクと恋仲だと言う噂を聞いて嫉妬に駆られ、我慢できなくなった事を。




 ―――そして、この話は当然ドレイクの耳にも入る事となるのだが、僕がそれを知ったのはもっと後の事だった。

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