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27 ジャアネ!

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「ふぅー」

 目の前には空になったお皿。そして満たされたお腹を抱えた僕は小さく息を吐く。

 ……冷たいパスタもおいしかったな。夏限定のメニューみたいだから、また近い内に食べに来よう!

 僕は次来た時も冷製パスタを頼もうと早々に決める。そして前を見ればドレイクのお皿も空になっていたが、まだビールが残っていた。

 ……ドレイクはまだいるのかな。僕はもう食べ終わったし、お会計して出ようかな。

 そう思った時だった。

「ドレイクじゃないっ」

 その声に顔を上げれば、ドレイクの呼んだのは胸元が大きく開いた服を着た官能的なお姉さんだった。なので周りにいた男性のお客さんの目が集まる。

「こんなところで会うなんて久しぶりね」

 お姉さんは近寄ってくると、ドレイクに楽し気に声をかけた。だがドレイクは「ああ」と素っ気なく答える。けれどお姉さんはドレイクの素っ気なさなんて気にしてないようだった。
 そしてお姉さんはドレイクと同席している僕をちらりと見て会釈をする。なので僕も会釈を返すが、お姉さんはドレイクとの会話を辞めるつもりはないようだった。

「相変わらずね、もうっ。ところで今は恋人がいないって本当なの?」
「……それがどうした?」
「どうしたって、つれないわねぇ」

 お姉さんはそう言うと、豊満な胸をドレイクの体に寄せて小さな声で囁いた。

「もし相手がいないのなら、久しぶりに今夜はどう? アタシと一緒にまた楽しまない?」

 他のお客さんには聞こえていないだろうけれど、近くに座っていた僕の耳にはバッチリと聞こえ、色っぽい会話に僕は気まずくなる。
 それになにより、会話の内容が僕は引っかかっていた。

 ……久しぶりって、またって、二人は以前もそういうおカンケイッ!?

 僕はそう思いながら、綺麗なお姉さんに視線が向かってしまう。

「断る。そういう気分じゃない」
「なら、私がそういう気分にしてあげるから。どう? 色々シてあげるわよ?」

 その言葉で、休憩所でドレイクが僕に迫って来た時の事を思い出し、なんだか恥ずかしくなってきた僕はすくっと席を立った。

「僕、失礼します。ターニャさん、お会計お願いします!」

 僕はすぐにターニャさんに声をかけた。そんな僕にドレイクは「あ、おい」と呼ぶが、僕は無視してターニャさんの元へそそくさと向かう。
 そして財布を取り出して、さっとお金を払うと逃げるようにお店を出た。それから足早に少し店を離れて「はぁ~っ」と息を吐く。

 ……なんだか変なところ、見ちゃったな。でもドレイクってやっぱりモテるんだなぁ。

 僕は改めてそう思う。そしてドレイクに迫っていたお姉さんを思い出す。

 ……あのお姉さん、綺麗な人だったな。ドレイクってああいう人が好みなんだろうか? そう言う関係だって言ってたし……ドレイクはあの女の人と。

 休憩所で隣から聞こえてきた声を思い出し、僕はちょっとやらしい考えを追い出す。

 ……考えない、考えない。……でも人の事だから、とやかく言うつもりはないけど、ああいう関係ってやっぱり不健全だと思うな。ドレイクはそう思ってはいないんだろうけど、僕はやっぱりそういうのは好きになった人とだけしたい。……まあ、もうドレイクにチューはされちゃったけど。……なんだかそう思ったら、またムカムカしてきたな?

 落ち着いたはずの怒りが僕の中でまた再燃し始める。
 大事に取っていた訳ではないけれど、初めてのキスはもっとロマンチックに、ムードのある中で好きな人としたかったのだ。

 ……それなのにドレイクの奴、僕に無理やりチューして。むむむむっ。

 僕の眉間の皺がどんどん深くなる。そしてタイミング悪く、ヤツは僕の元へやってきた。

「おい、コーディー!」

 ドレイクが僕の元へ駆け寄ってきた。どうやら店を出て、追いかけて来たらしい。……なんで、追いかけてくる。

「なに?」
「何って……別に何もないが、お前が突然帰るから」

 ドレイクは曖昧に答えた。なんで僕を追いかけてきたのかわからないって顔だ。なので僕に至っては、ますますわからない。

「別に突然ってわけじゃないよ。食べ終わったから帰っただけ。それにドレイクはあのお姉さんと話があるようだったし、僕はお邪魔かなっと思って」

 再燃した怒りのせいで、少しだけ言い方が尖がってしまう。でも仕方ない、ドレイクは僕の唇泥棒なのだから。

「別に話なんてねぇよ」
「その割にはすごく親しげだったじゃん。深い仲みたいだし?」
「深い仲って……ただの大人の付き合いってだけだ」

 ……へーへーっ、そうですか。体の関係はあっても深い仲じゃないんですか。大人の付き合いって便利な言葉ですネーッ。

 そう思えば思うほど、ドレイクの『抱かせろ』と言ってきた言葉も随分と軽薄だと思ってしまう。

 ……あれは本当に僕が好きとかじゃなくて、愛もなく、ただただ僕を言葉通りの抱かせろって事だったんだな。僕にチューしたのだって、別に深い意味もなく。

 そう思ったら、なんだか悔しくて。

「おい、コーディー、聞いてるのか?」

 ドレイクは何も言わない僕を見て聞いてきた。だから僕はじろっとドレイクを見る。

「聞いてるよ。でも僕には関係ない。ドレイクが誰と過ごしたって、誰と何もしたって!」

 僕は刺々しく言い放った。するとドレイクは面食らったような顔を見せた。

「なっ」
「だから自由にしたらいい。でも僕を巻き込まないで。……僕に迫るより、あのお姉さんと過ごした方がいいんじゃないカナ?! ジャアネ!」

 別れの言葉まで言って僕はスタスタと自宅へ歩いていく。でもその僕の背中にドレイクは叫んだ。

「じゃあねって。おい、だから俺はお前にしかっ。おい、コーディー!」

 名前を呼んだけど、僕は振り向かないで歩いて去った。



 ……フンッ、ドレイクなんてしるもんか!





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