俺様騎士は魔法使いがお好き!

神谷レイン

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続編

25 その日の夕方 後編

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「―――へっへっ……へっぷしっ!」

 姉さん達の会話を知らない僕は、帰り道の途中で大きなくしゃみをしていた。

 ……うーん、鼻がムズムズするなぁ。誰か僕の噂でもしてるのかな?

 そう思えば、頭の中に姉さん達がパッと思い浮かぶ。僕の噂をするなんて、姉さん達以外思い浮かばないから。

 ……慌てて出てきちゃったからなぁ。明日、また聞かれたらやっかいだなぁ。まさかダブリン姉さんがマダムから聞くなんて。でもまあ、悪いことはしてないし。ただ、その後の事を聞かれたらすごく困るけど。

 僕は考えながら夏の夕暮れの中をてくてくと歩く。でも、そうしている内にお腹が空いてきた。

 ……今日の夕飯はどうしようかな。なんだか今日は作るの面倒な気分だし、久しぶりにフォレッタ亭でご飯にしようかな?

 僕は歩きながら考え、フォレッタ亭に行くとなったらますますお腹が空いてきた。なので、僕は足早にフォレッタ亭へと向かう事にした。
 そして十分ぐらい歩いてお店の前に着くと、もういい匂いが漂ってくる。夕時だからか繁盛しているようだ。

 ……久しぶりのフォレッタ亭だなぁ。今日は何を食べようかなー。

 僕はウキウキしながらドアを開けた。そうすればカウンターからローレンツさんの声が飛んでくる。

「いらっしゃい、ってコーディー君じゃないか。久しぶり」
「ローレンツさん、こんばんは」

 僕はニカッと笑って言うローレンツさんに挨拶をする。そしてお店の中は案の定、お客さんで賑わっていた。僕が座れる席が見当たらないぐらいに。

「コーディー君、すまないが今日は込んでててね。相席でもいいかい?」
「はい」
「ありがとう。おーい、ターニャ」

 僕が答えるとローレンツさんは奥さんのターニャさんを呼んだ。

「あら、コーディー君、久しぶり」
「お久しぶりです」
「ターニャ、コーディー君を角のテーブル席に連れてってくれるかい? 相席で構わないって言ってくれたから」
「あら、でも……」

 ローレンツさんの言葉にターニャさんは少し戸惑った様子だったが、ローレンツさんはニコッと笑って「大丈夫だから」と告げた。

 ……何が大丈夫なんだろう?

 僕はそう思ったけど、ターニャさんに「じゃあ、案内するわね」と言われて付いて行き、テーブル席の前まで来てターニャさんが戸惑った意味を知った。

「げっ」
「げっ、とはなんだ」

 僕が思わず声を上げると、ドレイクは僕を見て不服そうな顔を見せた。まあ、今のは僕が悪かったけど。

「ドレイクさん、コーディー君と相席してもらってもいいですか?」
「ああ、構わない」
「じゃあコーディー君、こちらに」

 ……相席ってドレイクと!?

 僕はそう思うけど、ターニャさんは他のお客さんに「奥さーん、注文いいかーい?」と呼ばれてしまった。

「はーい! じゃあ、あとで注文を取りに来るわね」

 ターニャさんはそれだけを言うとお客さんの元へ。そして僕はカウンターで忙しそうにしているローレンツさんに視線を向ける。するとローレンツさんはなぜかパチンっとウインクを見せた。
 けど、それは僕ではなく同じようにローレンツさんに視線を向けていたドレイクに、だ。

「あいつ……余計な事を」

 ドレイクは小さく呟き、それから立ち尽くす僕を見た。

「座らないのか?」
「あ……でも、相席していいの?」
「店に入った時からローレンツに今日は込むから相席になるかもしれない、と言われている。それに構わないと答えただろ? いいから座れよ」
「あ、そう?」

 ……なら、まあいいか。というか、このまま帰るのも変だしな。

 僕は肩掛け鞄を下ろして、ドレイクの前に座る。案内されたテーブル席は二人掛けで、なかなか狭い。そしてドレイクはすでに揚げた魚とポテトをつまみにビールを飲んでいる。おいしそうな料理に僕はくぅっとお腹が鳴る。

 ……僕も何か頼もうっと。

 早速メニュー表を開いて、何を食べようか迷う。

 ……うーん、今日はどうしようかな。ステーキにオムライス、コロッケ定食なんかもいいなぁ。……でも今日はちょっと暑いから、この夏限定のトマトと生ハムの冷製パスタでも頼もうかな。うん、そうしよう!

 決めたら早速注文する為に手を上げる。するとターニャさんが気が付いて、来てくれた。

「注文が決まった?」
「はい、このトマトと生ハムの冷製パスタを一つ、お願いします」
「冷製パスタね。飲み物はどうする?」
「お水を下さい」
「わかったわ。じゃあ、ちょっと待っててね」

 ターニャさんはそれだけを言うとカウンターの方へ向かった。注文をローレンツさんに伝える為だろう。

 ……トマトと生ハムの冷製パスタかー。

 なんて考えながら前を向けば、当然ドレイクがいるわけで。ドレイクは揚げた魚とポテトを交互に食べて、ビールを美味しそうに飲んでいる。
 なので腹ペコの僕はちょっと好奇心に駆られた。

 ……ビールってそんなにおいしいのかな。子供の頃にエニス姉さんが食堂で飲んでて、それをこそっと飲んでみた事があるけどすっごく苦かった思い出しかないんだよな。そしてその後、飲んでいる事がバレてエニス姉さんにすっごく怒られたっけ。……けど、ドレイクはすごくおいしそうに飲んでるし、エニス姉さんも『大人になったら美味さがわかるようになるさ』って言ってたなぁ。今の僕にわかるかな?

 なんて思いながら見ていたら「なんだ?」とドレイクに聞かれてしまった。

「いや、ビールを美味しそうに飲むなぁって」

 僕が羨ましそうに言えば、ドレイクは真面目な顔をして僕を見た。

「お前は酒は飲むな」

 全否定して言うから僕はムッとしてしまう。

「なんでっ」
「三カ月前の事を忘れたわけじゃないよなぁ?」

 ドレイクに指摘されて「あ」と僕は思い出す。自分の失態を。

「わかったな?」

 ドレイクに釘を刺されて僕は大人しく「はい」と答える。そしてドレイクを何気なく、じっと見つめる。

 ……ビールは置いといても、揚げたお魚とポテト、美味しそうだなぁ。

 お腹が空いている僕はついついじぃーっと眺めてしまう。意地汚いかもしれないけど、ドレイクがあんまりにも美味しそうに食べるんだもん。
 するとそんな僕の視線を感じたのか、ドレイクが聞いてきた。

「食べてみるか?」
「え、いいの!?」

 ドレイクはフォークに揚げた魚の一切れを刺して僕に差し出した。

「ほら。食べさせてやるから、あーんって」

 ドレイクはにやついた顔で僕に言ったけど、最後の言葉を聞くまでもなく僕は躊躇いなくパクっと食べた。

 ……んーっ! 衣がサクッとしてておいしー!

 僕はもぐもぐっと揚げ魚を食べる。でもドレイクは呆れた顔で僕を見ていた。

「ん、なに?」
「いや、お子様だったな、と思い返していた所だ」

 ドレイクは僕を見て、やれやれという風な感じで言った。

 ……何がお子様なんだ? あ、人のモノを欲しがったところが!? うーん、でもちょっと食べたかったんだもん。けど、お行儀良くなかったか。

「ごめん、つい」
「いや、それより芋も食べるか?」
「でもぉ」
「こっちもうまいぞ」

 ドレイクはそう言うとポテトをフォークで刺してさっきと同じように僕に差し出した。だからちょっと戸惑うけど、やっぱり誘惑に勝てなくて僕はぱくっと食べてしまう。

 ……この揚げてあるポテトも塩とハーブがかかってて、おいしぃ~!

 僕はもぐもぐと食べるけど、ドレイクはなぜかフォークを見つめている。

「どうしたの?」
「いや……なんだか癖になりそうだな、と思って」

 ……なにが?

 僕はわからず首を傾げる。でも、そこへターニャさんが僕の冷製パスタを持ってきてくれた。

「お待たせ、コーディー君。トマトと生ハムの冷製パスタとお水よ」
「わぁ、ありがとうございます!」

 僕は運んできてくれたターニャさんにお礼を言う。そして目の前に置かれた冷製パスタはとっても美味しそうだ。でも僕はそのパスタ皿をドレイクの方へ寄せる。

「なんだ?」
「ドレイクの少し貰ったから、ドレイクも僕のパスタ、少しどうぞ」
「別にいい」

 ドレイクは素っ気なく言ったけど、それじゃ僕の気が収まらない。

「貰ったのに悪いよ。少しだけどうぞ……まあ、本当にいらなかったら下げるけど」

 僕が言えばドレイクは仕方ないな、という顔でパスタを一巻きフォークで取った。そして口へ運んでもぐっと食べ、何も言わないけど瞳がうまいと告げていた。

「おいしい?」
「ああ」

 僕が尋ねればドレイクは短く答え、僕は自分の方へとお皿を引き戻してお祈りを捧げた後、一口食べてみる。そうすれば、とってもおいしい!

 ……冷たいパスタもおいしいなぁ! トマトの酸味に生ハムの塩気が絶妙で、なおかつ冷たいからスルスル食べれちゃう!

 僕はお腹も空いていたので、もぐもぐっとパスタを口に運ぶ。なので食事に夢中な僕は気が付いていなかった。ドレイクが僕の事をじぃーっと見ている事に。




 そしてドレイクが実はゴールウェイ姉さんと会っていた事も―――――。


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