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続編
24 ごめんね
しおりを挟む「あ、ちょっとっ!」
戸惑う僕も無視してドレイクはずんずんっと進んでいく。
そうしてドレイクは僕を訓練場の隅にある、訓練用の剣や盾、防具などが置かれている備品庫に連れ込んだ。
備品は綺麗に整理整頓されているが、締め切っているからか少々埃っぽい匂いがする。
……それにしても、なんでここ?
そう思えばドレイクは手を離して僕に振り返った。
「急に来るから驚いたぞ」
「あ、それはごめん」
僕が謝るとドレイクは気まずそうな顔をした。
「いや、それはいい。それよりどうして訓練場に? 本当に俺に会いに来たのか?」
「うん、まぁ」
「どうして」
ドレイクは眉間に皺を寄せて僕に尋ねた。
……やっぱりドレイクは酷いことを言った僕の事を怒ってるのかも。これは早く謝らなきゃ。
「その、この前の宿での事で……謝りに」
僕は言いながら、ちらっとドレイクに視線を向ける。するとドレイクは驚いた顔をした。
……あれ? なんで驚いてるんだろう?
「ドレイク?」
「どうしてコーディーが謝る必要があるんだ。謝るなら俺の方だろう」
ドレイクの言葉で、僕に悪い事したって思ってるんだ、とちょっと驚く。そしてその気持ちは顔に出ていたらしくドレイクは少し呆れた顔で僕を見た。
「なんだその顔は。俺だって人の心がないわけじゃないぞ……。あの日はすまなかった」
ドレイクは真面目な顔をして僕に謝った。どうやら本気で悪かったと思っているらしい。でもあの日の事を思い出して、心の奥で燻ぶっていた怒りが少しだけ再燃する。
「そうだよ。嫌だって言ったのに」
ムスッとした顔で言えば、ドレイクは殊勝な態度でもう一度謝った。
「悪かった。どうもお前が相手だと自制が利かない。いや、言い訳にはならないが。……謝りに行こうとも思ったが俺の顔も見たくないかと思って」
……それで僕に会いに来なかったんだ。いや、まあ実際怒ってはいたけど。
でもドレイクが本気で反省しているようなので、僕の中の怒りがゆらりと小さくなる。
「次に同じことをやったら、もう本当に許さないからね」
僕がじろりと睨んで言えば、ドレイクは「わかったよ」と答えた。
「本当に?」
「ああ、手を出さない」
……ここまで言うのなら仕方ない、許してあげよう。
僕の怒りはすっかり鎮火した。でも、僕はドレイクの謝罪を聞きに来たわけでも、責めに来たわけでもない。僕はここに来た目的を思い出して口を開いた。
「ドレイク」
声をかければ、ドレイクは僕を見た。だから僕も目を合わせて告げる。
「僕も酷いこと言って、ごめんね」
僕は謝ればドレイクは「は?」と首を傾げた。何を謝っているのかわからないって顔で。
「僕、ドレイクに色々と暴言を言ったでしょ。その……変態とか」
「ああ、あれか。俺は別に……もしかして謝りに来たってその事で?」
ドレイクに聞かれて僕は頷く。
「その、酷いこと言っちゃったって思って。それに荷物もうちに運んでくれて、一応ありがとう」
僕がお礼まで言うとドレイクは呆れた顔で僕を見た。だから僕は思わず「なに?」と聞いてしまう。するとドレイクは呆れた顔のままで答えた。
「本当、お前ってお人好しというか……馬鹿真面目だな」
「ちょ、馬鹿ってどういう」
「あれぐらいで俺が傷つくわけないだろ。それに……」
ドレイクはそこまで言うと僕を見て、堪らずと言った様子で口元に手を当ててくくっと笑った。なので僕はムッとしてしまう。
「それに、なんなの?」
「捨て台詞を思い出してな……。くくっ、おたんこなす、なんて口にする奴は初めてみたからよ」
ドレイクに言いながらも笑った。だから僕はちょっと恥ずかしくなる。確かに、子供っぽい言い方だったかもしれない。でも、あれかしか思い浮かばなかったんだもん。
「う、うるさいなぁ、ドレイクが悪いんでしょ!」
「ああ、そうだな。だけど……くふふっ」
ドレイクは僕の顔を見るとまた笑った。やっぱり失礼な奴だ!
……人の顔を見て笑うなんて! もう謝ったからさっさと帰ろっ。
「とりあえず言いたい事は言ったから僕は戻る。じゃあね!」
僕はくるりっと踵を返して、備品庫のドアを開ける。けれど、そのまま出て行こうとした僕の手をドレイクが掴んで引き留めた。
「ちょっと待て」
「なに?」
僕の用事は終わったんですけど? と言う視線をドレイクに向ける。しかしドレイクは手を離してくれない。
「ドレイク、僕にまだ何か用?」
僕が尋ねればドレイクは「あ、いや」と答えるけれど、僕から手を離してくれない。
……一体、何だって言うんだ?
僕はそう思うけどドレイクは俯き、なぜか戸惑っているようだった。本当に何なんだろう?
「ドレイク、聞いてる?」
僕が尋ねればドレイクは顔を上げ、僕を見て「あ」と小さく呟いた。まるで、何を見つけたみたいに。何だろう? と思っているとドレイクは僕に言った。
「コーディー、お前の肩に蜘蛛が下りてきそうだぞ」
ドレイクの言葉に僕はゾッとする。ちょうちょや昆虫は大丈夫だけど、蜘蛛だけはどうしても苦手で。というか、大っ嫌いなのだ!!
「うぎゃっ!!」
僕は思わずドレイクに抱き着く。勿論体格のいいドレイクは僕が抱き着いたところでよろめきもしない。でも驚いたようで「うぉっ」と声を上げた。
けど、そんなのどうでもいい。
「ドレイク、蜘蛛を追い払って!!」
「追い払えって……」
「はやくッ!」
僕が強く言えば、ドレイクは「わかった、わかった」と言ってドレイクは僕の後ろに手を伸ばした。それからちょっとして「追い払ったぞ」とドレイクは僕に言った。その言葉を聞いて僕はほっと息を吐く。
……よかったぁ。どうしても蜘蛛って苦手なんだよな、あの足がいっぱいあるところが……ううっ、ゾゾゾッとしてきた。
「ありがとう、ドレイク」
僕はお礼を言って顔を上げる。だけど顔を上げたら、ドレイクの顔がすぐ近くに見えて、それこそドレイクの目の光彩が見えるぐらい。なので僕は慌てて離れた。
「わわっ、ごめんっ!」
僕が謝るとドレイクは「いや、別に」と困った様子もなく答えた。でも僕は一人反省する。
……いくら蜘蛛が嫌いだからってドレイクに抱き着いちゃダメだろ。ドレイクは困ってないようだったからよかったけど。
そう思った時だった、トサッと何かが落ちる音が聞こえた。
「ん?」
音に視線を向ければ、そこには王城のメイドさんが近くを通りかかり空の洗濯籠を落とし、驚いた顔で僕達を見ていた。
しかし、僕の視線に気が付くとメイドさんは見てはいけないものを見てしまった、みたいな顔をして慌てて落とした洗濯籠を手にすると走り去っていってしまった。
……どうしたんだろう? 慌てて走って行ったけど、まるで逃げるみたいだったな。
僕はメイドさんが走り去った理由がわからず首を傾げる。でもドレイクはぽつりと呟いた。
「……あれは完全に勘違いしたな」
「なにが?」
問いかければドレイクはちらっと僕を見ただけで答えてはくれなかった。
……教えてくれたっていいのにイジワルだなぁ。
僕はますますムムッと眉間の皺が深くなる。けれど、ドレイクの騎士仲間が遠くからドレイクを呼んだ。
「おーい、ドレイクー。そろそろ時間だぞーっ」
その声に僕も戻らなければいけない時間だとハッとする。
……僕も魔塔へ早く戻らなきゃ! 用も済んだし、早く行こうっ!
「ドレイク、僕も魔塔に戻らなきゃいけない時間だから! じゃ!」
僕は駆け足で魔塔へと戻る。そんな僕にドレイクは「あ、おいっ!」と呼んだけど、僕は振り向かずにそのまま走った。
――――まあこの後、結局時間内に魔塔には戻れず、キラーニ姉さんにすごく心配されたんだけど。
それよりも『僕とドレイクが抱き合っていた』なんて噂が広まるなんて僕は知らずにいて。
なにより、また今日の内にドレイクともう一度会う事になるなんて僕は夢にも思っていなかった。
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