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続編

19 おたんこなすぅ! 前編

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 ――――空は分厚い雨雲に覆われて、早めの夜が来てしまった。

 辺りは薄暗くなり、雨はどんどん酷くなるばかりで止む気配はない。そして僕の家までの距離は歩いて二十分はある。走れば十分ぐらい着くかもしれないけど、そのころには濡れ鼠になっていることは間違いなし。

 ……まあ、すでにちょっと濡れちゃってるけど、どうしようかなぁ。もう傘を売ってるところもないし。これからどんどん夜になるし。これは濡れて帰るしかないかなぁ、やっぱり。けど貰ったケーキやドレイクに運んでもらっている食材もあるから。うーん、どうしよう。

 僕は降りやまない空を見上げて堂々巡りをする。でも、そんな僕にドレイクが声をかけた。

「コーディー」
「ん? なに?」
「すぐ近くに宿がある、そこで少し待つぞ」
「え、宿があるの?」

 僕は少し驚く。だって周りは商店ばかりで、宿がある雰囲気なんて微塵もないから。でも驚く僕の手を握るとドレイクは「行くぞ」と言って、小走りに夜道を駆ける。僕は手を引かれながらその後ろをついて行き、すぐ近くの路地裏に入った。
 そして雨に降られながら小さな明かりだけが点いている扉の前に辿り着く。

 ……看板も何も出てないけど、本当に宿なの?

 僕は疑問に思うけど、ドレイクは繋いでいた僕の手を離すとドアノブに手をかけ、躊躇いなく扉を開けた。
 そして中に入ると宿のエントランスというには薄暗く、怪しげな匂い。受付には一人のお婆さんだけが座っているだけだった。

 でもドレイクはそのお婆さんに声をかけた。

「部屋をひとつ借りたい」

 ドレイクが言うと後ろにいる僕をちらりと見て、それから部屋の鍵を受付の机の上に置いた。

「二階の隅の部屋だよ。説明はいるかい?」
「いや、結構だ」

 ドレイクは短く答えると鍵を手に取った。そしてすぐに受付横にある古びた階段を上がる。

 ……説明、聞かなくてもいいのかな? もしかして来たことがあるところ?

 僕は考えながらも受付のお婆さんにぺこっと軽く会釈をしてドレイクの後をついて行く。そしてドレイクは二階に上がると一番隅の部屋に向かい、お婆さんに貰った鍵で開けた。

 ガチャっと鍵が開く音が響き、ドレイクが先に中に入る。僕もそれに続く。
 部屋の中はあまり広くなく大きなベッドがあるだけのまるで寝る為だけに用意された部屋みたいだった。

 ……素泊まり用の宿屋なのかな? 一階にロビーとか食堂もなかったし。

 僕はそう思いながら肩掛け鞄を外す。するとドレイクに呼ばれた。

「コーディー」

 振り返ればドレイクはどこからか出してきたタオルを僕に手渡した。少し濡れていたのでありがたい。

「ありがとう」

 僕は素直に受け取り、わしわしっと雨で濡れた頭を拭きながら考える。

 ……ドレイクって僕には不愛想だし、無茶苦茶な奴だけど、根は優しいのかもしれないな。マダム達を手伝ってあげたり、なんだかんだで僕の荷物持ってくれたし。……でも僕の唇を奪ったのは許さないけど。

 僕はちらっとドレイクを見て思う。ドレイクも僕と同じように濡れた頭をタオルで拭き、そしておもむろにシャツを脱いだ。雨で少し濡れたからだろう。昨晩も見た逞しい上半身が現れる。

 ……僕も脱いで乾かそうかな。でもまた細いとか言われたらムカつくしなぁ。

 僕は首にタオルをかけて考え込む。けれど夜になり雨のせいもあって、少し冷えた空気に僕はぶるっと震えて、小さなくしゃみが出す。

「くしゅっ」
「おい、そのままだと風邪ひくぞ。お前も服を脱いどけ」

 ドレイクは僕のくしゃみを聞いて言った。けれどそんなドレイクに僕はじろっと視線を向ける。『朝の暴言、忘れてないぞ』という気持ちで。
 そして、その気持ちは届いたようでドレイクは居心地の悪そうな顔をした。

「朝は悪かったよ、もう言わない」

 ドレイクはそう宣言したけど、全然信用できない。でもその気持ちも伝わったのか、ドレイクは「それなら」と呟くと部屋に置かれている小さな棚からガウンを取り出した。

「これでも羽織っておけ」

 ドレイクに手渡されて、僕は仕方なく受け取る。

 ……そこまで言うなら、まあ大丈夫かな。

 僕はガウンを手に思う。でも用心に越したことはない。

「じゃあ、あっち向いてて」

 僕が言うとドレイクは「わかったよ」とため息をつきたそうな顔で答え、僕に背を向けた。ちょっと癪な言い方だったけど、これならば大丈夫だろう。
 僕は服を脱ごうとシャツのボタンに手をかける。

 けれど、そんな時だった。

『あっあんっ!』

 どこからかととても色っぽい声が聞こえてきた。だから僕は驚き、手を止めて声のした壁の方を向いてしまう。
 しかも声は収まるどころかどんどん大きくなっていく。

 ……こ、この声って、まさか。

「隣でヤってるな」

 ドレイクが僕の後ろに立って言った。なので僕は「ギャッ!」と驚いてぴょんっと飛び上がる。

「お前は猫か」

 ドレイクは僕の反応を見て呟く。でも誰だって後ろから突然声をかけられたら驚くと思う。けど、今はそれよりも……。

『あぁんっ、もっとぉぉぉ』

 色っぽい声に僕は恥ずかしくなる。

 ……ドレイクがヤってるって言ってたけど、つまりはそーいう事だよね。ま、まあカップルで泊まればそういう事もあるだろうけど。

 そう思えば、ドレイクはとんでもない事を言った。

「ここはそういう宿だから、しばらくしたら落ち着くだろ」
「え、そういう宿って」
「お前、やっぱり気が付いてなかったか」
「気が付いてないって……」

 僕が呟くと、ドレイクはニタリと笑った。

「ここはヤる為の宿。休憩所とも言うな」

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