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続編
16 ビーフシチューと大盛ステーキ定食
しおりを挟む……んー、どれどれ? 大盛ステーキ定食(普通のステーキ定食の二倍量)!?
朝もあれだけ食べたのに昼もたくさん食べるのだと知って僕は若干引く。
……二倍量ってどれだけなんだ。いくら何でも食べ過ぎじゃない? でもドレイクぐらいの体を維持するのには必要なのかも? 昨日の夜見たドレイクの上半身、すごかったもんなぁ。
僕はふと思い出す。そして同時にゴールウェイ姉さんが言っていた言葉も過った。
『ドレイクってのは、すっごい美形でね。王国騎士団でも一、二を争うぐらい強い剣の使い手で将来有望って言われてるの。でもそんな男だから、女の子にひっきりなしにモテてね。女の子をとっかえひっかえ』
……確かに性格はアレだけど、男の僕が見ても美形だもんなぁ。女の子にモテるっていうのもわかる気がする。
僕は長い前髪のすき間からちらりとドレイクを見る。
燃えるような赤い髪、凛々しい眉、鼻筋の通った端正な顔、琥珀色の瞳は強い意志を感じさせる。そして筋肉に覆われた屈強な体。
……これは女の子にもモテるよなぁ。実際女性たちの視線を感じるし。
店員や他のテーブル席に座っている女性達はドレイクをちらちらと見ていた。
……きっと、もしドレイクが一人なら誰かしら声をかけていたんだろうな。モテる男も大変だな。……でもそんな男が僕を抱きたいなんて……やっぱり変な夢でも見てるんじゃないのかな?
僕は自分の頬をつねってみる。しかし残念ながら痛い。けど急に頬を自分の頬をつねり始めた僕を変に思ったのか、ドレイクが怪訝な顔をした。
「何してるんだ」
「いや、これって夢かなっと思って」
「何言ってんだ?」
ドレイクは『急におかしなことを言い始めたぞ』と言いたげな顔で僕を見た。まあ、僕もドレイクの立場だったら同じ気持ちを抱くだろう。
「何でもないから気にしないで」
僕はそう言ったけどドレイクは『変な奴』という顔で僕を見る。まあ、いいけど。
でも不意にゴールウェイ姉さんの言葉の続きを思い出した。
『女の子にひっきりなしにモテてね。女の子をとっかえひっかえ。でも、あっちの方がすごく上手いらしくて、女の子は病みつきになっちゃうんだって。だから自分がフることはあっても、女の子からフラれることはないって話よぉ~』
……モテるのはわかるけど、女の子をとっかえひっかえなんて不誠実だ。まあ、ほぼ初対面の僕に『抱かせろ』なんて言う男に誠実さを求めるなんて無理な話か。
買い出しを手伝ってくれたり、このお店に連れてきてくれたりして、ちょっと上がったドレイクの印象は僕の中でまたちょっと下がる。
「おい、何を考えてる」
「別に何も」
「そうか? 俺に対して不名誉な事を考えているような顔をしてたぞ」
ドレイクに見透かされて僕はギクッとする。なので慌てて誤魔化した。
「べ、別にそんなこと考えてないよ! ただ……ドレイクはこのお店に今まで付き合った女の子とかも連れてきたんだろーなって思っただけ!」
僕が言えばドレイクは「は?」ととぼけた顔をする。だから僕はつい追及してしまった。
「だから、今までの彼女もここに連れてきたんだろうなって。さっきマダムが『今日は男の子と一緒なのね』って言ってたから」
「なんだ、そんな事か」
……そんな事! 僕なんて一度もそーいう事した事ないのに!
モテない男の僻みであるとはわかっていても、ちょっと嫉妬してしまう。けれど返ってきたドレイクの答えは意外なものだった。
「連れてきたことはない」
「え?」
「だから今まで付き合った女をここに連れてきたことはない」
驚く僕にドレイクは二回言った。
「そう……なの? じゃあ、マダムはどうして」
「普段俺一人で来るからだ。二人できたとしてもそれはローレンツとで……だからアイツ以外の誰かが一緒だったことに驚いたんだろ」
「へ、へー、そうなんだ」
……今までの彼女を連れて来た事がないなんて意外。でも、それならどうして僕は連れてきてくれたんだろ? お腹、すごく空いてたのかな?
僕はちょっと不思議に思ったけど一人で納得した。けどそんな僕を他所にドレイクは心底面倒くさそうな顔をした。
「大体、女と外を出かけると時間はかかるし、話は長いし、面倒くさい」
ドレイクの言葉に僕はふと姉さん達との買い物を思い出す。
……まあ、確かに姉さん達の買い物も長いもんなぁ。でも好きな子とのデートなんて楽しいと思うけどなぁ。
「じゃあ、どこで会ったりしてたの?」
僕はつい何気なく聞いてしまった。聞かなきゃよかったのに。
「相手の家だ。やる事なんて決まってるからな」
「やる事?」
……なんだろう。家でカードゲームとかするのかな? あ、ご飯を一緒に食べたりとか??
僕はそう思ったけど、ドレイクは僕を見てにやっと笑って答えた。
「男と女でやる事なんて決まってるだろ。そこまでお子様か?」
ドレイクに言われて僕はようやくそれが性的な意味だと知る。
……や、やる事ってもしかしてそう言う事っ!? い、いや、まあ好きな子がいたらそう言う雰囲気になるかもしれないけど。
僕は慣れない話題に少し頬を赤くしてしまう。そしてそんな僕を見てドレイクは呆れた顔をした。
「お前って本当に二十二か? でもまあ、見るからに誰とも付き合った事なさそうだもんな」
本当の事だけど、あんまりにも率直に言うものだから僕はちょっとムッとする。
……そりゃ、僕に恋愛経験はないけど、もうちょっと遠回しに言ってくれないかなぁ?!
「別に付き合った事がなくたっていいでしょ! 僕はまだ好きな人に出会ってないだけなんだから!」
僕が言うとドレイクは「ふーん」と興味なさそうに答えた。
……ムカつくなぁ~ッ!
僕はムスッとし始めるけれど、そこにマダムが頼んだ料理を持ってやって来た。
「はいはい、待たせたわね~。ビーフシチューと大盛ステーキ定食よ」
マダムは手際よく、僕とドレイクの前に料理を並べる。いい香りが一気に広がって僕のお腹がきゅうっと鳴った。怒っていてもお腹は減るから仕方がない。
「ありがとうございます」
僕がお礼を言うとマダムはにっこりと笑って「ごゆっくり」とだけ言うと去っていった。まだまだお客さんが入ってくるから忙しいんだろう。
……それよりもこのビーフシチュー、おいしそう!!
目の前に置かれたビーフシチューからはほんわかと湯気が立ちのぼり、ごろっしたじゃがいもに人参、玉ねぎとブロッコリー。たっぷりのお肉が入っていて、見るからに美味しそうだ。
そしてビーフシチューと共にきた小さなバスケットには二個のプチパンが添えられ、手をかざすとまだ温かい。
……パンも少し焼いてるみたい。パンにバターを塗っただけでもおいしそうだなぁ!
そう思いつつも僕はちらりとドレイクの方の定食を見てみる。
同じように小さなバスケットに入れられたパンが四個とオニオンスープ、そして大きなお皿にはマッシュポテトとブロッコリー、甘く煮られた人参。そこに分厚いステーキがどとんっと二切れも乗っていた。
到底僕には食べられない量だ。けど、ドレイクは何気ない顔で早速フォークとナイフを手に取っている。食べる気満々だ。
……ドレイクってやっぱり大食漢なのかも。毎月の食費、大変そうだなぁ。まあ、騎士なら騎士寮に住んでいるだろうし、個人で買わない限りそこまで食費はかからないだろうけど。というか、騎士の人ってこれぐらい食べるのが普通なのかなぁ?
僕はそんな事を思いつつもお祈りを捧げた後、スプーンを手に取る。だって目の前には美味しそうなビーフシチューがあるんだもの、ぜひ温かい内に食べたい!
なので僕はスプーンでビーフシチューのスープだけをひとすくいし、ふぅーっふぅーっと息を吹きかけて冷まし、パクっと食べる。
……んっ! おいしぃー!
だから僕はもうひとすくいして二口目を食べる。やっぱり美味しい。
……よし、お肉も食べてみよう!
ゴロッとしたお肉を一口頬張れば、噛んだ瞬間にホロホロと崩れていく。
その後、野菜も食べてみれば、じゃがいもや人参は味がしっかり染みてて、玉ねぎはとっても甘い!
ブロッコリーも新鮮なものみたいで、歯応えたがあって美味しい。
とにかく、もうすっごく美味しいのだ!
……う~ん、美味しい! 今度はパンに浸して食べてみよっ!
今度は手に伸ばして、まだほんわかと温かいパンを手に取って、一口大にちぎる。それをちょびっとビーフシチューに浸して食べれば。
……んふーっ! これもおいひーっ!!
僕はモグモグしながら感動する。でも目の前からクスッと笑う声が聞こえた。顔を上げれば、ドレイクが僕を見て笑っている。なんで??
「本当、正直な奴だな」
「え?」
……何がだろう?
何の事がわからないけど、ドレイクはそれだけを言うとまた食事を続けた。
……一体、何なんだ。正直って、何が??
僕は訳がわからないけど、でも料理が美味しいので手が止まらない。
なので、そのまま僕は食事を続け、ドレイクもものすごい速さで食べ進めた。
そして僕が食べ終わるのと同じぐらいに食べ終わったのだった。
――――それから食事を終えた僕達はお会計をしてお店を出ようとしたのだけれど……。
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