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続編
14 カチーン
しおりを挟む――――朝食を済ませ、歯を磨いて、僕はクローゼットから私服を取り出す。
……はぁ、どうしてドレイクと買い出しに。面倒だなぁ。
そう思ってもドレイクは椅子に座って僕の準備が終わるのを待っている。
……待たないで、そのまま帰ってくれたらいいのに。そして二度と僕に関わらないでくれたらいいのに。
僕は願いながら寝巻の上着を脱ぎ、タンクトップ姿になる。そして私服の白いシャツを着ようと手を伸ばしたけれど、不意に視線を感じてドレイクを見ればこちらをじっと見ていた。
まるで見つけた獲物が美味そうか品定めする猛獣のように。
……ひぇっ!
僕は慌てて服を着込む。でもドレイクは席を立つと僕にずんずんっと近づいてきた。
……な、なになになにーッ!?
猛獣の前で服を脱ぐのは不用心だった、と後悔しながら僕は近づいてくるドレイクに慌てふためく。だが、ドレイクはお構いなしでそんな僕の腰を突然両手でぎゅむっと掴んだ。
「ひゃっ!? な、なにす」
「やっぱり細いな。お前、何歳なんだ?」
心配されるように尋ねられて僕は「へ?」と戸惑いながらも正直に答える。
「に、二十二、ですけど?」
「二十二ッ!? てっきり十八くらいかと……それにしたって細すぎるな」
ドレイクは僕の腰回りを確認しながら文句を言う。
「べ、別にいいでしょ。細くたって」
……僕だって小柄なの、気にしてるんだから! いちいち細い細いって言わないでよ!
僕はムッとし、腰を掴むドレイクの手を払って離れる。
「そもそも僕が細くたってどうだっていいでしょ」
「いや、どうでもよくない。抱くなら肉付きがいい方がいい」
ドレイクの発言に僕はヒッと顔を引きつらせる。
「だから無理だって言ってるでしょ!!」
僕はそう言うけどドレイクは僕をじっと見つめると、ガバッと抱き着いてきた。
……ちょっと人の話聞いてたーッ!?
「ちょ、離しっ!!」
僕は離れようとするけど筋肉質なドレイクはビクともせず「やっぱり物足りないな」なんて失礼な事を呟いてる。なので、さすがの僕もカチーンときた。
……物足りないだとぉーっ!?!?
「もう離してよ! じゃないと、もう二度と口きかないからぁッ!!」
僕が本気で怒って言うとドレイクはパッと離れた。そしてむっすりしている僕を見てさすがに反省したようだ。
「悪かったよ。ついな」
「つい?」
ギロッと睨めば、ドレイクは罰悪そうな顔をしてちゃんと謝った。
「いや、すまなかった」
両手を上げて謝り、僕はフンッと鼻息を鳴らす。
「着替えるから、あっち行ってて。あとこっちを見ない!」
「……わかったよ」
ドレイクはしぶしぶと言った様子で僕から離れ、背を向けた。それを見て僕はズボンを履き替える。
……全く、細いだの、物足りないだの、失礼な人なんだから。まあ、素直に謝ったから許すけど。
「着替え終わったか?」
ドレイクは僕が着替え終わった事に気が付いて聞いてきた。なので僕はまだ怒ったままの声で「終わった」と答える。だってすぐに許したとなったら、また調子に乗りそうなんだもん。
でも、怒った声で言ったせいかドレイクは振り向いてすぐ僕の顔色を窺った。
「悪かったって。もう二度と言わない」
「……悪いと思ってるなら、今日は買い出しの荷物持ちして。じゃないなら、もう帰って」
むっすりとした顔のまま僕は強気に出てみる。するとドレイクは不服そうにしながらも「わかったよ」と答えた。その姿はまるで飼い主に怒られた猛獣……と言うより大きな犬みたいで、僕はなんだかちょっと楽しくなる。
……よーし、こうなったら今日は重いモノを買って荷物を運んでもらおう。一昨日は勝手に僕にチューしたし、昨日は家に泊まり込んだんだから、それぐらいしてもらわなきゃ釣り合わない!
僕は心の中でにやりとほくそ笑み、小麦粉や塩、オリーブオイルを今日の買い出しリストに付け加える。
「それより準備はできたんだろ? そろそろ出かけないと昼過ぎになるぞ」
ドレイクに言われて僕は「わかってる」と答えて、エニス姉さんに貰ったユニコーンのぬいぐるみが付けているいつもの斜めかけ鞄を身に着ける。
それを見たドレイクがぽつりと「……やっぱり本当に二十二か?」と呟いた。
二十二歳の男が身につけるものとしては、ぬいぐるみがちょっと子供っぽいからだろう。でもそんなの僕には関係ない、子供の頃にエニス姉さんに貰った大事なぬいぐるみなんだから。なので、僕はいちいち余計な事を言ってしまうドレイクにぎろりと睨みを入れた。
するとドレイクはハッとしてすぐに口を噤み、僕から目を反らした。余計な事を言った、と自覚したからだろう。
……全く、口は禍の元って言葉を知らないんだろうか。
僕はそう思いつつも何も言わない。ここでモタついていたら、お店がお昼休みに入って本当に買い出しが出来なくなってしまうから。
だから僕はドレイクにこれだけを言った。
「ほら、行くよ」
僕が言えば、ドレイクは「ああ」と答えてついてきた。
――――そして僕とドレイクは街に繰り出すんだけど。
まさかあんな事になるなんて、この時の僕はわかっていなかった。
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