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クリスマスには
1 それから冬 ※
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お久しぶりです。
クリスマスのお話の手直しが終わり、今日から三連休と言うことで、とどんと五話一挙投稿です(・ω・)
***************
――――それは落ち葉が地面に一面に広がり、冷たい空気が頬をさし始めた十一月下旬。
京助さんと恋人同士になった、ある日曜日。俺は京助さんの元へと訪れていた。
◇◇
「あ、んっ……京助、さんっ!」
漏れ出た声と共に、ギシギシッと軋みをたててベッドが揺れる。
そして窓から入る夕焼けが、汗に濡れる色っぽい京助さんを照らしていた。
「夏生、気持ちいいか?」
甘く熱を孕んだ声で問いかけられて、俺は体の内側から溶かされそう。
そして俺が「ん」と答えれば、京助さんは四つん這いになって耐えている俺の腰を掴み、甘く突き上げる。
「あっあっ、それっ、やだっ……んっ、京助、さんっ!」
俺は枕に顔を押し付けて息も絶え絶えに言うけど、京助さんは優しくしてくれなかった。むしろ抽挿を激しくして俺を責め立て、奥を抉る。
そんな事をされたらその強い刺激に堪えられるはずもなく、俺は体を震わせた。
「あっ、はっ! んーっ!!」
奥を押し開かれた俺は枕をぎゅっと握って体を震わせ、ゴムの中に精液を吐き出した。そして、それは京助さんも。
「くっ……夏生ッ……はぁ、はぁっ」
京助さんは俺の中で吐精し、荒い息を繰り返す。そして、少ししてからずるりと俺の中から出て行った。それだけで甘い快感が体に走る。
「んんっ、はぁっ」
解放された俺は上げていた腰を下ろし、横に転がる。麻痺したように体に力が入らない。だけどそんな俺を見て、京助さんはくせっ毛の黒髪を掻き上げながら覆いかぶさった。
「夏生」
俺の名を呼ぶ低い声。切れ長の欲情に染まった瞳、高い鼻梁にうっすらと開く唇。少し汗を掻いている姿は大人の色気が溢れ出している。
……うぅ、格好いい。
あんまりにも色っぽい姿で俺は今でさえ胸が苦しいのに、更に胸が忙しなく動く。それなのに京助さんはそっと俺に近寄って、優しいキスを落とした。
ちゅっちゅっと啄む様な京助さんのキスは麻薬みたいに俺を身体の芯から絆してしまう。
「んん、きょーすけさん」
「夏生、可愛いな」
京助さんは目を細めて、俺に言った。でも俺はムッとする。
「京助さん、俺もう二十三だよ? 可愛いって歳じゃないと思うけど」
……どちらかと言うと、格好いいって言われたい。
そう思ったが、京助さんはフッと笑った。
「仕方ないだろ、俺には夏生が可愛く見えているんだから」
……可愛くって。俺の事、どんな風に見えてるんだろ?
俺は眉間に皺を寄せて考える。でもどう考えても、もう可愛いって言われる姿はしていないと思う。けど、考えている内に俺のお腹がぐぅっと小さく鳴った。
「そう言えば、もう五時だな。そろそろ風呂に入って飯にするか。昼飯もまだだったし」
京助さんは時計を見た後、俺から離れて言った。なので俺も時計を見る。時刻は五時を少し過ぎた所だった。
……もう五時過ぎか。京助さんの家に来たのが昼過ぎだから……それから俺達ずっとベッドで。
考えると恥ずかしくなって俺は頬が熱くなってきた。しかしそんな俺に京助さんはゴムを外しながら尋ねた。
「夏生は風呂、どうする?」
……シャワーは浴びたいけど、まだベッドでゆっくりしてたいな。
未だ快感の余韻が残る体は怠かった。なので問いかけられた俺は「んー」と唸るが、京助さんはニヒルに笑った。
「なんなら風呂、一緒に入るか? 洗ってやるぞ、隅から隅までな?」
甘く、淫靡な誘いに俺はまた胸がぎゅっと苦しくなる。
「だ、大丈夫! 俺、後で入るからっ」
「そうか? じゃあ、俺は先に入ってくるから」
京助さんは残念そうにしながらも、床に散らばった服を拾うと裸のまま寝室を出て行った。その後姿を見送り、俺は「はぁーっ」と一人、息を吐く。
……甘い。甘すぎて溶けそう。京助さんが我慢してたのって、本当だったんだな。
俺は枕に顔を押しつけながら、改めて思う。恋人になって一線を越えた後の俺達は、会う度にシてばかりいる。まるで昔できなかった分を取り戻すように。
……京助さんに求められて嬉しいけど、恥ずかしいような。……うぅーっ。
俺はその恥ずかしさを隠すように頭をわしゃわしゃっと掻くと、体を起こして着けっぱなしのゴムを外した。中には俺が吐き出した欲望が詰まってる。
でも京助さんも同じぐらい欲望を吐き出してたことを思い出し、また勝手に頬が熱くなる。
……あー、もう考えるなっ!
俺はピンク色の思考を捨てるように、ゴムをゴミ箱に捨てた。
だが、そうしている内にさっきまで熱かった体は冷めてきて、十一月の寒さに俺は少しだけぶるっと身を震わせる。
……もうすっかり冬の寒さだな。
俺は暖を取るように両手で腕を擦り、床に落ちている下着とロングTシャツを拾って着込んだ。そしてベッドの端に追いやられていた毛布を引っ張って、またベッドに寝転ぶ。そうすればぬくぬくと温かい。
……けど京助さんと夏に再会して、もう冬か。なんだか早いな、来月は十二月だし。十二月と言えばクリスマス……か。今年は京助さんと過ごすクリスマスだな。一体、どうやって過ごそう?
俺は天井を見ながら想いを巡らす。なんたって恋人になって初のクリスマスなのだから。
……京助さんと過ごすクリスマス、一体何をしたら……あ、そうだ!
◇◇
「クリスマスデート?」
「そう、クリスマスデート!」
シャワーを浴び、京助さんが夕食に作ってくれたオムライスを前に俺は答えた。そして俺の目の前に座る京助さんと言えば、スプーンを持つ手を止めて問い返す。
「それはいいけど、クリスマスデートって何するんだ? 人混みが多いところは嫌だぞ?」
京助さんはそう言った後、止めていた手を動かしてぱくっとオムライスを口に運んだ。
……京助さん、人混みが苦手だからなぁ。あの夏祭りの時も辟易してたっけ。まぁ、最後は楽しんでくれたみたいだけど。
俺は懐かしいことを一瞬思い出す。だが、それは一旦置いて答えた。
「大丈夫だよ、人が多いところに行くわけじゃないから。ただ予約しないといけないから、クリスマスの日は空けておいてくれる?」
「予約……。まぁ、空けておくのはいいけど」
京助さんは何をするつもりなんだろうか? とでも言いたげな顔で俺を見る。なので俺はにこっと笑っておいた。
「楽しみにしてて。また日程が決まったら教えるから」
「……わかった」
その返答を聞いてから、俺は京助さんの手作りオムライスをはぐはぐっと食べる。
……クリスマス、もう今から楽しみだな。京助さんも楽しんでくれるといいけど。
俺は口をもぐもぐ動かしながら京助さんを見る。
「ん?」
「ううん、なんでもないよ。京助さん、オムライスおいしい」
「そうか? そりゃよかった」
京助さんはふっと笑って答えた。
―――それから数時間後、俺は玄関先にいた。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎる、そしてそろそろ現実に戻る時間だ。
「じゃあ京助さん、またね」
「ああ、気を付けて帰るんだぞ」
「京助さんこそ、徹夜し過ぎないようにね」
俺が注意すると京助さんは少し間を開けてから「わかってるよ」と答えた。でも、これはまた多分徹夜する気だ。
……京助さんってば、書き始めると没頭しちゃうからなぁ。前は家が近かったからすぐに様子を見に来れたけど、今では電車に乗ってこないといけない距離になっちゃったし。けど、まだ付き合始めたばっかりで一緒に住もうなんて。
「どうした?」
俺があんまりにじーっと見つめるものだから、京助さんは首を傾げた。
「ううん、なんでもないよ」
……一緒に住みたいけど、言うのはまだ早いよな。それに言ったとしても京助さんに拒否されたら嫌だし。いや、京助さんの事だから拒否はしないかもしれないけど無理はさせたくない。
俺は想いを心の内に留めて、玄関のドアノブに手をかけた。
「京助さん、また休みの前に連絡するね」
「ああ、待ってる」
「じゃあ行くね」
俺は出て行こうとした。しかし一歩を踏み出す前に京助さんが引き留める。
「あ、夏生、ちょっと待て」
「ん? どうしたの?」
振り返って言えば京助さんは「忘れ物」と言って、俺の後頭部に手を回すとちゅっとキスをした。
「っ! きょ、京助さんっ」
俺は突然のキスに驚き、口元に手を当てる。でもキスした京助さんは満足気だ。
「次、会うまでの充電」
「充電って……あれだけシたのに」
俺は日中の事を思い出して呟くけど、京助さんは色っぽく笑った。
「どれだけしても足りないよ。夏生となら」
甘い言葉に俺の体は疼いてくる。
……うぅ、そんなこと言われたら帰りたくなくなるじゃないか! このまま京助さんとベッドにそのまま戻りたい。……でも、明日は仕事だし。
俺は居残りたい気持ちをぐっと抑えて、もう一度ドアノブに手をかける。
「……帰る。このままいたら帰れなくなるから」
俺が口を尖らせながら正直に答えると京助さんは眉を下げてフフッと笑った。
「帰ってくれなくても俺はいいんだけど。……まあ、またな」
京助さんは俺の背中を押すように別れの言葉を言った。京助さんだってわかっているのだ、俺がもう社会人になったという事を。学生の時みたいに突然泊まったりできない事を。
「うん。じゃあね、京助さん」
「ああ、またな。夏生」
京助さんに見送られて俺は後ろ髪引かれる想いで家を出て行った。そしてエレベーターへと足を向ける。
……帰らなきゃならないのはわかるけど。帰りたくないな。
「はぁーっ」
俺は大きなため息を吐いて、廊下をとぼとぼと歩く。そして、そんな俺に夜の冷たく乾いた風がびゅうっと吹いた。
……来月になれば、もっと寒くなるだろうな。
ブルーな気持ちに冷たい風がよく染みる。だけど、その気持ちを振り払うように俺はエレベーター前に立ち、下行きのボタンを押した。
……なにか明るいコトでも考えよう。……そうだ、来月のクリスマスデート! 帰ったら調べて早々に予約しないと。
俺は夕方思いついたことを思い出して気持ちを明るくし、やってきたエレベーターに乗り込み、一階へのボタンを押す。
……京助さん、クリスマスデートを楽しんでくれると嬉しいな。
そんな事を思いながら、エレベーターはゆっくりと閉まった。
クリスマスのお話の手直しが終わり、今日から三連休と言うことで、とどんと五話一挙投稿です(・ω・)
***************
――――それは落ち葉が地面に一面に広がり、冷たい空気が頬をさし始めた十一月下旬。
京助さんと恋人同士になった、ある日曜日。俺は京助さんの元へと訪れていた。
◇◇
「あ、んっ……京助、さんっ!」
漏れ出た声と共に、ギシギシッと軋みをたててベッドが揺れる。
そして窓から入る夕焼けが、汗に濡れる色っぽい京助さんを照らしていた。
「夏生、気持ちいいか?」
甘く熱を孕んだ声で問いかけられて、俺は体の内側から溶かされそう。
そして俺が「ん」と答えれば、京助さんは四つん這いになって耐えている俺の腰を掴み、甘く突き上げる。
「あっあっ、それっ、やだっ……んっ、京助、さんっ!」
俺は枕に顔を押し付けて息も絶え絶えに言うけど、京助さんは優しくしてくれなかった。むしろ抽挿を激しくして俺を責め立て、奥を抉る。
そんな事をされたらその強い刺激に堪えられるはずもなく、俺は体を震わせた。
「あっ、はっ! んーっ!!」
奥を押し開かれた俺は枕をぎゅっと握って体を震わせ、ゴムの中に精液を吐き出した。そして、それは京助さんも。
「くっ……夏生ッ……はぁ、はぁっ」
京助さんは俺の中で吐精し、荒い息を繰り返す。そして、少ししてからずるりと俺の中から出て行った。それだけで甘い快感が体に走る。
「んんっ、はぁっ」
解放された俺は上げていた腰を下ろし、横に転がる。麻痺したように体に力が入らない。だけどそんな俺を見て、京助さんはくせっ毛の黒髪を掻き上げながら覆いかぶさった。
「夏生」
俺の名を呼ぶ低い声。切れ長の欲情に染まった瞳、高い鼻梁にうっすらと開く唇。少し汗を掻いている姿は大人の色気が溢れ出している。
……うぅ、格好いい。
あんまりにも色っぽい姿で俺は今でさえ胸が苦しいのに、更に胸が忙しなく動く。それなのに京助さんはそっと俺に近寄って、優しいキスを落とした。
ちゅっちゅっと啄む様な京助さんのキスは麻薬みたいに俺を身体の芯から絆してしまう。
「んん、きょーすけさん」
「夏生、可愛いな」
京助さんは目を細めて、俺に言った。でも俺はムッとする。
「京助さん、俺もう二十三だよ? 可愛いって歳じゃないと思うけど」
……どちらかと言うと、格好いいって言われたい。
そう思ったが、京助さんはフッと笑った。
「仕方ないだろ、俺には夏生が可愛く見えているんだから」
……可愛くって。俺の事、どんな風に見えてるんだろ?
俺は眉間に皺を寄せて考える。でもどう考えても、もう可愛いって言われる姿はしていないと思う。けど、考えている内に俺のお腹がぐぅっと小さく鳴った。
「そう言えば、もう五時だな。そろそろ風呂に入って飯にするか。昼飯もまだだったし」
京助さんは時計を見た後、俺から離れて言った。なので俺も時計を見る。時刻は五時を少し過ぎた所だった。
……もう五時過ぎか。京助さんの家に来たのが昼過ぎだから……それから俺達ずっとベッドで。
考えると恥ずかしくなって俺は頬が熱くなってきた。しかしそんな俺に京助さんはゴムを外しながら尋ねた。
「夏生は風呂、どうする?」
……シャワーは浴びたいけど、まだベッドでゆっくりしてたいな。
未だ快感の余韻が残る体は怠かった。なので問いかけられた俺は「んー」と唸るが、京助さんはニヒルに笑った。
「なんなら風呂、一緒に入るか? 洗ってやるぞ、隅から隅までな?」
甘く、淫靡な誘いに俺はまた胸がぎゅっと苦しくなる。
「だ、大丈夫! 俺、後で入るからっ」
「そうか? じゃあ、俺は先に入ってくるから」
京助さんは残念そうにしながらも、床に散らばった服を拾うと裸のまま寝室を出て行った。その後姿を見送り、俺は「はぁーっ」と一人、息を吐く。
……甘い。甘すぎて溶けそう。京助さんが我慢してたのって、本当だったんだな。
俺は枕に顔を押しつけながら、改めて思う。恋人になって一線を越えた後の俺達は、会う度にシてばかりいる。まるで昔できなかった分を取り戻すように。
……京助さんに求められて嬉しいけど、恥ずかしいような。……うぅーっ。
俺はその恥ずかしさを隠すように頭をわしゃわしゃっと掻くと、体を起こして着けっぱなしのゴムを外した。中には俺が吐き出した欲望が詰まってる。
でも京助さんも同じぐらい欲望を吐き出してたことを思い出し、また勝手に頬が熱くなる。
……あー、もう考えるなっ!
俺はピンク色の思考を捨てるように、ゴムをゴミ箱に捨てた。
だが、そうしている内にさっきまで熱かった体は冷めてきて、十一月の寒さに俺は少しだけぶるっと身を震わせる。
……もうすっかり冬の寒さだな。
俺は暖を取るように両手で腕を擦り、床に落ちている下着とロングTシャツを拾って着込んだ。そしてベッドの端に追いやられていた毛布を引っ張って、またベッドに寝転ぶ。そうすればぬくぬくと温かい。
……けど京助さんと夏に再会して、もう冬か。なんだか早いな、来月は十二月だし。十二月と言えばクリスマス……か。今年は京助さんと過ごすクリスマスだな。一体、どうやって過ごそう?
俺は天井を見ながら想いを巡らす。なんたって恋人になって初のクリスマスなのだから。
……京助さんと過ごすクリスマス、一体何をしたら……あ、そうだ!
◇◇
「クリスマスデート?」
「そう、クリスマスデート!」
シャワーを浴び、京助さんが夕食に作ってくれたオムライスを前に俺は答えた。そして俺の目の前に座る京助さんと言えば、スプーンを持つ手を止めて問い返す。
「それはいいけど、クリスマスデートって何するんだ? 人混みが多いところは嫌だぞ?」
京助さんはそう言った後、止めていた手を動かしてぱくっとオムライスを口に運んだ。
……京助さん、人混みが苦手だからなぁ。あの夏祭りの時も辟易してたっけ。まぁ、最後は楽しんでくれたみたいだけど。
俺は懐かしいことを一瞬思い出す。だが、それは一旦置いて答えた。
「大丈夫だよ、人が多いところに行くわけじゃないから。ただ予約しないといけないから、クリスマスの日は空けておいてくれる?」
「予約……。まぁ、空けておくのはいいけど」
京助さんは何をするつもりなんだろうか? とでも言いたげな顔で俺を見る。なので俺はにこっと笑っておいた。
「楽しみにしてて。また日程が決まったら教えるから」
「……わかった」
その返答を聞いてから、俺は京助さんの手作りオムライスをはぐはぐっと食べる。
……クリスマス、もう今から楽しみだな。京助さんも楽しんでくれるといいけど。
俺は口をもぐもぐ動かしながら京助さんを見る。
「ん?」
「ううん、なんでもないよ。京助さん、オムライスおいしい」
「そうか? そりゃよかった」
京助さんはふっと笑って答えた。
―――それから数時間後、俺は玄関先にいた。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎる、そしてそろそろ現実に戻る時間だ。
「じゃあ京助さん、またね」
「ああ、気を付けて帰るんだぞ」
「京助さんこそ、徹夜し過ぎないようにね」
俺が注意すると京助さんは少し間を開けてから「わかってるよ」と答えた。でも、これはまた多分徹夜する気だ。
……京助さんってば、書き始めると没頭しちゃうからなぁ。前は家が近かったからすぐに様子を見に来れたけど、今では電車に乗ってこないといけない距離になっちゃったし。けど、まだ付き合始めたばっかりで一緒に住もうなんて。
「どうした?」
俺があんまりにじーっと見つめるものだから、京助さんは首を傾げた。
「ううん、なんでもないよ」
……一緒に住みたいけど、言うのはまだ早いよな。それに言ったとしても京助さんに拒否されたら嫌だし。いや、京助さんの事だから拒否はしないかもしれないけど無理はさせたくない。
俺は想いを心の内に留めて、玄関のドアノブに手をかけた。
「京助さん、また休みの前に連絡するね」
「ああ、待ってる」
「じゃあ行くね」
俺は出て行こうとした。しかし一歩を踏み出す前に京助さんが引き留める。
「あ、夏生、ちょっと待て」
「ん? どうしたの?」
振り返って言えば京助さんは「忘れ物」と言って、俺の後頭部に手を回すとちゅっとキスをした。
「っ! きょ、京助さんっ」
俺は突然のキスに驚き、口元に手を当てる。でもキスした京助さんは満足気だ。
「次、会うまでの充電」
「充電って……あれだけシたのに」
俺は日中の事を思い出して呟くけど、京助さんは色っぽく笑った。
「どれだけしても足りないよ。夏生となら」
甘い言葉に俺の体は疼いてくる。
……うぅ、そんなこと言われたら帰りたくなくなるじゃないか! このまま京助さんとベッドにそのまま戻りたい。……でも、明日は仕事だし。
俺は居残りたい気持ちをぐっと抑えて、もう一度ドアノブに手をかける。
「……帰る。このままいたら帰れなくなるから」
俺が口を尖らせながら正直に答えると京助さんは眉を下げてフフッと笑った。
「帰ってくれなくても俺はいいんだけど。……まあ、またな」
京助さんは俺の背中を押すように別れの言葉を言った。京助さんだってわかっているのだ、俺がもう社会人になったという事を。学生の時みたいに突然泊まったりできない事を。
「うん。じゃあね、京助さん」
「ああ、またな。夏生」
京助さんに見送られて俺は後ろ髪引かれる想いで家を出て行った。そしてエレベーターへと足を向ける。
……帰らなきゃならないのはわかるけど。帰りたくないな。
「はぁーっ」
俺は大きなため息を吐いて、廊下をとぼとぼと歩く。そして、そんな俺に夜の冷たく乾いた風がびゅうっと吹いた。
……来月になれば、もっと寒くなるだろうな。
ブルーな気持ちに冷たい風がよく染みる。だけど、その気持ちを振り払うように俺はエレベーター前に立ち、下行きのボタンを押した。
……なにか明るいコトでも考えよう。……そうだ、来月のクリスマスデート! 帰ったら調べて早々に予約しないと。
俺は夕方思いついたことを思い出して気持ちを明るくし、やってきたエレベーターに乗り込み、一階へのボタンを押す。
……京助さん、クリスマスデートを楽しんでくれると嬉しいな。
そんな事を思いながら、エレベーターはゆっくりと閉まった。
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