京助さんと夏生

神谷レイン

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その後のふたり2 ※

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 ―――――二時間後。
 チャイムが鳴り、俺は慌ててドアへ駆け走る。そして急いでドアを開ければ、京助さんが玄関前に立っていた。

「早く着いたけど、よかったか?」

 京助さんは窺うように俺に尋ねた。約束の時間より五分ほど早かったからだろう。でも、そんなの構わない。早く会えて嬉しい。

「待ってたから、全然大丈夫だよ~」

 俺が答えると京助さんはすぐに異変を感じ取り、眉間に皺を寄せた。

「夏生?」
「ほらほら、早く中に入って」

 京助さんは問いかけるように名前を呼んだが、俺は気にせずに京助さんの腕を引っ張った。そうすれば、京助さんは「あ、ああ」と慌てて靴を脱ぐ。
 そして俺は部屋の中に京助さんを連れ込んだが、でも様子のおかしい俺に京助さんは声をかけた。

「夏生、どうしたんだ?」
「別にどうもしてないよー」
「そうか?」

 京助さんは怪訝な顔をしつつも、手に持っていた白い箱を俺に差し出した。

「これ、手土産」

 見れば、駅近くにある有名なケーキ屋さんのだ。

「ありがとう。あとで一緒に食べよー」

 俺はお礼を言って受け取り、白い箱を冷蔵庫の中に入れる。その間に京助さんは「洗面所、借りていいか。手を洗ってくる」と言って手を洗いに行った。
 そしてすぐに戻ってきたが、そんな京助さんの前に俺は立つ。

「……夏生?」

 京助さんは俺を見て問いかけるけど、それを無視して俺は京助さんに抱き着いた。外を歩いてきた京助さんの体は熱く、少し汗の匂いがする。でもその熱も、匂いも、心地いい。なにより好きな人に触れる喜びに俺は酔いしれた。

 ……俺、もう恋人だもんね。

 俺はそう思いながら京助さんにぎゅっと抱き着く。
 けれど、京助さんは「夏生、ちょっと離れて」と寂しいことを言う。なので、俺はちょっとムッとする。

「いやだ」

 そう俺は拒否したけれど、京助さんに「夏生」と呼ばれて、渋々と離れた。

 ……京助さん、俺にハグされるの嫌なのかな。

 俺はしょんぼりしながらそう思ったけど、京助さんは俺の顎を片手で持ち上げると顔を近づけてきた。

 ……もしかしてキスされる?!

 俺は慌てて目を瞑る。けれど、京助さんは鼻先が触れ合うほどの距離まで近づくとクンッと匂った。

「……夏生、酒を飲んだのか?」

 京助さんに尋ねられて俺は目を開ける。京助さんの言う通り、俺はワインを二杯も飲んでいたから。そして俺の顔を見て、京助さんは「やっぱりか」と呟いた。

「どうしてわかったの?」
「どうしてって……見ればわかる」
「京助さん、探偵みたーい」

 俺はほわほわした気分でアハハッと笑う。
 そんな俺を京助さんはじっと見つめた。

「で、なんで酒を飲んだんだ?」
「ダメだった?」
「いや、ダメじゃないが……どうしてなのかと」

 京助さんは不思議そうにしながら俺に問いかけた。
 なので、俺は京助さんの手を取る。

「京助さん、こっちにきて。ここ、座って」

 俺は京助さんの手を引いて、狭い1Kの部屋のベッドに座らせた。そうすれば京助さんは肩にかけていたバックを床に落とし、戸惑いながらベッドの上に座って俺を見上げる。

「夏生?」

 名前を呼ぶ京助さんの肩に俺は両手を置く。そしてハッキリと告げた。

「京助さん、俺とえっちしよう」
「……は?」

 京助さんはぽかんっと口を開けて俺を見た。

「だから、俺とえっちしよう」

 俺はもう一度、京助さんに告げる。すると京助さんは目を少し細めて、呆れた顔を見せた。

「夏生、相当酔ってるだろう」

 いつの日かと同じように返されて俺はムッとする。でも今日の俺は酔ってる自覚がある、なので。

「酔ってるよ。酔うように飲んだんだから」

 俺が答えると、京助さんはわからないという顔をした。だから俺はムッとした顔のまま答える。

「だって、京助さんが言ったんじゃん。俺に色々するって! なのに、何もしてくれないから……俺、準備もしてるんだよ」

 俺はベッドの枕元にそっと置いておいた、コンドームとローションに視線を向ける。そうすれば京助さんもちらりとそれを見て、それから俺に尋ねた。

「だから酔った勢いで俺を誘おうって?」
「そーでもしないと京助さん、俺に手を出してくれないじゃん。……それとも本当は俺とそういう事したくない? 俺って魅力ない?」

 俺は最後の方、少し声を落として告げた。だってそれはここ一カ月、ずっと不安に思っていた事だったから。

 ……京助さんは俺に色々するって言ったけど、本当は俺の体が好みじゃないのかもしれないし。やっぱり、もっとムキムキの方が良いのかな。家に置いてあったDVDもそんな感じだったし。

 俺はそんな事を思うが、京助さんは「ハァーッ」と深いため息を吐いた。
 そしてぽんぽんっと自分の太ももを叩いた。

「夏生、ちょっとここに座りなさい」
「え? でも俺、重いよ? それに……」

 ……京助さんの膝の上なんて、恥ずかしいな。

 でも躊躇う俺に京助さんは催促する様に「いいから」と言った。
 なので、俺はおずおずと京助さんの太ももの上に座る。まるで抱っこされている小さな子供みたいでちょっと恥ずかしい。それに京助さんとの距離も近すぎる。でも京助さんは俺を逃がさないとでも言うように、しっかりと腰に手を回した。

「夏生、全部間違ってる」
「間違ってる?」

 何がだろう? と問いかける前に京助さんは俺に顔を近づけて言った。

「俺がどれだけ我慢していたか、夏生は全然わかってない」
「え、我慢??」
「夏生が高校生の時から、俺は手を出したかった。いや、何度手を出しかけた事か……。でも夏生は未成年だった。だから堪えて、頭の中だけで夏生を犯して、裸を想像するだけで我慢した」

 ……なっ!? は、ハダカ!?

 京助さんの告白に俺の方が恥ずかしくなって頬が熱くなる。けれど、俺の恥ずかしさなんてお構いなしに京助さんは続けた。

「それなのに夏生は無邪気に俺に好意を寄せてくるし。あの最後の日だって、どれだけ俺が我慢したか……理性を総動員して、堪えるの大変だったんだぞ。それに今だって、こんな風に誘惑して」

 京助さんは艶めかしい目つきで俺を見つめる。だから思わず俺は目線を外してしまった。

「じゃ、じゃあ、我慢しなくていいじゃない。俺はもう大人だし」

 俺が呟くと京助さんはもう一度「ハァッ」と深いため息を吐いた。

「今の話を聞いてたか? 俺は夏生が高校生の時から知ってるんだ。大人になったからって、すぐに手を出せるか。……それに男とのやり方を知ってるんだろうか、とか。本当にこんなおっさんがまだ若い夏生に手を出していいんだろうかとか、色々と思う所があったんだよ。……だけど、それももう止めだ」

 京助さんはそう言うと俺を抱き寄せて、耳元で告げた。

「夏生。お前を抱く、いいな?」

 望んでいた言葉だけど、こうもハッキリと言われてしまうと胸がぴょんっと飛び跳ねてしまう。そして京助さんは怪しい光を瞳に宿して俺を見つめ、その瞳に俺はドキリとする。

「きょうすけさ、んんっ!」

 名前を呼ぼうとしたら、予告もなく京助さんの唇で口を塞がれてしまった。しかも今までのキスとは違う。
 俺の唇を食み、舌を絡め、まるで俺を食いつくそうとする激しいキス。
 そのキスに驚いて俺は体を引こうとするけれど、後頭部と腰を京助さんにがっしりと捕まえられて逃れることができない。

「んふっ、んんっ!」

 唾液が混ざる音が脳天に響き、京助さんの舌が俺の口腔内を蹂躙する。
 気持ちよくて、ちょっと怖い。俺は息もできずに京助さんのキスに溺れ、唇が離れた頃には息も絶え絶えだった。

「はっ、はぁっはぁっ」

 俺は京助さんにしなだれかかって息を吸って吐き、呼吸を整える。でも京助さんは息も乱さずに俺の耳朶をかじっと食んだ。

「んっ」
「夏生は甘いな」

 京助さんが色っぽく言うから俺は頬がどんどん熱くなる。

「俺、甘くなんか」
「いや、どこもかしこも甘い」

 京助さんは言いながら俺のほっぺにちゅっと唇を寄せた。

 ……甘いのは京助さんだよ。

 俺は心の中だけで呟く。でも黙る俺を見て、京助さんはくすっと笑った。

「これぐらいで恥ずかしがってちゃ、この先の事、できないぞ?」
「別に恥ずかしくなんか……ないし」

 本当は恥ずかしいけど、俺は精一杯見栄を張って言う。すると京助さんは「本当に?」と言いながら俺の股間にいやらしく手を当てた。
 だから思わず息を飲み、そんな俺を見て、京助さんは最後の優しさを見せた。

「やっぱり……止めとくか?」
「やめない!」

 問いかける京助さんに俺はすぐさま答えた。
 だって、ここでやめたら次はいつになるかわからない。それに恥ずかしいだけで、触れられるのは純粋に嬉しいから。
 だから俺は京助さんにぎゅっと抱き着いた。

「京助さん……やめないで。俺を抱いてよ」

 俺が頼むように言えば、京助さんは少し間を開けてから俺を抱き締め返し、「ハァ~」と困ったような溜め息を吐いた。

 ……どうして溜め息!?

「きょう、すけさん?」

 少し体を離してみれば、京助さんは何とも言えない表情で俺を見た。

「本当、お前ってやつは……煽りの天才か?」
「え、あおり?? うわっ!!」

 何が? と思った時には俺はベッドに押し倒されていた。そして見上げれば京助さんは俺を見つめていた。その目には欲情の色が宿っている。

「夏生……もう止められないからな」

 京助さんはそう言うと俺の唇に触れ、Tシャツの中に手を滑らせた。熱い手が体に触れて、俺はぴくっと体が動いてしまう。けど、京助さんは手を止めずに俺の胸の尖りを見つけて指先で弄り始めた。

 摘まんだり、指先で引っかいたり、親指で揉まれるとたまらない気持ちになる。しかもそれが好きな人なら猶更だ。

「んっ、んんっ、きょう、すけさんっ」

 俺はシーツを握り、俺の首筋にちゅっちゅっと口付ける京助さんの名を呼ぶ。けれど、京助さんは容赦なく俺のTシャツを捲り、弄っていた胸の尖りに唇を寄せた。柔らかい唇でぢゅうっと強く吸われて、熱くて湿った舌先でぬるりと舐められると今まで感じた事のない刺激が体に走って思わず声が出る。

「あっ、ん!」

 自分のやらしい声が恥ずかしくて俺は手の甲で口を塞ぐ。けど京助さんは止めてくれないから、声が止められない。

「んんっ、はっ、んっ」

 熱い吐息を吐き、快感を逃そうとするけど京助さんは俺の先っぽを舌先で押し潰しながら尋ねてきた。まるで密でも出そうとするように。

「気持ちいいか?」

 その光景とジンジンと痺れる先っぽに俺は快感だけが体に溜まり、その快感は顕著に下半身に現れる。

「ズボン、きつそうだな。服、脱がせるぞ」

 京助さんは体を動かすと、俺のTシャツを脱がせ、それからズボンにも手をかけて下着ごとはぎ取った。そうすれば、俺の息子がビョンッと勃つ。
 そこを京助さんはまじまじと見た。だから俺は恥ずかしさに体を起こして、思わず両手で隠した。

「あんまりジロジロ見ないで」

 恥ずかしさを感じて言えば、京助さんは俺ににこりと笑った。

「断る。今まで、ずっと夏生の裸を想像するばかりだったからな。どこかしこも見せてもらうぞ」

 思ってもない返答に俺は頬が熱くなる。
『俺の裸を想像して、何したの?』なんて聞けない。でも、想像上の俺はきっと京助さんにいやらしいことをされたんだ、という事だけはわかる。
 そして、これからそれが現実でも起こるという事も。

「うっ……お、俺だけ脱ぐの、ずるい。京助さんも脱いで」

 俺が京助さんのシャツを引っ張れば、京助さんは「そうだな」と言って男らしく服をベッドの下に脱ぎ捨てた。
 そうすれば、そこには初めて見る京助さんの裸があって、自分の事は見るなと言ったくせに、京助さんをまじまじと見てしまう。

 逞しい肩に、弛みのない薄っすらと筋肉のついている上半身、そして勃ち上がっている京助さんのモノに俺は息を飲む。
 大きさもそうだけど、俺で興奮してくれているんだと言う事になんだか変に感動してしまう。
 でもドキドキしている俺を京助さんはそっと抱き締めた。

 肌が直に触れ合って、京助さんの逞しさと匂いが伝わって、俺は更に胸がドキドキしてしまう。心臓が破裂しちゃうんじゃないかってぐらい。

 ……京助さんと裸で抱き合ってるッ! は、恥ずかしぃー! 

 ドキドキし過ぎて、心臓が痛い。でもそんな俺の匂いを嗅ぐように京助さんは深く息を吸った。

「夏生はいつもいい匂いがするな」
「京助さんだって、いい匂い、だよ」

 俺とは違う男らしい匂い。俺の一番好きな匂い。
 でも、答えた俺に京助さんは笑った。

「そんなこと言って、俺はもう加齢臭を気にする年だぞ? それにここに来るまでに少し汗かいたし、むしろ汗臭くないか?」
「俺、京助さんの汗の匂いも好きだよ」

 俺は京助さんの首筋をくんっと匂って言った。

 ……やっぱりいい匂い。なんていうのかな、色っぽい匂いというか。惹かれる匂いというか。ずっと嗅いでたい匂い、って感じかな。

 俺は何とも比較できない京助さんの香りに酔いしれる。
 でもそんな俺の尻の割れ目に京助さんはするりと手を伸ばした。

「っ!」
「じゃあ、もっと汗を掻くことをしようか」

 京助さんは体を少し離して俺に聞いた。だから答えはひとつ。

「うん」
「じゃあ……夏生、横になって」

 京助さんに言われて俺は素直に従う。その間に京助さんはベッドに置いていたローションを手に取った。そして蓋を開けて、ローションを手のひらに出す。
 俺はドキドキしながらその様子を眺め、京助さんは俺の膝に左手を置いて「足開いて」と促した。
 足を閉じていた俺はゆっくりと開き、誰にも見せた事のない場所を京助さんに晒す。

 ……は、恥ずかしくて死にそう。

 京助さんの視線を感じ、俺は羞恥に堪えられなくて顔を枕に押しつける。

「はぁ……夢にみた光景だな」

 京助さんはぽつりと呟き、その言葉につられて視線を向けるとひんやりとしたローションの感触と共に京助さんの中指の先っぽがお尻に入ってきた。

「ぁっ、んん」

 京助さんは第二関節までゆっくりと入れると、中の浅いところを探るように触った。

「痛くないか?」
「ん、いたくない、よっ」

 痛くないけれど、恥ずかしさで俺はどうにかなりそうだった。

 ……うー、こんなに恥ずかしいなら、もう少しお酒の力を借りておくべきだった。

 俺は京助さんに体を弄られながら、心底そう思った。でも、すっかり酔いが醒めてしまった今では遅すぎる。
 そして後悔している間に京助さんの骨ばった指が俺の中へ、すっぽりと入った。
 長い指がローションの力を借りて、ぬるぬると出入りし、俺の内側を愛撫していく。その度に、俺は体の中に火が灯されたみたいにじわじわと熱くなる。

「んぁっ、んっ……はぁ、あっ!?」

 ある部分を触られ、俺の体はビクンと揺れる。

「ここが夏生のいいところか」

 京助さんは楽し気に笑うと、そこばかり弄ってきた。

「あっあっ! 京助さんっ、や、そこ、ばっかり、ああっ!」
「気持ちいいだろ?」
「んんーっ!」

 俺は少し腰を浮かせて、声にならない返事をする。でも、京助さんは止めないどころか指を二本に増やし、その上あろうことか。

「そろそろ、こっちも気持ちよくなるか」

 京助さんはそう言うとおもむろに頭を下げて、反り返った俺の息子を躊躇いなく口に含んだ。熱く、唾液で湿った口の中。その中で蠢く舌に舐められたら、経験のない俺なんか限界がすぐに訪れる。

「あ、ダメダメ! 京助さんっ、俺、イっちゃう!!」

 思わず京助さんの頭を押さえて俺は叫んだ。でも京助さんは離してくれなくて。

「じゃあ、少し我慢しような」

 京助さんはそれだけを言うと開いていた左手で根元をぎゅっと握るとそのまま舐め続けた。
 じゅるっと音を立てて舐められ、その感触に、その光景に、その熱気に俺は喘ぐしかない。

「あっ、あああっ! んんーっ!! きょ、すけ、さんっ、もっ、きもち、よすぎる、からぁっ! んぁっ!」

 俺は必死に訴えるのに、京助さんはお尻を弄るのは止めてくれないし、口に俺のを含んだままだし、快感の波が言葉通り、息つく暇もなく押し寄せて、俺は自分の体がどうにかなってしまいそうだった。
 それなのに京助さんってば。

「夏生、かわいいな」

 なんて俺のを舐めながら言うから、その色気に中てられてクラクラしてしまう。そして下半身にそれは響き、もう我慢するのが痛いぐらいだった。

「きょう、すけさんっ、もぅ、出したいッ」

 俺が懇願する様に言えば、京助さんは「はぁ」と熱い吐息を零しながら体を起こし、「俺もだ」と男らしく笑った。そして下半身を見れば、京助さんのも腹につくぐらい反り返り、いきり勃っていた。その姿に俺は思わず、ごくりと喉を鳴らす。

 ……こんなに淫らな姿があるだろうか。

 京助さんの姿を見て、そう思う。そして、これからあの剛直を自分の体で受け止めるんだと思うと京助さんに弄られて柔らかくなった尻が疼いた。
 でも考えている間に京助さんは枕元のゴムの箱に手を伸ばし、一枚取ると自分のモノにしっかりとつけた。

 ……ああ、本当に俺、京助さんに抱かれるんだ。

 今更ながらに改めて思う。

「夏生」

 京助さんはゆっくりと俺に覆いかぶさり、俺を見つめた。だから俺は熱に浮かされた頭で京助さんを見つめ返す。ぎらついた瞳に見つめられて、胸の奥が痛い。

「京助さん」
「夏生、ゆっくりするから、もし痛くなったら言うんだぞ」

 京助さんはこんな時になっても俺を優先するから、俺は思わず笑ってしまった。

「うん。……でも大丈夫だから。早くくっつきたい」

 京助さんの足に自分の足を摺り寄せて答えると京助さんはピタッと動きを止めた。

「京助さん?」
「……計算なしでやってるところが怖いな」
「え?」
「入れるぞ」

 戸惑う俺を無視して京助さんはローションを手に取ると、再びたっぷりと俺のお尻に塗り、その後ぐりっと自分のモノを入り口に擦りつけた。

 ……うっ、京助さんの、くっついてる。

 恥ずかしくって俺はつい無言になってしまう。でも意識はお尻に集中していて。
 京助さんはノックするみたいに、ツイツイと入り口に擦りつけてくる。そのじれったさにお尻がもぞもぞして、恥ずかしさと緊張で体に力が入ってしまう。

 ……これじゃ、拒んでるみたいっ。でもどうやってこの緊張を解いたら。

「夏生、こっちを見て」

 俺が困っていると京助さんは俺の名前を呼んで、ぺろっと俺の唇を舐めた。そして甘いキスをしてくる。
 ちゅっちゅっと啄む様に唇に触れ、柔らかく俺の唇を食む。
 その甘さに俺はうっとりし、少し体の緊張が解れた。そして、それを京助さんが見逃すはずもなく、ぐっと腰を進めてくる。
 思っていた以上の大きさに圧迫感を覚え、俺は思わず息を詰める。

「夏生、大丈夫か?」

 京助さんは心配そうな顔をして俺に尋ねた。きっと今『痛い』とか『無理』とか言えば、京助さんはすぐにやめてしまうだろう。そんなのは絶対に嫌だ。
 それに苦しいだけで、痛くはない。

「ん、大丈夫。だからっ、続けて」

 俺は京助さんに頼んだ。そうすれば京助さんはゆっくりと腰を動かした。そして何度目かで、ぐちゅっと奥まで俺の中に入った。

 ……京助さんの全部、俺の中に。

 そう思ったら、なんだか嬉しさが溢れてきて、俺はぽろぽろと涙を零した。

「夏生!?」

 京助さんはいきなり泣き出した俺にギョッとし、心配そうに声を上げた。そして腰をすぐに引こうとするから、俺は両足で京助さんの腰を捕まえ、慌てて否定した。

「ち、ちがっ、違うから。なんか、すごく、嬉しくてっ。ずっと、ずっと、こうなりたいって、思ってたからっ」

 ひんひんと泣きながら言うと、京助さんはくしゃっと笑った。

「夏生はやっぱり泣き虫だなぁ。……いや、また俺が泣かせたのか」

 京助さんはそう言うと俺の目元に唇を寄せて、涙を吸った。

「泣き止め夏生」

 京助さんはそう言うと、ゆっくりと腰を動かし始めた。おかげで意識がそちらに持って行かれて涙が止まっていく。ローションの力を借りて、ぐちゅぐちゅと音を鳴らしながら俺の中を擦る。

「あっ、んっ! んっ!」
「夏生、気持ちいい?」

 京助さんの余裕のない声に俺は胸がぎゅうっと締め付けられる。それに体の中の圧迫感はいつの間にか気持ちよさに変わっていた。

「はぁっはっ、きもちぃ。きもちいーよ、きょうすけさんっ」

 俺が喘ぎながら言えば、京助さんは「くっ」と小さく呻き、俺をしっかりと抱き締めると俺に小さく謝った。

「悪い、もう我慢できない」

 京助さんは切羽詰まったように言うと腰を激しく打ち付けてきた。
 その激しさに俺は体を揺さぶられ、息が乱れる。でも、そんな俺の口を京助さんは塞ぎ、その上、片手で俺のモノを擦り上げてきた。そんな事をされれば、俺なんてひとたまりもない。

 快感に体を支配されて、何一つ自由にできない。できるのは京助さんにしがみつく事と、気持ちよさに小さく震えるだけ。
 そして俺はあっけなく達した。

「んふっ、んんんんーーーっ!!」

 腰を震わせ、俺はびゅくびゅくっと腹の上に射精する。気持ち良すぎて、頭が回らないのに体だけが勝手にぴくぴくっと動いてしまう。
 そして、京助さんも俺の一番奥に剛直をねじ込むと腰を震わせて、達した。

 ……京助さんの、ゴム越しでもわかるくらい出てる。

 俺は整わない息を吐きながら、ぼんやりとした頭で思う。
 でも、そんな俺を京助さんは同じく息を乱しままぎゅっと抱き締めた。互いに汗ばんだ肌が触れ合って、なんだか気持ちいい。
 今まで欠けていた部分がじんわりと充足感で満たされる。

 ……このまま京助さんと溶けちゃいたいな。

 俺は京助さんの熱い体を感じながら思う。すると京助さんが。

「このまま夏生と溶けたいな」

 なんて言うから俺はふふっと笑ってしまう。

「夏生?」
「俺もおんなじこと、かんがえてた」

 俺が正直に答えると京助さんは目を細めて「そうか」と言った。その瞳がすごく愛おしそうに俺を見るから、つい照れてしまう。
 けれど畳みかけるように京助さんは。

「夏生、好きだ」

 優しい声で言うから俺の胸はぴょんっと跳ねる。でも、照れないで俺も伝えたい。

「俺も、京助さんが好き」

 素直に口にできる喜び。そして笑顔で受け取ってくれる京助さんが傍にいて、俺は全身で幸せを感じた。

 ……誘うの恥ずかしかったけど、やっぱり誘ってよかったな。こうして京助さんを感じられたし。

 俺はまったりしながら思う。

 けれど、それは甘い考えだった。俺はまだわかっていなかったのだ、自分が何をしたのか……。

「んぁっ」

 京助さんは体を起こして俺の中からずるりと出て行き、俺は声を上げる。でも、京助さんは気にせずにゴムを外し、萎えてない自分のモノに新しいゴムを着けた。

「へ? 京助さん? どうしたの?」

 俺が尋ねると京助さんはにこりと笑った。

「どうしたのって、夏生が言ったんだろう?」
「え、おれ?」
「色々されたかったんだろう? だから今から色々としてやるからな。今まで我慢してきた分、ゼンブ」

 ぎらついた瞳を向けられて俺は「ほぇっ!?」と間抜けな声を出す。でも京助さんは気にしないで俺の両手を逃がさないとでも言うように握った。

「もっと気持ちよくなろうな? 夏生」
「えっ、えっ!? んんっ!」

 戸惑う俺の唇を京助さんは有無も言わせないように塞ぐ。
 それから俺は窓の外が暮れる頃までとことん抱かれ、その後一緒に入った狭いお風呂でも弄られて……。

 翌日も休みだったからよかったのものの日曜の俺は使い物にならず、京助さんに一日ずっと介抱されることになった。……まあ、原因は京助さんなんだけど。

 なので俺は心の中で誓ったのだった。

 ……京助さんを無暗に誘うのは止めよう! じゃないと俺の身が持たない!!




 ―――――だがお酒が入ったりすると、その誓いもすっかり忘れて、また京助を無邪気に誘ってしまう夏生だった。





 おわり


*****************
二人のらぶらぶなお話でした。
そして、二人の話は一旦完結!
この後は、気が向いたら続編を投稿しようかと思います。 

そしてエールを送ってくれた方、ありがとうございます~!
楽しんで読んでもらえてるんだなって分かって嬉しい限りです(*´ω`*)
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