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1 出会い
⑵
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⑵ 買ってきたそれはあっという間に空になった。はじめは突然やってきた予期せぬ来訪者に文句でも言ってやろうかと思ったが、あまりにもにこにこしながら食べるものだから、そのタイミングを失った。
小腹を満たすために買ってきた物を盗られ、仕方なく部屋の片隅に転がっていたカロリーメイトを齧る。
「いや~。本当にありがとうございました! ちょっとこれで落ち着きましたよ!」
さきほどとは打って変わって、明るく、手ぶりを交えながらお礼を言う。
「それはどうも」
薫はそっけなく返す。光の下で見ると、彼の姿はいかにも奇妙だった。上下黒で、エメラルド色の目をしている。外国人のような顔立ちとは裏腹に、ネイティブの日本語を話している。
薫の反応に不服気に口をとがらせて、体を反る。
「ん、なんかそっけないですね。これでも僕は感謝しているんですよ?」
「それならさ」
といって、テーブルの向こう側にいる彼を睨みつける。
「なんであんなところで倒れてたんだ? それくらい聞く権利はあるだろ」
そう尋ねると、表情をこわばらせて、口を噤む。
「それは、答えないといけませんか?」
「答えないならそれでもいい。俺の好奇心ってだけだからな」
薫は立ち上がって、スープしか入っていないカップを流しに置く。
「それなら、早く家に帰れ。家がないってわけじゃないだろ?」
「ええ! それは困ります!」
彼は薫の足元にすがるようにすり寄ってきて、上目遣いで見つめる。うるんだ瞳が薫を貫く。
「困るって、どういうことだよ」
「僕には行くところがないんです! お願いです、泊めてくれませんか?」
「泊めるって、そんなことできるわけねえだろ!」
思わず声を荒げる。そんな薫を子犬のように彼は懇願する。
「……家出か?」
昔、そんなことをしたことがあった。今から考えれば、ばかばかしいくらいな理由で。それでも家にいたくない、そんな衝動だけが体を動かしたことはあった。
「そんなところです」
彼はそれだけを答えた。気持ちはわかる。それと同じくらい、警察にでも届けないといけない、そういう理屈はわかっている。
それでも、と薫は下唇を噛む。ほっておけないような、そんな感情にさせられる。そう、薫には、彼の気持ちがわかる。
髪を掻きむしって、大きな嘆息。床に音を立てて座り、彼をまっすぐに見据える。
「今日一日だけだ。わかったな」
「本当ですか? ありがとうございます!」
彼の顔が喜びの表情に変わると、飛びつくように薫に抱き着いて、押し倒さんばかりに体重をかけて、しがみつく。彼の匂いが薫の鼻腔をくすぐる。甘く、しびれるような、脳をくすぐるような、それでいて心臓をつかみ取るような。心臓が高鳴って、感じたことのない電流が脊髄を流れた。
小腹を満たすために買ってきた物を盗られ、仕方なく部屋の片隅に転がっていたカロリーメイトを齧る。
「いや~。本当にありがとうございました! ちょっとこれで落ち着きましたよ!」
さきほどとは打って変わって、明るく、手ぶりを交えながらお礼を言う。
「それはどうも」
薫はそっけなく返す。光の下で見ると、彼の姿はいかにも奇妙だった。上下黒で、エメラルド色の目をしている。外国人のような顔立ちとは裏腹に、ネイティブの日本語を話している。
薫の反応に不服気に口をとがらせて、体を反る。
「ん、なんかそっけないですね。これでも僕は感謝しているんですよ?」
「それならさ」
といって、テーブルの向こう側にいる彼を睨みつける。
「なんであんなところで倒れてたんだ? それくらい聞く権利はあるだろ」
そう尋ねると、表情をこわばらせて、口を噤む。
「それは、答えないといけませんか?」
「答えないならそれでもいい。俺の好奇心ってだけだからな」
薫は立ち上がって、スープしか入っていないカップを流しに置く。
「それなら、早く家に帰れ。家がないってわけじゃないだろ?」
「ええ! それは困ります!」
彼は薫の足元にすがるようにすり寄ってきて、上目遣いで見つめる。うるんだ瞳が薫を貫く。
「困るって、どういうことだよ」
「僕には行くところがないんです! お願いです、泊めてくれませんか?」
「泊めるって、そんなことできるわけねえだろ!」
思わず声を荒げる。そんな薫を子犬のように彼は懇願する。
「……家出か?」
昔、そんなことをしたことがあった。今から考えれば、ばかばかしいくらいな理由で。それでも家にいたくない、そんな衝動だけが体を動かしたことはあった。
「そんなところです」
彼はそれだけを答えた。気持ちはわかる。それと同じくらい、警察にでも届けないといけない、そういう理屈はわかっている。
それでも、と薫は下唇を噛む。ほっておけないような、そんな感情にさせられる。そう、薫には、彼の気持ちがわかる。
髪を掻きむしって、大きな嘆息。床に音を立てて座り、彼をまっすぐに見据える。
「今日一日だけだ。わかったな」
「本当ですか? ありがとうございます!」
彼の顔が喜びの表情に変わると、飛びつくように薫に抱き着いて、押し倒さんばかりに体重をかけて、しがみつく。彼の匂いが薫の鼻腔をくすぐる。甘く、しびれるような、脳をくすぐるような、それでいて心臓をつかみ取るような。心臓が高鳴って、感じたことのない電流が脊髄を流れた。
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