71 / 86
第九章 アナの一日とある予兆 ~日常編~
アナの休日
しおりを挟む
「おお、アナじゃんか!」
アナは堅苦しい序文を読み終えた直後、
神殿図書館の閲覧室で
聞きなれた声で呼ばれた。
堅苦しい文体を読んでいたせいか、
思わずアナの顔はしかめっ面に
なっていたのかもしれない。
アナに元気そうに手を上げて挨拶した
アシュリーは慌てて気まずそうに、
俯き加減に頭を下げる。
「おっとゴメン……
図書館じゃ、静かにしなきゃだな」
ウェルス神殿内にある図書館は、
冒険者にも開放されている。
ルロイのような法律関係者に加えて、
アナのような魔導士型の冒険者が、
魔術書目当てでここに来ることは、
珍しくもなかったが、
アシュリーが来るとは珍しい。
「あ……えっと場所、変えよっか?」
ひとまず、
眉間を寄せた顔のせいで、
誤解を与えてしまったと
アナが気まずそうに囁く。
「おっ、おう……」
逆にアシュリーは読書中のアナに、
気を使わせてしまったと気後れしつつも、
まんざらでもなさそうに首を縦に振る。
図書館を出た二人は、
ウェルス神殿から離れた四つ辻の、
屋台でパニーノサンドを買った。
アナとアシュリーは今、
適当な椅子とテーブルに腰を下ろして、
多めに具材を挟んだパニーノサンドを
昼食代わりにせっせとパクついている。
「な~んだ、
そんなお堅い本を読んでるたぁ、
流石アナだな」
神殿図書館の堅苦しい雰囲気から解放され、
アシュリーは素に戻って陽気に笑っている。
「魔法の研究がてら、
レッジョの歴史も少し調べてみたくて、
チェーザレ・ジョルダーノはひと昔前、
ここでは人気の作家だったらしいの。
もう故人となって久しいんだけど」
「へぇ」
「この著者も元は冒険者で、
この街を愛し冒険者を引退後は
年代記作家として一住民になった人なの。
独特の表現の歴史記述が面白くてね、
でも文体がやや古いと言うか硬いから、
好き嫌いは分かれそうだけど」
熱心に感想を述べるアナに、
話し半分に聞いていたアシュリーが
感心した様に頷く。
「それであの表情だったか~
アナでさえ難しんじゃアタシなんか
一行でギブアップだな」
たははと笑いながらアシュリーが、
パニーノサンドの最後のひとかけらを、
口の中に押し込む。
「あの、アシュリーはどうして、
神殿図書館に?」
少し呆れ気味にアナが聞き返す。
「おう、実は竜笛を作ろうと思ってさ」
「竜笛?」
「遠くから飛竜を呼ぶための道具さ、
竜騎士が騎乗中に飛竜に合図やなんかを
知らせるために使ったりもすっけど」
アナもようやく
パニーノサンドを食べ切り、
今度はアシュリーの話を
興味深く聞いている。
「あの大図書館なら
飛竜関連の本もありそうだよね、
目当ての本は見つかった?」
目を輝かせるアナに対して、
アシュリーはうんざりした様に首を横に振る。
「あのデカい図書館ならな~んか、
ヒントがあると思って来たんだけど、
ダメだ。適当に本を選んで、
少し読んだだけで眩暈がするぜぇ。
やっぱアタシは読書にゃ向いてねぇ」
本の虫であるアナとしては、
アシュリーの本嫌いが寂しくはあったが、
本の話題から離れることにした。
「そう言えば前にアシュリー、
飛竜を使った街への貢献とか言ってたけど、
それと今回の竜笛って
何か関係しているの?」
よくぞ聞いてくれたとばかりに、
アシュリーが顔を明るくする。
「ああ、大ありさ。
親父みてぇな竜騎士としての才能は
ねぇけど、竜使いならアタシの性に
合ってる気がする。
でだ、その特性をどうにかここの人たちの
生活に関わる形で役立てたいと……
そうなると~」
アシュリーは饒舌になって、
自分の未来を紡ぎ出す。
「飛龍を使った飛脚いや、
運送業とかイケるんじゃないかと、
今、考えててさ」
「へぇ~」
そんな事考えもしなかったと、
アシュリーのアイデアに、
今度はアナが感心してみせる。
「飛竜教の古い教えで空を駆ける飛竜は、
あらゆる魂の運び手だって、
言い伝えがあってさぁ。
なら運送業はって思いついたんだけど」
照れ隠しの様にアシュリーが笑って見せる。
「なんか、アシュリーらしくて面白そう」
つられてアナも微笑んで見せる。
思えばアシュリーとは、
冒険者として組み仕事をしてゆく内に、
お互いの家族の事や故郷のことを
あれこれ話しお互いに
境遇が似ているようで、
しかし決定的に違うな。
と、アナはアシュリーと
よく笑い合ったものだ。
気が付けば二人は親友になっていた。
「決めた!」
幸い今日は予定が空いている。
たまにはこんな日常も良いだろう
とアナは意気込んで見せる。
「何が?」
「今日一日、竜笛を作る
アシュリーの手伝いをする」
アナがクスリと笑い決意を固める。
アナは堅苦しい序文を読み終えた直後、
神殿図書館の閲覧室で
聞きなれた声で呼ばれた。
堅苦しい文体を読んでいたせいか、
思わずアナの顔はしかめっ面に
なっていたのかもしれない。
アナに元気そうに手を上げて挨拶した
アシュリーは慌てて気まずそうに、
俯き加減に頭を下げる。
「おっとゴメン……
図書館じゃ、静かにしなきゃだな」
ウェルス神殿内にある図書館は、
冒険者にも開放されている。
ルロイのような法律関係者に加えて、
アナのような魔導士型の冒険者が、
魔術書目当てでここに来ることは、
珍しくもなかったが、
アシュリーが来るとは珍しい。
「あ……えっと場所、変えよっか?」
ひとまず、
眉間を寄せた顔のせいで、
誤解を与えてしまったと
アナが気まずそうに囁く。
「おっ、おう……」
逆にアシュリーは読書中のアナに、
気を使わせてしまったと気後れしつつも、
まんざらでもなさそうに首を縦に振る。
図書館を出た二人は、
ウェルス神殿から離れた四つ辻の、
屋台でパニーノサンドを買った。
アナとアシュリーは今、
適当な椅子とテーブルに腰を下ろして、
多めに具材を挟んだパニーノサンドを
昼食代わりにせっせとパクついている。
「な~んだ、
そんなお堅い本を読んでるたぁ、
流石アナだな」
神殿図書館の堅苦しい雰囲気から解放され、
アシュリーは素に戻って陽気に笑っている。
「魔法の研究がてら、
レッジョの歴史も少し調べてみたくて、
チェーザレ・ジョルダーノはひと昔前、
ここでは人気の作家だったらしいの。
もう故人となって久しいんだけど」
「へぇ」
「この著者も元は冒険者で、
この街を愛し冒険者を引退後は
年代記作家として一住民になった人なの。
独特の表現の歴史記述が面白くてね、
でも文体がやや古いと言うか硬いから、
好き嫌いは分かれそうだけど」
熱心に感想を述べるアナに、
話し半分に聞いていたアシュリーが
感心した様に頷く。
「それであの表情だったか~
アナでさえ難しんじゃアタシなんか
一行でギブアップだな」
たははと笑いながらアシュリーが、
パニーノサンドの最後のひとかけらを、
口の中に押し込む。
「あの、アシュリーはどうして、
神殿図書館に?」
少し呆れ気味にアナが聞き返す。
「おう、実は竜笛を作ろうと思ってさ」
「竜笛?」
「遠くから飛竜を呼ぶための道具さ、
竜騎士が騎乗中に飛竜に合図やなんかを
知らせるために使ったりもすっけど」
アナもようやく
パニーノサンドを食べ切り、
今度はアシュリーの話を
興味深く聞いている。
「あの大図書館なら
飛竜関連の本もありそうだよね、
目当ての本は見つかった?」
目を輝かせるアナに対して、
アシュリーはうんざりした様に首を横に振る。
「あのデカい図書館ならな~んか、
ヒントがあると思って来たんだけど、
ダメだ。適当に本を選んで、
少し読んだだけで眩暈がするぜぇ。
やっぱアタシは読書にゃ向いてねぇ」
本の虫であるアナとしては、
アシュリーの本嫌いが寂しくはあったが、
本の話題から離れることにした。
「そう言えば前にアシュリー、
飛竜を使った街への貢献とか言ってたけど、
それと今回の竜笛って
何か関係しているの?」
よくぞ聞いてくれたとばかりに、
アシュリーが顔を明るくする。
「ああ、大ありさ。
親父みてぇな竜騎士としての才能は
ねぇけど、竜使いならアタシの性に
合ってる気がする。
でだ、その特性をどうにかここの人たちの
生活に関わる形で役立てたいと……
そうなると~」
アシュリーは饒舌になって、
自分の未来を紡ぎ出す。
「飛龍を使った飛脚いや、
運送業とかイケるんじゃないかと、
今、考えててさ」
「へぇ~」
そんな事考えもしなかったと、
アシュリーのアイデアに、
今度はアナが感心してみせる。
「飛竜教の古い教えで空を駆ける飛竜は、
あらゆる魂の運び手だって、
言い伝えがあってさぁ。
なら運送業はって思いついたんだけど」
照れ隠しの様にアシュリーが笑って見せる。
「なんか、アシュリーらしくて面白そう」
つられてアナも微笑んで見せる。
思えばアシュリーとは、
冒険者として組み仕事をしてゆく内に、
お互いの家族の事や故郷のことを
あれこれ話しお互いに
境遇が似ているようで、
しかし決定的に違うな。
と、アナはアシュリーと
よく笑い合ったものだ。
気が付けば二人は親友になっていた。
「決めた!」
幸い今日は予定が空いている。
たまにはこんな日常も良いだろう
とアナは意気込んで見せる。
「何が?」
「今日一日、竜笛を作る
アシュリーの手伝いをする」
アナがクスリと笑い決意を固める。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
【完結】おっさん軍人、もふもふ子狐になり少年を育てる。元部下は曲者揃いで今日も大変です
鏑木 うりこ
BL
冤罪で処刑された「慈悲将軍」イアンは小さな白い子狐の中で目を覚ましてしまった。子狐の飼い主は両親に先立たれた少年ラセル。
「ラセルを立派な大人に育てるきゅん!」
自分の言葉の語尾にきゅんとかついちゃう痛みに身悶えしながら中身おっさんの子狐による少年育成が始まった。
「お金、ないきゅん……」
いきなり頓挫する所だったが、将軍時代の激しく濃い部下達が現れたのだ。
濃すぎる部下達、冤罪の謎、ラセルの正体。いくつもの不思議を放置して、子狐イアンと少年ラセルは成長していく。
「木の棒は神が創りたもうた最高の遊び道具だきゅん!」
「ホントだねぇ、イアン。ほーら、とって来て〜」
「きゅーん! 」
今日ももふもふ、元気です。
R18ではありません、もう一度言います、R18ではありません。R15も念の為だけについています。
ただ、可愛い狐と少年がパタパタしているだけでです。
完結致しました。
中弛み、スランプなどを挟みつつ_:(´ཀ`」 ∠):大変申し訳ないですがエンディングまで辿り着かせていただきました。
ありがとうございます!
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
気弱な公爵夫人様、ある日発狂する〜使用人達から虐待された結果邸内を破壊しまくると、何故か公爵に甘やかされる〜
下菊みこと
恋愛
狂犬卿の妻もまた狂犬のようです。
シャルロットは狂犬卿と呼ばれるレオと結婚するが、そんな夫には相手にされていない。使用人たちからはそれが理由で舐められて虐待され、しかし自分一人では何もできないため逃げ出すことすら出来ないシャルロット。シャルロットはついに壊れて発狂する。
小説家になろう様でも投稿しています。
子爵令嬢マーゴットは学園で無双する〜喋るミノカサゴ、最強商人の男爵令嬢キャスリーヌ、時々神様とお兄様も一緒
かざみはら まなか
ファンタジー
相棒の喋るミノカサゴ。
友人兼側近の男爵令嬢キャスリーヌと、国を出て、魔法立国と評判のニンデリー王立学園へ入学した12歳の子爵令嬢マーゴットが主人公。
国を出る前に、学園への案内を申し出てきた学校のOBに利用されそうになり、OBの妹の伯爵令嬢を味方に引き入れ、OBを撃退。
ニンデリー王国に着いてみると、寮の部屋を横取りされていた。
初登校日。
学生寮の問題で揉めたために平民クラスになったら、先生がトラブル解決を押し付けようとしてくる。
入学前に聞いた学校の評判と違いすぎるのは、なぜ?
マーゴットは、キャスリーヌと共に、勃発するトラブル、策略に毅然と立ち向かう。
ニンデリー王立学園の評判が実際と違うのは、ニンデリー王国に何か原因がある?
剣と魔法と呪術があり、神も霊も、ミノカサゴも含めて人外は豊富。
ジュゴンが、学園で先生をしていたりする。
マーゴットは、コーハ王国のガラン子爵家当主の末っ子長女。上に4人の兄がいる。
学園でのマーゴットは、特注品の鞄にミノカサゴを入れて持ち歩いている。
最初、喋るミノカサゴの出番は少ない。
※ニンデリー王立学園は、学生1人1人が好きな科目を選択して受講し、各自の専門を深めたり、研究に邁進する授業スタイル。
※転生者は、同級生を含めて複数いる。
※主人公マーゴットは、最強。
※主人公マーゴットと幼馴染みのキャスリーヌは、学園で恋愛をしない。
※学校の中でも外でも活躍。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
(完結)私の夫は死にました(全3話)
青空一夏
恋愛
夫が新しく始める事業の資金を借りに出かけた直後に行方不明となり、市井の治安が悪い裏通りで夫が乗っていた馬車が発見される。おびただしい血痕があり、盗賊に襲われたのだろうと判断された。1年後に失踪宣告がなされ死んだものと見なされたが、多数の債権者が押し寄せる。
私は莫大な借金を背負い、給料が高いガラス工房の仕事についた。それでも返し切れず夜中は定食屋で調理補助の仕事まで始める。半年後過労で倒れた私に従兄弟が手を差し伸べてくれた。
ところがある日、夫とそっくりな男を見かけてしまい・・・・・・
R15ざまぁ。因果応報。ゆるふわ設定ご都合主義です。全3話。お話しの長さに偏りがあるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる