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第八章 ダンジョンに種付けおじさん ~特別の損害~
種の秘密
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図書館での調べものが終わってから
翌日の朝、ルロイはレッジョの
霊園から枯れ朽ちた巨木を見上げていた。
『朽木の園』
もともとここは過疎化した
ダンジョンだったが、
アシュリーがダンジョン主に
なってからは、
前に尋ねた時よりも木々の間に
より多くのフェアリークラブの群れが、
動き回っている。
今は経済的に火の車とは言え、
生態系においては少しずつだが
活気を取り戻している様子だった。
「前に来た時よりも
少し賑やかになったような」
アシュリー達と共にこのダンジョンに
挑んだ時の事をルロイは思い出す。
地面に目をやれば、
土壌も黒々と湿り豊かそうだった。
アシュリーがダンジョンで
作物栽培という酔狂を考えるのも
これならば頷ける。
ルロイがアシュリーに会いに管理小屋に
足を進めたところ先客がいた。
「おや、アナ」
「ロイ」
黒いローブにロッドを持ち、
いつもの冒険者としての格好のアナと、
管理小屋の玄関で鉢合わせした。
今日は事務所での仕事は非番なので、
別の仕事できたのであろうか。
「アシュリーに呼ばれてきました」
「おう二人ともよく来たな。
早速なんだが、実はちょっと二人に
見て貰いてーモンがあるんだ」
アシュリーはルロイとアナに手招きして
朽木の園へと入って行く。
中に入ってみると、
外で眺めた以上にダンジョン内は
賑やかだった。
小鳥やウサギを思わせる
小型モンスターがそこかしこにいる。
もともと穏やかな性格なのか、
あるいはダンジョン主のアシュリーが
飼いならしているためか、
襲ってくる気配はまったくない。
「着いたぜ。アレだよアレ……」
ダンジョンの一隅に、
堆く積まれた畝のような場所に、
僅かばかりの赤い果実が
ひっそり実っていた。
「あれは、イチゴですか?」
「ああ、立派なモンだろ?」
アシュリーはおもむろに
ダンジョンに生ったイチゴへ歩み寄ると
惜しげもなく二個房からもぎ取り
ルロイとアシュリーに手渡した。
実った数こそ少ないが、
なかなか大ぶりで艶やかなイチゴである。
率直に、まずは食ってから感想を
聞きたいということらしい。
ルロイとアナは顔を見合わせ、
赤い果実に鼻づらを近づける。
まるで一個の果実そのものが、
ケーキのような上品な甘美と新鮮で
繊細な酸味を凝縮した芸術作品であった。
「「美味い!!」」
ルロイとアナが同時に唸る。
そして、同時に嘆息する。
先ほどの洗練された甘さと酸味が、
見事に調和を保ち口から鼻にかけて
見事な風味が広がる。
アシュリーは満足げにしてやったりと
素朴な笑顔を浮かべていたが、
少しばかり憂いを帯びた表情で
イチゴの生っていた地面を見つめる。
「実はあんにゃろがここへ下見に来た時、
うっかり落としていった種なんだ。これ」
「ええっ!」
「種付けおじさんが持ってきたのは
ミツダケの種菌では?」
「まーなー。けど、アタシはここに
種なんて植えた覚えねーし。
買ってもいねぇ。それにこの美味さ。
アタシが求めていたのはこれなんだ。
こんな美味い作物の種持ってんのは、
悔しいがあのおっさんしかいない」
どうやら、種付けおじさんの扱う
種そのものにもただの種菌ではない
深い謎が込められているようである。
「で、これについて何か思うところが
ねぇかとアナの意見を聞きたくてさ。
この前みたいにここの精霊が関わったり
してるのかな?」
アシュリーの言葉にアナは意味深に、
視線を泳がせロッドを
イチゴの実っていた地面に近づけ
何かに思いを巡らせていた。
「あの……聞いたことがあるんですけど。
死者の念を吸い取って
形を変える植物があるって……」
「ほぉ」
「そのおじさんがその種をここに
落としたなら、そこから生える植物も
死者の念を強く受けると思うんです。
それが朽木の園ではイチゴになり、
深淵の鉱床ではミツダケに変化した。
環境の違いというか、
そこにいる霊の違いなんでしょうか?」
自信なく語尾を濁していたが、
アナの説明にアシュリーは
興味をそそられた様子でいた。
「じゃ、このイチゴを通して、
どんな霊が込められてる感じか
直感で言ってくれるか?」
「う~ん……とても穏やかだと思います。
それがこのイチゴの味にも
出ているというか」
「大樹木の林冠部分はともかく、
地面の近くは基本気性の穏やかな
奴ばかりだからな、
それにここは日当たりもいいし」
ダンジョンに生きるモンスターは
冒険者に狩られるにせよ
寿命を全うするにせよ、
基本生息するダンジョンが墓場となる。
このダンジョンで死した
モンスターの霊も
また穏やかならば結構なことではある。
種付けおじさんの秘密に少しずつ
近づけている実感も増したことで、
ルロイが次に向かう場所は見定まった。
「こちらも、ウェルス神殿で色々
分かったことがありました」
その前に、ルロイはアシュリーに
図書館で調べた判例とフィオーレから
聞き出した種付けおじさんの
風評について話して聞かせた。
「よっしゃ、じゃあ借金返すあてが
あるってこったな!」
前向きなアシュリーは
ガッツポーズなどして声を弾ませる。
「ええ、ですがまだまだ、
調べる事がありますけどね」
「大丈夫だって、あんにゃろの名前は……
まぁ、ひっ捕まえて体に聞いてやるさ!」
アシュリーが獰猛に笑って見せ、
アナの背中を叩く。
「それに、アナもいることだし」
「もちろん私で良ければ協力するよ」
レッジョで冒険者として経験を積み
アナも確実に成長したのだろう。
アナの笑顔はかつてよりも
明るく力強かった。
「では、今度は深淵の鉱床ですかね」
ようやく、ルロイは種明かしの
核心に迫ろうとしていた。
翌日の朝、ルロイはレッジョの
霊園から枯れ朽ちた巨木を見上げていた。
『朽木の園』
もともとここは過疎化した
ダンジョンだったが、
アシュリーがダンジョン主に
なってからは、
前に尋ねた時よりも木々の間に
より多くのフェアリークラブの群れが、
動き回っている。
今は経済的に火の車とは言え、
生態系においては少しずつだが
活気を取り戻している様子だった。
「前に来た時よりも
少し賑やかになったような」
アシュリー達と共にこのダンジョンに
挑んだ時の事をルロイは思い出す。
地面に目をやれば、
土壌も黒々と湿り豊かそうだった。
アシュリーがダンジョンで
作物栽培という酔狂を考えるのも
これならば頷ける。
ルロイがアシュリーに会いに管理小屋に
足を進めたところ先客がいた。
「おや、アナ」
「ロイ」
黒いローブにロッドを持ち、
いつもの冒険者としての格好のアナと、
管理小屋の玄関で鉢合わせした。
今日は事務所での仕事は非番なので、
別の仕事できたのであろうか。
「アシュリーに呼ばれてきました」
「おう二人ともよく来たな。
早速なんだが、実はちょっと二人に
見て貰いてーモンがあるんだ」
アシュリーはルロイとアナに手招きして
朽木の園へと入って行く。
中に入ってみると、
外で眺めた以上にダンジョン内は
賑やかだった。
小鳥やウサギを思わせる
小型モンスターがそこかしこにいる。
もともと穏やかな性格なのか、
あるいはダンジョン主のアシュリーが
飼いならしているためか、
襲ってくる気配はまったくない。
「着いたぜ。アレだよアレ……」
ダンジョンの一隅に、
堆く積まれた畝のような場所に、
僅かばかりの赤い果実が
ひっそり実っていた。
「あれは、イチゴですか?」
「ああ、立派なモンだろ?」
アシュリーはおもむろに
ダンジョンに生ったイチゴへ歩み寄ると
惜しげもなく二個房からもぎ取り
ルロイとアシュリーに手渡した。
実った数こそ少ないが、
なかなか大ぶりで艶やかなイチゴである。
率直に、まずは食ってから感想を
聞きたいということらしい。
ルロイとアナは顔を見合わせ、
赤い果実に鼻づらを近づける。
まるで一個の果実そのものが、
ケーキのような上品な甘美と新鮮で
繊細な酸味を凝縮した芸術作品であった。
「「美味い!!」」
ルロイとアナが同時に唸る。
そして、同時に嘆息する。
先ほどの洗練された甘さと酸味が、
見事に調和を保ち口から鼻にかけて
見事な風味が広がる。
アシュリーは満足げにしてやったりと
素朴な笑顔を浮かべていたが、
少しばかり憂いを帯びた表情で
イチゴの生っていた地面を見つめる。
「実はあんにゃろがここへ下見に来た時、
うっかり落としていった種なんだ。これ」
「ええっ!」
「種付けおじさんが持ってきたのは
ミツダケの種菌では?」
「まーなー。けど、アタシはここに
種なんて植えた覚えねーし。
買ってもいねぇ。それにこの美味さ。
アタシが求めていたのはこれなんだ。
こんな美味い作物の種持ってんのは、
悔しいがあのおっさんしかいない」
どうやら、種付けおじさんの扱う
種そのものにもただの種菌ではない
深い謎が込められているようである。
「で、これについて何か思うところが
ねぇかとアナの意見を聞きたくてさ。
この前みたいにここの精霊が関わったり
してるのかな?」
アシュリーの言葉にアナは意味深に、
視線を泳がせロッドを
イチゴの実っていた地面に近づけ
何かに思いを巡らせていた。
「あの……聞いたことがあるんですけど。
死者の念を吸い取って
形を変える植物があるって……」
「ほぉ」
「そのおじさんがその種をここに
落としたなら、そこから生える植物も
死者の念を強く受けると思うんです。
それが朽木の園ではイチゴになり、
深淵の鉱床ではミツダケに変化した。
環境の違いというか、
そこにいる霊の違いなんでしょうか?」
自信なく語尾を濁していたが、
アナの説明にアシュリーは
興味をそそられた様子でいた。
「じゃ、このイチゴを通して、
どんな霊が込められてる感じか
直感で言ってくれるか?」
「う~ん……とても穏やかだと思います。
それがこのイチゴの味にも
出ているというか」
「大樹木の林冠部分はともかく、
地面の近くは基本気性の穏やかな
奴ばかりだからな、
それにここは日当たりもいいし」
ダンジョンに生きるモンスターは
冒険者に狩られるにせよ
寿命を全うするにせよ、
基本生息するダンジョンが墓場となる。
このダンジョンで死した
モンスターの霊も
また穏やかならば結構なことではある。
種付けおじさんの秘密に少しずつ
近づけている実感も増したことで、
ルロイが次に向かう場所は見定まった。
「こちらも、ウェルス神殿で色々
分かったことがありました」
その前に、ルロイはアシュリーに
図書館で調べた判例とフィオーレから
聞き出した種付けおじさんの
風評について話して聞かせた。
「よっしゃ、じゃあ借金返すあてが
あるってこったな!」
前向きなアシュリーは
ガッツポーズなどして声を弾ませる。
「ええ、ですがまだまだ、
調べる事がありますけどね」
「大丈夫だって、あんにゃろの名前は……
まぁ、ひっ捕まえて体に聞いてやるさ!」
アシュリーが獰猛に笑って見せ、
アナの背中を叩く。
「それに、アナもいることだし」
「もちろん私で良ければ協力するよ」
レッジョで冒険者として経験を積み
アナも確実に成長したのだろう。
アナの笑顔はかつてよりも
明るく力強かった。
「では、今度は深淵の鉱床ですかね」
ようやく、ルロイは種明かしの
核心に迫ろうとしていた。
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