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第七章 竜使いの問題 ~停止条件~

酒場「飽食痛飲亭」

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 酒場「飽食痛飲亭」

 冒険者御用達の酒場の一つである。
 店の外構えも内装もぼろくて汚いが、
 安い上手いそして量が多いをモットーに、
 冒険者を相手に経営を続ける
 知る人ぞ知る名店である。
 アシュリーもクエスト帰りに
 すきっ腹を抱えて良くお世話になったが、
 今回は事情が違った。

「ブッヒャア、よく来たなぁ。
 オメェらも飲めやぁ!」

 既にへべれけになりつつある、
 ギャリックがアシュリーと
 アナを手招きする。
 その横ではギャリックの絡み酒に
 付き合わされているルロイが、
 うんざりした表情でチビチビやっている。 

「だから、未成年にお酒は
 勧めちゃダメですよ」

 ギャリックほどではないにせよ、
 ルロイもほろ酔い気分で
 料理をつまみながら、
 やってきたアシュリーと
 アナ二人の表情を見比べる。

「おや、アシュリーさん。
 アナも浮かない顔ですが
 どうしました?」

「悪いけどちょっと来てほしいんだ」

「お、お願いしますぅ」

 どう切り出したものかと、
 ためらっていたアシュリーとアナが、
 切実そうに二人に懇願する。
 既に空は夜となっていたが、
 ルロイとギャリックが、
 ただならぬ何かを感じ取り、
 レッジョ郊外まで足を運ぶ。
 道からそれた藪の中まで来ると、
 そこにはフレッチャーと
 連れ合いの雌竜。
 そして、巣の中に飛竜の卵が三つ。

「この飛竜はもしかして……
 フレッチャー」

 竜騎士マティスの依頼で、
 出会った空色の飛竜を
 ルロイは思い出す。

「キュイ」

 あの時よりも若干精悍そうになった、
 フレッチャーが嬉しそうに頷く。

「蒼天マティスの竜ってのは、
 オメェのことか!」

 ギャリックもマティスとの
 決闘を思い出し声を弾ませる。

「何の説明もせず、
 ここまで来てくれて
 ありがとな。アタシも気が
 動転してまってさ……」

 落ち着きを取り戻したアシュリーが、
 順を追って説明する。
 
 フレッチャーとここで再開した事。
 フレッチャーに連れ合いの雌竜がいた事。
 雌竜は既に産卵を終えており後は孵化を
 待つばかりである事。
 ルロイは状況を整理して頷く。
 ここは道から逸れた藪に中、
 それに今は夜で人目に
 付くことはないだろう。が、

「このままでは、レッジョの官憲、
 冒険者に見つかるのは時間の問題か」

 初めはアシュリーも、
 マティスとの縁が切れたことで、
 フレッチは新しい出会いに恵まれたと、
 その連れ合いを祝福し喜んでいた。
 だが、もしこのままアシュリーが
 レッジョでの冒険者を続ける生き方を
 選ぶならば、フレッチャーとは
 今生の別れになるであろうと。

「この子は律儀だからね……
 せめてアタシに挨拶してから
 どこか新天地を探すつもりだったの
 かもしれないけど」

 すでに卵の孵化を待つための
 巣を作っている以上、
 フレッチたちはしばらく
 ここからそう遠くへは動けないだろう。
 卵を外敵から守りつつ、
 その間に十分な食料を確保できるか、
 密猟を生業とする質の悪い冒険者に
 見つかり討伐されないか、
 もっと悪くすれば冒険者ギルドが、
 レッジョに脅威を与えるモンスター
 とみなし討伐依頼を掛けるかもしれない。

「レッジョで冒険者を続けるか、
 ここを離れフレッチたちと共に過ごすか」

 アシュリーは深くため息を吐く。

「どっちも捨てたくない!」

「アシュリー……」

 アナがアシュリーにそっと寄り添う。

「わがままだってのは分かってる。
 けど、アタシにとっちゃ……
 どっちも尊いんだ」

 苦渋と涙にまみれ、
 アシュリーは言い切る。
 家族を省みない父マティスとの確執。
 レッジョで出会った仲間、友達。
 幼少のころから故郷で育った。
 唯一の肉親同然のフレッチャー。
 これまでのアシュリーにとっての
 かけがえのない思い出が、
 無情な奔流となって
 彼女を押し流そうとする。

「もしかしたらどうにか
 なるかもしれません」

 現在のレッジョの情勢を鑑みて、
 ルロイが呟く。
 もしかすれば、
 アシュリーが二つに一つを
 選ばずともすむ第三の道が
 開けるかもしれない。
 あの場所ならば――――
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