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第六章 黒手の殺人鬼 ~許認可申請~
プロローグ 殺害
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自分が殺害される一時間ほど前、
ファビオはすこぶる上機嫌だった。
最近、金払いの良い『仕事』にありつき、
宿への帰路の途中でちょっとした
『臨時収入』が懐に入ったからだ。
すっかり夜も更けている中を、
ファビオはでも鼻歌を歌いながら、
酒瓶片手にメリーダ河に面した通りを
泥酔気味に歩いていった。
中央広場に続く大通りを見渡せば、
ファビオのような手合いはたくさんいる。
夜のレッジョで冒険者がする事といえば、
決まりきっている。
酒場でしこたま酒を飲んで
仲間同士と娼婦を巻き込み
バカ騒ぎするか、
更にバカなら街中で所かまわず
冒険者同士で喧嘩するか。
つまりレッジョは夜も騒がしいのだった。
そんな金遣いの荒い冒険者を相手に、
冒険者以上にがめつい商売人が表通りで
客引きに躍起になっている。
軒を構える酒場、食堂、娼館に、
雑多な小間物を扱う行商人どもが
客を引こうと大声だけでなくランタンやら
魔法アイテムによる怪しげな光源をもって
大通りを色とりどりに飾り立てる。
大通りから少し外れたメリーダ河に近い
川沿いの裏路地には川面に反射した光が
微かながら光源代わりに道を照らす。
少しばかり、はしゃぎ過ぎたようだ。
ファビオは上機嫌に酒瓶を川面に向かって
放り投げると川に向かって用を足すため、
色とりどりの光を映し出す黒い水面に
向かってズボンを下ろした瞬間である。
何かが折れたような、
いやひしゃげた音がした。
それを訝しがる間もなく熱を持った
激痛がファビオの全身を貫く。
「―――っ俺の、腹から手が」
直後、あの名前が鮮明に脳裏に蘇る。
「マーノ……ネッ――――」
ファビオの最期の言葉は
喉にこみ上げる血の塊に沈んでいった。
男の腹から生えた節くれだった
奇怪な手は、周囲に飛び散るはずの血液を
引き寄せその身に集めている。
ぬらりと赤黒く光る血液が
あり得ない速さで凝固し始め、
血液はまるで手を覆う黒い手袋の
ように固まっていった。
遠くではまだ陽気な喧噪が続いている。
黒い手は既に動かなくなった
犠牲者の骸から静かに引き抜かれる。
背後で蠢く人影が、
音もなく闇に満たされた裏路地へと
消えていったのは
それからすぐのことだった。
ファビオはすこぶる上機嫌だった。
最近、金払いの良い『仕事』にありつき、
宿への帰路の途中でちょっとした
『臨時収入』が懐に入ったからだ。
すっかり夜も更けている中を、
ファビオはでも鼻歌を歌いながら、
酒瓶片手にメリーダ河に面した通りを
泥酔気味に歩いていった。
中央広場に続く大通りを見渡せば、
ファビオのような手合いはたくさんいる。
夜のレッジョで冒険者がする事といえば、
決まりきっている。
酒場でしこたま酒を飲んで
仲間同士と娼婦を巻き込み
バカ騒ぎするか、
更にバカなら街中で所かまわず
冒険者同士で喧嘩するか。
つまりレッジョは夜も騒がしいのだった。
そんな金遣いの荒い冒険者を相手に、
冒険者以上にがめつい商売人が表通りで
客引きに躍起になっている。
軒を構える酒場、食堂、娼館に、
雑多な小間物を扱う行商人どもが
客を引こうと大声だけでなくランタンやら
魔法アイテムによる怪しげな光源をもって
大通りを色とりどりに飾り立てる。
大通りから少し外れたメリーダ河に近い
川沿いの裏路地には川面に反射した光が
微かながら光源代わりに道を照らす。
少しばかり、はしゃぎ過ぎたようだ。
ファビオは上機嫌に酒瓶を川面に向かって
放り投げると川に向かって用を足すため、
色とりどりの光を映し出す黒い水面に
向かってズボンを下ろした瞬間である。
何かが折れたような、
いやひしゃげた音がした。
それを訝しがる間もなく熱を持った
激痛がファビオの全身を貫く。
「―――っ俺の、腹から手が」
直後、あの名前が鮮明に脳裏に蘇る。
「マーノ……ネッ――――」
ファビオの最期の言葉は
喉にこみ上げる血の塊に沈んでいった。
男の腹から生えた節くれだった
奇怪な手は、周囲に飛び散るはずの血液を
引き寄せその身に集めている。
ぬらりと赤黒く光る血液が
あり得ない速さで凝固し始め、
血液はまるで手を覆う黒い手袋の
ように固まっていった。
遠くではまだ陽気な喧噪が続いている。
黒い手は既に動かなくなった
犠牲者の骸から静かに引き抜かれる。
背後で蠢く人影が、
音もなく闇に満たされた裏路地へと
消えていったのは
それからすぐのことだった。
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