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第五章 ノーヴォヴェルデ ~無権代理人~
エピローグ ゾンビパウダーの応酬
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植物ゾンビの騒動から数日後。
あれからアナが定期的に雑用を
こなしてくれるおかげで、
ルロイとしては久方ぶりに
ゆったり紅茶をたしなんでいられる。
午後のティータイムをそろそろ切り上げる
かと思った矢先に玄関のベルが鳴る。
「おや、リーゼさん」
「こんにちは、ルロイ・フェヘール。
今回はモリーが世話になったね。
その挨拶回りで寄っただけさぁ」
リーゼはルロイに丁重に頭を下げると、
意味深な笑いを浮かべる。
「まぁ、その前に世間話をしておくが、
ドルップの商館にあった文言。
新生なる緑あれなんだと思う?」
ちょっとした謎かけをリーゼは
楽しんでいるようであった。
「植物ゾンビを作るための
魔法薬ではないのですか?」
「それも間違いではないんだが……
まぁ、植物ゾンビを崇める
新手の宗教セクトと言ったらいいかな」
「市参事会が危険視する
邪教のたぐいでですか」
「お堅い言い方をすりゃあね。
連中はレッジョは古の聖域であり、
冒険者や住人がいない緑に地にする。
それが新生なる緑の
教義らしいんだけど詳しいことは私でも
分らん。ドルップはその有力な
シンパの一人ってこと位かね」
ドルップが植物ゾンビ化し、
倒されてしまった以上、
なぜそんな破滅思考に身を
委ねてしまったのか知る由はない。
「さんざん悩んだが、
今回発明したアレは、
没にしたよ」
リーゼの声色には少しだけ
憂いを帯びていた。
「やっぱり、今回の植物ゾンビのことで」
「まだ、アレは世に出すには早い。
いつか時代が私の発明に
追いつくか分からないけどね。
何より今回はモリーに辛い思いを
させてしまったからねぇ。
最初から私が矢面に立てば
良かったんだろうけど、
この難局をあの子なりに
どう切り抜けるのかつい、
観察してみたくなってさぁ……
結果あの有り様さ」
ドルップの目的が結局
植物ゾンビによるレッジョの緑化なら、
契約不履行による損害賠償など、
リーゼの発明品を手に入れる脅しの口実
に過ぎず、モリーが取引に応じようが
いまいがどの道ドルップは、
どんな手を用いてもリーゼの薬液を
手に入れる腹積もりだったのだろう。
初めからモリーに背負わせるには、
無理のある問題であった。
「なんだかんだ言って最後は
モリーさんを助けるつもりだったですね」
「当り前だ。あれほど私の実験に
従順な利便的実験動物は
そうそういない逸材だぞ。
今後とも末永く有効活用
するつもりだとも」
リーゼにこうまで
真顔でハッキリ言われると、
ルロイは照れ隠しなのか
本心なのか分からなくなる。
「ゲスいですね」
「なんか言ったかい」
色んな意味でモリーが、
不憫に思えてきたルロイに、
もう一つの悪い予感がよぎる。
「まさか、アナに住み込みを
勧めたのも……」
「優秀なネクロマンサーを
人体実験に使える機会なんて、
滅多にあるもんじゃないからねぇ」
いつものおぞましい笑みで、
リーゼがクックと笑って見せる。
「冗談だよ」
例によってドン引きしている
ルロイにリーゼが愉快そうに吹き出す。
「……に見えませんよ」
一人寂しい個人事務所が、
アナのおかげで少しは華やかに
なりそうだったが、
結果としてルロイの心配事が
増えてしまった気分である。
あれからアナが定期的に雑用を
こなしてくれるおかげで、
ルロイとしては久方ぶりに
ゆったり紅茶をたしなんでいられる。
午後のティータイムをそろそろ切り上げる
かと思った矢先に玄関のベルが鳴る。
「おや、リーゼさん」
「こんにちは、ルロイ・フェヘール。
今回はモリーが世話になったね。
その挨拶回りで寄っただけさぁ」
リーゼはルロイに丁重に頭を下げると、
意味深な笑いを浮かべる。
「まぁ、その前に世間話をしておくが、
ドルップの商館にあった文言。
新生なる緑あれなんだと思う?」
ちょっとした謎かけをリーゼは
楽しんでいるようであった。
「植物ゾンビを作るための
魔法薬ではないのですか?」
「それも間違いではないんだが……
まぁ、植物ゾンビを崇める
新手の宗教セクトと言ったらいいかな」
「市参事会が危険視する
邪教のたぐいでですか」
「お堅い言い方をすりゃあね。
連中はレッジョは古の聖域であり、
冒険者や住人がいない緑に地にする。
それが新生なる緑の
教義らしいんだけど詳しいことは私でも
分らん。ドルップはその有力な
シンパの一人ってこと位かね」
ドルップが植物ゾンビ化し、
倒されてしまった以上、
なぜそんな破滅思考に身を
委ねてしまったのか知る由はない。
「さんざん悩んだが、
今回発明したアレは、
没にしたよ」
リーゼの声色には少しだけ
憂いを帯びていた。
「やっぱり、今回の植物ゾンビのことで」
「まだ、アレは世に出すには早い。
いつか時代が私の発明に
追いつくか分からないけどね。
何より今回はモリーに辛い思いを
させてしまったからねぇ。
最初から私が矢面に立てば
良かったんだろうけど、
この難局をあの子なりに
どう切り抜けるのかつい、
観察してみたくなってさぁ……
結果あの有り様さ」
ドルップの目的が結局
植物ゾンビによるレッジョの緑化なら、
契約不履行による損害賠償など、
リーゼの発明品を手に入れる脅しの口実
に過ぎず、モリーが取引に応じようが
いまいがどの道ドルップは、
どんな手を用いてもリーゼの薬液を
手に入れる腹積もりだったのだろう。
初めからモリーに背負わせるには、
無理のある問題であった。
「なんだかんだ言って最後は
モリーさんを助けるつもりだったですね」
「当り前だ。あれほど私の実験に
従順な利便的実験動物は
そうそういない逸材だぞ。
今後とも末永く有効活用
するつもりだとも」
リーゼにこうまで
真顔でハッキリ言われると、
ルロイは照れ隠しなのか
本心なのか分からなくなる。
「ゲスいですね」
「なんか言ったかい」
色んな意味でモリーが、
不憫に思えてきたルロイに、
もう一つの悪い予感がよぎる。
「まさか、アナに住み込みを
勧めたのも……」
「優秀なネクロマンサーを
人体実験に使える機会なんて、
滅多にあるもんじゃないからねぇ」
いつものおぞましい笑みで、
リーゼがクックと笑って見せる。
「冗談だよ」
例によってドン引きしている
ルロイにリーゼが愉快そうに吹き出す。
「……に見えませんよ」
一人寂しい個人事務所が、
アナのおかげで少しは華やかに
なりそうだったが、
結果としてルロイの心配事が
増えてしまった気分である。
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