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第五章 ノーヴォヴェルデ ~無権代理人~
ドルップ商会の闇
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他の商館の建物と比べても、
豪奢な装飾が施されたドルップ商会の
商館を見上げてルロイは、
ため息を漏らす。
商館の主ドルップの趣味なのか、
花や珍奇な植物をあしらった
レリーフや彫刻の数々が
建物や塀に門のところ狭し
と配置されている。
装飾過多な悪趣味さが
嫌でも伝わってくる。
「ドルップ商会まで
来てはみましたが……」
商館の入り口近くの四つ辻で、
呆れるようにルロイは、
一人で愚痴っている。
何度ルロイが魔法公証人として
ドルップとの面会を門番に伝えても、
「旦那様は現在所用にて、
ご不在であります。
お引き取り願います」
この一点張りである。
厳しい表情の大男門番から
ルロイは門前払いを喰らってしまう。
どうにも初めから頑なに
拒絶されている印象がぬぐえない。
のみならずガラの悪い冒険者崩れが、
用心棒として多数雇われ、
商館の玄関口だけでなく、
塀や窓の近くをピリピリした様子で、
見張っている。
余程中にあるものが見られたくない
代物なのだろう。
商館の中をちょっとでも
覗き込もうものなら、
容赦なくドつき回すつもり満々である。
「黒い噂の数々は本当かも知れませんね」
ルロイは商館の玄関口に優美な
書体で掘られているある文言を見つける。
「レッジョに新生なる緑を」
何故か気になってルロイが、
じっとその文言を眺めていると、
よく聞きなれた声で呼ばれた。
「よぉルロイ。まぁた、会ったでヤァ」
「やぁ、ディエゴですか」
振り返ればディエゴが、
気さくに挨拶してくる。
仕事で街をフラ付いていると、
こうしてディエゴとかち合うこと
が多いルロイだったが、
今は渡りに船である。
「まぁ、ちょっと来いだヤァ」
そんなルロイの胸の内を
既に察してかディエゴが
人気のない裏路地へ来るよう、
さりげなく指で合図をする。
「オメェはまぁた、
厄介な仕事に首突っ込んでるでヤァ」
ディエゴはキョロキョロと
路地裏を見回しつつ、
毛むくじゃらの犬耳をそばだてる。
どうやらここならば
安心して話せるらしい。
「いつもの事ですよ」
「まぁ、そのおかげで
こうしてオイラはメシに
ありつけるからいいんヤァが」
その口ぶりからして、
ディエゴにとってもルロイと
遭遇したことは渡りに船の
状況らしい。
「で、今回はドルップ商会が絡んだ
厄介事を追っているってことで、
いいのかヤァ?」
「ええ、ご明察です」
ルロイも慣れた手つきで、
いつものオークの大腿骨と、
それに加えて銀貨数枚の色を付けて、
ディエゴに手渡す。
「まぁ、事情を聞こうじゃないかヤァ」
ルロイはモリーから聞かされた、
ドルップ商会との無権代理による
取引の話をディエゴに説明した。
「ふぅむ、それで商館の前で、
途方に暮れていたいう訳かヤァ」
「何かドルップ氏と会う手段は
ないですかね。
本当に商館に居ないなら、
せめて行方だけも心当たりは
ありませんか?」
ルロイが問いかけると、
ディエゴは難しそうに耳を
ひくつかせ唸っている。
情報通のディエゴの嗅覚を
もってしても手掛かりなしなのか、
とルロイが落胆しかけたその時。
「やっぱり、あの時のアイツら
ドルップの手下だったかヤァ」
ディエゴがおもむろに口を開いた。
数日前ディエゴがまた
コカトリスでもちょろまかそうと、
リーゼの工房に忍び込もうとした時、
数人の怪しい男が、
工房の様子を覗いており、
リーゼの完成直後の発明品を
手に入れるために、
なにやら密談しているところを
見たと言う。
「なるほど、一歩核心に
近づけた気がしますよ」
やはり今回の事件は、
仕組まれた可能性が高いようだ。
しかしあらかじめ発明品狙いで、
モリーを罠にかけ結果、
リーゼが取引を追認せず、
目的のブツを手に入れることは、
失敗している。
痺れを切らせたドルップが、
工房に冒険者崩れをけしかけ、
その発明品を奪う強硬策に
出ないとも限らない。
いったんリーゼにこのことを
伝えた方が良いだろうか。
いやあのリーゼが簡単に、
冒険者崩れごときに大事な
発明品を奪われる失態は犯すまい。
そこまで考えて、
ルロイはためらうのをやめる。
「もうひとつ気になる事が
あってヤァ……」
そう言うとディエゴは、
裏路地の石畳の一枚を
慣れた手つきでクルリと剥がす。
いつぞやの時もお世話になった、
レッジョに張り巡らされた、
秘密の地下道である。
「どうもドルップ商会の奴ら、
ここを使って何かを大量に
運んでるみたいでヤァ」
人目に付かない地下道を
使っての大量のブツの運搬。
恐らくは密輸のたぐいだろうが、
単なる禁制品の輸入では済まない。
なにかおぞましい予感がする。
「商会の連中アコギどころか、
かなりヤベェ事に手を染めてる
臭いがプンプンするでヤァ」
ディエゴも直感的に、
今回の事件はいつも以上に、
危険なものを感じ取っているらしい。
「地下通路はレッジョ中どこでも、
網の目みたく繋がってるヤァが、
上手くたどって行けば、
商館の中に潜り込める
かもしれねぇだヤァ」
「ええ、今回もここを頼りに
させてもらいますよ」
ルロイはいつでも身を守れるよう
チンクエデアを抜き身のまま持ち、
地下道へと潜り込んで行く。
「今回はたくさん貰っちまったし、
オイラの方でも商会の様子を
探ってみるでヤァ。
オメェもヤバそうになったら、
とっと逃げるんだヤァ」
ディエゴが照れくさそうに
舌を出しルロイの身を案じる。
「ご協力ありがとうございます。
お互いくれぐれも気を付けて
行きましょう」
命あっての物種である。
お互い請け負う仕事は違えど、
最悪の場合に至らないための
引き際は間違えてはならない。
豪奢な装飾が施されたドルップ商会の
商館を見上げてルロイは、
ため息を漏らす。
商館の主ドルップの趣味なのか、
花や珍奇な植物をあしらった
レリーフや彫刻の数々が
建物や塀に門のところ狭し
と配置されている。
装飾過多な悪趣味さが
嫌でも伝わってくる。
「ドルップ商会まで
来てはみましたが……」
商館の入り口近くの四つ辻で、
呆れるようにルロイは、
一人で愚痴っている。
何度ルロイが魔法公証人として
ドルップとの面会を門番に伝えても、
「旦那様は現在所用にて、
ご不在であります。
お引き取り願います」
この一点張りである。
厳しい表情の大男門番から
ルロイは門前払いを喰らってしまう。
どうにも初めから頑なに
拒絶されている印象がぬぐえない。
のみならずガラの悪い冒険者崩れが、
用心棒として多数雇われ、
商館の玄関口だけでなく、
塀や窓の近くをピリピリした様子で、
見張っている。
余程中にあるものが見られたくない
代物なのだろう。
商館の中をちょっとでも
覗き込もうものなら、
容赦なくドつき回すつもり満々である。
「黒い噂の数々は本当かも知れませんね」
ルロイは商館の玄関口に優美な
書体で掘られているある文言を見つける。
「レッジョに新生なる緑を」
何故か気になってルロイが、
じっとその文言を眺めていると、
よく聞きなれた声で呼ばれた。
「よぉルロイ。まぁた、会ったでヤァ」
「やぁ、ディエゴですか」
振り返ればディエゴが、
気さくに挨拶してくる。
仕事で街をフラ付いていると、
こうしてディエゴとかち合うこと
が多いルロイだったが、
今は渡りに船である。
「まぁ、ちょっと来いだヤァ」
そんなルロイの胸の内を
既に察してかディエゴが
人気のない裏路地へ来るよう、
さりげなく指で合図をする。
「オメェはまぁた、
厄介な仕事に首突っ込んでるでヤァ」
ディエゴはキョロキョロと
路地裏を見回しつつ、
毛むくじゃらの犬耳をそばだてる。
どうやらここならば
安心して話せるらしい。
「いつもの事ですよ」
「まぁ、そのおかげで
こうしてオイラはメシに
ありつけるからいいんヤァが」
その口ぶりからして、
ディエゴにとってもルロイと
遭遇したことは渡りに船の
状況らしい。
「で、今回はドルップ商会が絡んだ
厄介事を追っているってことで、
いいのかヤァ?」
「ええ、ご明察です」
ルロイも慣れた手つきで、
いつものオークの大腿骨と、
それに加えて銀貨数枚の色を付けて、
ディエゴに手渡す。
「まぁ、事情を聞こうじゃないかヤァ」
ルロイはモリーから聞かされた、
ドルップ商会との無権代理による
取引の話をディエゴに説明した。
「ふぅむ、それで商館の前で、
途方に暮れていたいう訳かヤァ」
「何かドルップ氏と会う手段は
ないですかね。
本当に商館に居ないなら、
せめて行方だけも心当たりは
ありませんか?」
ルロイが問いかけると、
ディエゴは難しそうに耳を
ひくつかせ唸っている。
情報通のディエゴの嗅覚を
もってしても手掛かりなしなのか、
とルロイが落胆しかけたその時。
「やっぱり、あの時のアイツら
ドルップの手下だったかヤァ」
ディエゴがおもむろに口を開いた。
数日前ディエゴがまた
コカトリスでもちょろまかそうと、
リーゼの工房に忍び込もうとした時、
数人の怪しい男が、
工房の様子を覗いており、
リーゼの完成直後の発明品を
手に入れるために、
なにやら密談しているところを
見たと言う。
「なるほど、一歩核心に
近づけた気がしますよ」
やはり今回の事件は、
仕組まれた可能性が高いようだ。
しかしあらかじめ発明品狙いで、
モリーを罠にかけ結果、
リーゼが取引を追認せず、
目的のブツを手に入れることは、
失敗している。
痺れを切らせたドルップが、
工房に冒険者崩れをけしかけ、
その発明品を奪う強硬策に
出ないとも限らない。
いったんリーゼにこのことを
伝えた方が良いだろうか。
いやあのリーゼが簡単に、
冒険者崩れごときに大事な
発明品を奪われる失態は犯すまい。
そこまで考えて、
ルロイはためらうのをやめる。
「もうひとつ気になる事が
あってヤァ……」
そう言うとディエゴは、
裏路地の石畳の一枚を
慣れた手つきでクルリと剥がす。
いつぞやの時もお世話になった、
レッジョに張り巡らされた、
秘密の地下道である。
「どうもドルップ商会の奴ら、
ここを使って何かを大量に
運んでるみたいでヤァ」
人目に付かない地下道を
使っての大量のブツの運搬。
恐らくは密輸のたぐいだろうが、
単なる禁制品の輸入では済まない。
なにかおぞましい予感がする。
「商会の連中アコギどころか、
かなりヤベェ事に手を染めてる
臭いがプンプンするでヤァ」
ディエゴも直感的に、
今回の事件はいつも以上に、
危険なものを感じ取っているらしい。
「地下通路はレッジョ中どこでも、
網の目みたく繋がってるヤァが、
上手くたどって行けば、
商館の中に潜り込める
かもしれねぇだヤァ」
「ええ、今回もここを頼りに
させてもらいますよ」
ルロイはいつでも身を守れるよう
チンクエデアを抜き身のまま持ち、
地下道へと潜り込んで行く。
「今回はたくさん貰っちまったし、
オイラの方でも商会の様子を
探ってみるでヤァ。
オメェもヤバそうになったら、
とっと逃げるんだヤァ」
ディエゴが照れくさそうに
舌を出しルロイの身を案じる。
「ご協力ありがとうございます。
お互いくれぐれも気を付けて
行きましょう」
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お互い請け負う仕事は違えど、
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