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第四章 竜夢 ~即時取得~

ケープ術

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「ははは、ふぅ……やっぱり」

 悪い予感はすぐに当たり、
 糠喜びはすぐに終わるものである。
 こんなありきたりな事に、
 ルロイはもう慣れっこなのである。
 マティスが戦鬼と戦っている隙に、
 すでにルロイは戦闘態勢に入っていた。

「それが、お前さんの得物か?」

 槍で武装した戦鬼を
 突きのフェイントで釣り、
 マティスは戦鬼の喉を
 ハルバードで刺突する。
 また一体戦鬼を倒したマティスが、
 ルロイに興味深げに声を掛ける。

「ええ、チンクエデアと言うんですが、
 護身用としてなかなか
 使い勝手が良い短剣です」

 ルロイが右腕に握った剣は、
 丁度、握り柄の重心の刃が
 五本の指の分もある
 幅広の両刃の短剣である。
 それだけなら何のことはない、
 マティスの好奇の視線は
 ルロイの左腕に注がれていた。

「ほぉ、で……左手はどうしたい、
 着ていたケープを腕に巻き付けただと?」

「おかしいですか?
 僕は公証人で武器の扱いには
 長けてないですからね。
 身の回りで使えるものを
 武器にするんですよ」

 ルロイの左腕にはそれまで
 自身が羽織っていた黒いケープが
 グルグルと巻きついており、
 半ばマントのように垂らしている。
 ルロイは、チンクエデアとケープを
 それぞれの手に持ち、
 戦鬼を静かに見据える。
 先に動いたのは戦鬼だった。
 構えたまま全く動じないルロイに
 しびれを切らし、
 ルロイの首筋に向かって
 素早い剣の一撃を振るってきた。
 ルロイはすかさずケープを
 巻き付けた左腕で斬撃を弾く。
 続けての斬撃も、
 同じように左腕であしらうように弾く。
 次第に剣を振るう戦鬼が苛立ち、
 攻撃が荒く大振りになってゆく
 につれ隙が大きくなる。
 ルロイはその隙を突き、
 まずはチンクエデアで戦鬼の剣を
 持った右手首を切り落とす。
 続けて、思わぬ反撃に戸惑う
 戦鬼の喉をその幅広の刃で貫く。
 一体倒した喜びに浸る間もなく、
 今度はルロイの右側面から
 重そうな戦斧を振りかざした
 太った戦鬼が奇声を上げ突進してくる。

「ゴアァァァ」

「っわ!」

 ルロイは慌てて飛びのき、
 斧の想い一撃を避ける。
 戦鬼は、階段の一部を砕き
 突き刺さった戦斧を強引に抜き取り、
 再び唸り声を上げて
 突進の姿勢を取り始める。
 ルロイはその隙に、
 左手に巻き付けてあったケープ
 を完全にほどいていた。

「そら!」

 先ほどと同じく
 斧を振り上げ突進する戦鬼の足を狙い、
 ルロイはケープを投げ込んだ。
 ケープは戦鬼の両足に絡まり、
 太った戦鬼は勢いよく
 顔面から石床へ倒れこむ。
 後は倒れこんだ戦鬼の背中を踏みつけ、
 ルロイはチンクエデアを
 真上から振りかざし戦鬼の首に
 トドメの一撃をくれてやる。

「ほぉ、やるじゃねぇか」

 感嘆したようにマティスが口笛を吹く。

「いえ、それほどでも」

 ケープ術と言う護身術がある。
 その名の通り生地の厚いケープや
 外套で敵の攻撃を弾いたり、
 かく乱する一種の戦闘技術である。
 こんな時のために、
 ルロイは厚みのあるケープを
 普段から身に着けている。
 それゆえに、腕に巻き付ければ
 剣による斬撃を盾代わりにもなり、
 こうして敵の足に引っ掛け
 転倒させることもできる。
 慣れない戦闘で精一杯でルロイは
 気が付かなかったが、
 あたりを見回せば、
 大方の戦鬼はマティスが片づけたらしい。
 自分もそれなりに頑張ってみせたが、
 やはり竜騎士は格が違うらしい。
 ルロイは若干傷と血で傷んだ
 ケープを手に取り、
 再び腕を通そうとしたその時。

「――――っ!」

「シャアァァァ」

 柱か何か、それまで
 死角になる場所に隠れていたのだろう。
 鎌を持った小柄な戦鬼が
 ルロイに飛び掛かってくる。
 咄嗟にチンクエデアを投げ捨て、
 ルロイは手にしたケープを戦鬼の頭部を
 包み込むようにして巻き付ける。
 小柄な戦鬼は顔をケープで
 覆われもがいている。
 ルロイはその両端に渾身の力を込める。
 しばらくして、何かが砕きへし折れる
 不快な音が響き、戦鬼は糸が切れた
 人形のように石床へ力なく倒れこんだ。

「ケープで、首をへし折っただと!」

 しばらくの沈黙の後、
 マティスが感嘆したように口を開く。

「まったく、ヒヤヒヤものですよ……」

 ようやくケープを着直し、
 ルロイは安堵の息を吐く。
 ケープ術にはケープを相手の頭部に
 巻き付けて首をへし折るという
 格闘術もあると言う。
 もっとも、高度な技であると同時に
 特殊な技であるため
 咄嗟にできるものではない。
 長らく戦いから身を引いていた
 ルロイとしても、成功したことが
 内心信じられないくらいであった。
 そんなルロイにマティスは
 愉快そうに問うのだった。

「おい、お前も昔は冒険者だったのか?」

「あ、バレちゃいました」

「お前のような素人がいるか!」

「まぁ……昔の話ですよ。人生色々。
 だから、詳しくは聞かないで下さい」

「違ぇねぇ」

 自嘲するようにマティスは
 ほろ苦く笑って見せると、
 もう精悍な戦士の顔に戻っていた。
 ルロイはそんなマティスと一時でも
 共に戦えたことで、かつての追憶が蘇る。

「進みましょう」

「ああ」

 マティスとルロイは、
 共に塔の高みを目指す。
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