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第一章 死霊使いの薔薇石 ~第三者による詐欺行為~
プロローグ 冥府の泉にて
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とうの昔に死に絶えたような、
穴だらけの暗い暗いダンジョンの底。
そんなところに私たちはいます。
僅かに灯るカンテラと松明の光が、
ダンジョン内の岩だか骨だかを
頼りなく照らし出しています。
「おい、そっちはどうだ?」
「ダメだ、スケルトンの残骸しかねぇ」
「こっちは、腐った宝箱の破片か……」
暗闇の中で複数の声が響き渡ります。
ここは『冥府の泉』の最奥。
冒険者が挑むダンジョンとしては
ありふれた洞窟型のもので、
今は下位アンデットの
残骸が散乱しています。
「しけてやがるぜ。
もうめぼしいモンはなさそうだな」
パーティリーダーさんの野太い声が、
ダンジョンの洞内に響きます。
皆さんスケルトンやらゾンビ犬の
遺体を乱暴に漁っては放り投げたり、
あるいは解体してアイテムになりそうな
モノを物色しています。
数日前に私とパーティを組んだばかりの
仲間の皆さんはがめついようで、
下位のモンスターからも取れるものは
取り尽くすつもりのようです。
「こ、こっちも収穫なしですぅ……」
私も気が進まないながら、
カンテラ片手に死霊使いとして
皆さんを手伝います。
あまりがっつくと私たちに
死者の呪いが降り掛からないか、
そんな不安が背筋を這いずるようで、
すでに私も諦めかけていたところです。
そんな時、私はかすかに残った
死者の思念をたどり、
思念が糸のように巻き付き蠢いている
ソレを見つけたのでした。
「アナ、そろそろずらかるぞ」
ソレに意識を集中させていた
私は名前を呼ばれ、
思わずびくりと体を震わせます。
「すっ、すみません!
ちょっとだけ……待って下さい」
手に取ったソレを
カンテラに近づけます。
光に照らし出され、
その表面が煌めきます。
言い伝え通り薔薇の形をした
鉱石の鮮やかな真紅に、
私の瞳は思わずうっとりと
引き込まれてしまうのです。
これこそ私が長らく求めてきたもの。
指先で撫でると荘厳でありながら
優美な鉱石の肌を感じ、
私は探し物がようやく見つかり
小躍りしたくなりました。
その名は、薔薇石――――
「う――――」
カンテラの光のせいで
目がチカチカしたのだと思いました。
後頭部を殴られたような鈍い痛み。
これは何者かの攻撃だと、
気づいたころにはもう手遅れでした。
「汝の……をよこせ」
何かの囁きが私の耳を
通り抜けてゆきます。
「おい大丈夫か!
しっかりしろ――――」
遠くで誰かに、
呼ばれた気がしたような。
どこかひどく懐かしい顔が、
一瞬だけ私の脳裏をよぎったような。
それを最後に、
意識が赤黒い闇へと螺旋を描いて、
堕ちてゆくのでした。
穴だらけの暗い暗いダンジョンの底。
そんなところに私たちはいます。
僅かに灯るカンテラと松明の光が、
ダンジョン内の岩だか骨だかを
頼りなく照らし出しています。
「おい、そっちはどうだ?」
「ダメだ、スケルトンの残骸しかねぇ」
「こっちは、腐った宝箱の破片か……」
暗闇の中で複数の声が響き渡ります。
ここは『冥府の泉』の最奥。
冒険者が挑むダンジョンとしては
ありふれた洞窟型のもので、
今は下位アンデットの
残骸が散乱しています。
「しけてやがるぜ。
もうめぼしいモンはなさそうだな」
パーティリーダーさんの野太い声が、
ダンジョンの洞内に響きます。
皆さんスケルトンやらゾンビ犬の
遺体を乱暴に漁っては放り投げたり、
あるいは解体してアイテムになりそうな
モノを物色しています。
数日前に私とパーティを組んだばかりの
仲間の皆さんはがめついようで、
下位のモンスターからも取れるものは
取り尽くすつもりのようです。
「こ、こっちも収穫なしですぅ……」
私も気が進まないながら、
カンテラ片手に死霊使いとして
皆さんを手伝います。
あまりがっつくと私たちに
死者の呪いが降り掛からないか、
そんな不安が背筋を這いずるようで、
すでに私も諦めかけていたところです。
そんな時、私はかすかに残った
死者の思念をたどり、
思念が糸のように巻き付き蠢いている
ソレを見つけたのでした。
「アナ、そろそろずらかるぞ」
ソレに意識を集中させていた
私は名前を呼ばれ、
思わずびくりと体を震わせます。
「すっ、すみません!
ちょっとだけ……待って下さい」
手に取ったソレを
カンテラに近づけます。
光に照らし出され、
その表面が煌めきます。
言い伝え通り薔薇の形をした
鉱石の鮮やかな真紅に、
私の瞳は思わずうっとりと
引き込まれてしまうのです。
これこそ私が長らく求めてきたもの。
指先で撫でると荘厳でありながら
優美な鉱石の肌を感じ、
私は探し物がようやく見つかり
小躍りしたくなりました。
その名は、薔薇石――――
「う――――」
カンテラの光のせいで
目がチカチカしたのだと思いました。
後頭部を殴られたような鈍い痛み。
これは何者かの攻撃だと、
気づいたころにはもう手遅れでした。
「汝の……をよこせ」
何かの囁きが私の耳を
通り抜けてゆきます。
「おい大丈夫か!
しっかりしろ――――」
遠くで誰かに、
呼ばれた気がしたような。
どこかひどく懐かしい顔が、
一瞬だけ私の脳裏をよぎったような。
それを最後に、
意識が赤黒い闇へと螺旋を描いて、
堕ちてゆくのでした。
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