異世界で目覚めたら、王子に溺愛される悪役令嬢になってました。

香取鞠里

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 あり得ないことが起こった。

 今、私の真上には王子が影を作っている。


「サニア姫、愛してる」


 熱く耳元で囁かれた直後、甘いキスを落とされる。

 口内を舌でかき回されることで、意図しなくても声が漏れた。

 汗ばむ肌がぶるつかる。

 こんな夢のようなことがあっていいのだろうか。

 背中に手を回せば、王子も私の後頭部に手を添えて密着させてくる。


 「私も愛してるわ、王子」


 お互いに満たされて目を閉じれば、ふわふわとした夢の中に誘われた。

 王子に抱かれた日を境に、私は毎晩のように王子に抱かれた。

 幸せだった。

 最初はもとの世界に戻らなきゃとかそんなことばかり考えていたけれど、今が幸せだからそれでいいやとさえ思っていた。


 そんなある日目覚めたら、私はある違和感に気づいた。

 ふかふかの白い布団に、窓から差し込む朝日。

 ぼんやりとする視界で辺りを見回せば、私が小さい頃からお世話になっている勉強机や昔お母さんに買ってもらったぬいぐるみの置かれた棚がある。


 あれ……?


 何となく懐かしい光景に誘われるように視線を自分に落とすと、王子からもらった寝巻き用のドレスではなく、三年前から使っている古びた水色のパジャマを身に付けていた。


「ほら、起きなさい! いつまで寝ているの!」


 お母さんの声だ。ドスドスと階段を上がってくると、こちらに鬼のような顔で怒鳴り込んできた。


「お母さん……どうして……」

「なに寝ぼけた顔して言ってるの? 遅刻するわよ」


 久しぶりに会うお母さんに信じられないような懐かしいような気持ちになるとともに、そんな私を見てお母さんは呆れたように目を細めて部屋を出ていった。

 遅刻と聞いてピンと来なかったけれど、私は近所の大学の二年生だ。

 慌てて今日の日付と曜日を確認すると、朝一から講義の入っている日だった。

 どうやらゲームをしていた夜の次の日のようだ。
 長い夢を見ていたのだろうか。

 それにしてはやけに現実味を帯びていて、すぐには夢だっただなんて信じられなかった。

 けれど、どうやってあのゲームの世界に行ったのかわからない私は、どうすればあのゲームの中に戻れるのかわからない。

 わかるのは、自分の意思であのゲームの中を行き来できるわけではないということだ。

 その事実に気づいた途端、私の目からは熱い涙が一気にあふれでた。
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