2 / 3
2
しおりを挟む
あり得ないことが起こった。
今、私の真上には王子が影を作っている。
「サニア姫、愛してる」
熱く耳元で囁かれた直後、甘いキスを落とされる。
口内を舌でかき回されることで、意図しなくても声が漏れた。
汗ばむ肌がぶるつかる。
こんな夢のようなことがあっていいのだろうか。
背中に手を回せば、王子も私の後頭部に手を添えて密着させてくる。
「私も愛してるわ、王子」
お互いに満たされて目を閉じれば、ふわふわとした夢の中に誘われた。
王子に抱かれた日を境に、私は毎晩のように王子に抱かれた。
幸せだった。
最初はもとの世界に戻らなきゃとかそんなことばかり考えていたけれど、今が幸せだからそれでいいやとさえ思っていた。
そんなある日目覚めたら、私はある違和感に気づいた。
ふかふかの白い布団に、窓から差し込む朝日。
ぼんやりとする視界で辺りを見回せば、私が小さい頃からお世話になっている勉強机や昔お母さんに買ってもらったぬいぐるみの置かれた棚がある。
あれ……?
何となく懐かしい光景に誘われるように視線を自分に落とすと、王子からもらった寝巻き用のドレスではなく、三年前から使っている古びた水色のパジャマを身に付けていた。
「ほら、起きなさい! いつまで寝ているの!」
お母さんの声だ。ドスドスと階段を上がってくると、こちらに鬼のような顔で怒鳴り込んできた。
「お母さん……どうして……」
「なに寝ぼけた顔して言ってるの? 遅刻するわよ」
久しぶりに会うお母さんに信じられないような懐かしいような気持ちになるとともに、そんな私を見てお母さんは呆れたように目を細めて部屋を出ていった。
遅刻と聞いてピンと来なかったけれど、私は近所の大学の二年生だ。
慌てて今日の日付と曜日を確認すると、朝一から講義の入っている日だった。
どうやらゲームをしていた夜の次の日のようだ。
長い夢を見ていたのだろうか。
それにしてはやけに現実味を帯びていて、すぐには夢だっただなんて信じられなかった。
けれど、どうやってあのゲームの世界に行ったのかわからない私は、どうすればあのゲームの中に戻れるのかわからない。
わかるのは、自分の意思であのゲームの中を行き来できるわけではないということだ。
その事実に気づいた途端、私の目からは熱い涙が一気にあふれでた。
今、私の真上には王子が影を作っている。
「サニア姫、愛してる」
熱く耳元で囁かれた直後、甘いキスを落とされる。
口内を舌でかき回されることで、意図しなくても声が漏れた。
汗ばむ肌がぶるつかる。
こんな夢のようなことがあっていいのだろうか。
背中に手を回せば、王子も私の後頭部に手を添えて密着させてくる。
「私も愛してるわ、王子」
お互いに満たされて目を閉じれば、ふわふわとした夢の中に誘われた。
王子に抱かれた日を境に、私は毎晩のように王子に抱かれた。
幸せだった。
最初はもとの世界に戻らなきゃとかそんなことばかり考えていたけれど、今が幸せだからそれでいいやとさえ思っていた。
そんなある日目覚めたら、私はある違和感に気づいた。
ふかふかの白い布団に、窓から差し込む朝日。
ぼんやりとする視界で辺りを見回せば、私が小さい頃からお世話になっている勉強机や昔お母さんに買ってもらったぬいぐるみの置かれた棚がある。
あれ……?
何となく懐かしい光景に誘われるように視線を自分に落とすと、王子からもらった寝巻き用のドレスではなく、三年前から使っている古びた水色のパジャマを身に付けていた。
「ほら、起きなさい! いつまで寝ているの!」
お母さんの声だ。ドスドスと階段を上がってくると、こちらに鬼のような顔で怒鳴り込んできた。
「お母さん……どうして……」
「なに寝ぼけた顔して言ってるの? 遅刻するわよ」
久しぶりに会うお母さんに信じられないような懐かしいような気持ちになるとともに、そんな私を見てお母さんは呆れたように目を細めて部屋を出ていった。
遅刻と聞いてピンと来なかったけれど、私は近所の大学の二年生だ。
慌てて今日の日付と曜日を確認すると、朝一から講義の入っている日だった。
どうやらゲームをしていた夜の次の日のようだ。
長い夢を見ていたのだろうか。
それにしてはやけに現実味を帯びていて、すぐには夢だっただなんて信じられなかった。
けれど、どうやってあのゲームの世界に行ったのかわからない私は、どうすればあのゲームの中に戻れるのかわからない。
わかるのは、自分の意思であのゲームの中を行き来できるわけではないということだ。
その事実に気づいた途端、私の目からは熱い涙が一気にあふれでた。
1
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。
髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は…
悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。
そしてこの髪の奥のお顔は…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドで世界を変えますよ?
**********************
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生侍女シリーズ第二弾です。
短編全4話で、投稿予約済みです。
よろしくお願いします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。
お嬢様の悩みは…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴッドハンドで世界を変えますよ?
**********************
転生侍女シリーズ第三弾。
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
異世界の神は毎回思う。なんで悪役令嬢の身体に聖女級の良い子ちゃんの魂入れてんのに誰も気付かないの?
下菊みこと
恋愛
理不尽に身体を奪われた悪役令嬢が、その分他の身体をもらって好きにするお話。
異世界の神は思う。悪役令嬢に聖女級の魂入れたら普通に気づけよと。身体をなくした悪役令嬢は言う。貴族なんて相手のうわべしか見てないよと。よくある悪役令嬢転生モノで、ヒロインになるんだろう女の子に身体を奪われた(神が勝手に与えちゃった)悪役令嬢はその後他の身体をもらってなんだかんだ好きにする。
小説家になろう様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。
白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。
筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。
ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。
王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢なのに、完落ち攻略対象者から追いかけられる乙女ゲーム……っていうか、罰ゲーム!
待鳥園子
恋愛
とある乙女ゲームの悪役令嬢に生まれ変わったレイラは、前世で幼馴染だったヒロインクロエと協力して、攻略条件が難し過ぎる騎士団長エンドを迎えることに成功した。
最難易度な隠しヒーローの攻略条件には、主要ヒーロー三人の好感度MAX状態であることも含まれていた。
そして、クリアした後でサポートキャラを使って、三人のヒーローの好感度を自分から悪役令嬢レイラに移したことを明かしたヒロインクロエ。
え。待ってよ! 乙女ゲームが終わったら好感度MAXの攻略対象者三人に私が追いかけられるなんて、そんなの全然聞いてないんだけどー!?
前世からちゃっかりした幼馴染に貧乏くじ引かされ続けている悪役令嬢が、好感度関係なく恋に落ちた系王子様と幸せになるはずの、逆ハーレムだけど逆ハーレムじゃないラブコメ。
※全十一話。一万五千字程度の短編です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄された悪役令嬢は王子様に溺愛される
白雪みなと
恋愛
「彼女ができたから婚約破棄させてくれ」正式な結婚まであと二年というある日、婚約破棄から告げられたのは婚約破棄だった。だけど、なぜか数時間後に王子から溺愛されて!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ヤンデレ悪役令嬢は僕の婚約者です。少しも病んでないけれど。
霜月零
恋愛
「うげっ?!」
第6王子たる僕は、ミーヤ=ダーネスト公爵令嬢を見た瞬間、王子らしからぬ悲鳴を上げてしまいました。
だって、彼女は、ヤンデレ悪役令嬢なんです!
どうして思いだしたのが僕のほうなんでしょう。
普通、こうゆう時に前世を思い出すのは、悪役令嬢ではないのですか?
でも僕が思い出してしまったからには、全力で逃げます。
だって、僕、ヤンデレ悪役令嬢に将来刺されるルペストリス王子なんです。
逃げないと、死んじゃいます。
でも……。
ミーヤ公爵令嬢、とっても、かわいくないですか?
これは、ヤンデレ悪役令嬢から逃げきるつもりで、いつの間にかでれでれになってしまった僕のお話です。
※完結まで執筆済み。連日更新となります。
他サイトでも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる