旦那様は私より幼馴染みを溺愛しています。

香取鞠里

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 ジャックの浮気現場といっても、詳しいことまで教えてもらえたわではない。

 だから私はジャックのあとをつけることにしたのだ。

 いわゆる尾行というやつだ。


 その日、ジャックが街に出かけたあと、私はいつも着ている服から知り合いから借りた町娘の服に着替える。

 そしてジャックの働く商店の方へ出向いだ。

 ジャックは商店で絹屋を営んでいる。

 私は目当ての商店に着くと、物陰からその商店の中をうかがっていた。

 商店の中は人はおらず、ジャックは暇そうにしていた。

 ちゃんと仕事をしているのかしら……?

 思わずそんなことを思うが、尾行している自分が言えることではないだろう。

 しばらくしてやっと客が入った。けれど、私は店内に入った人物の姿を見て絶句した。

 その人物とは、紛れもなくジャックの幼馴染みのシェリーだったからだ。

 どうして……!

 ジャックとシェリーが外でも顔を合わせているのは知っているが、やっぱりちょっと異常なのではないだろうか。

 めまいを覚えそうになりながら、私はこっそり店内に入る。

 シェリーがお店に入ってわりとすぐに店内に忍び込んだはずなのに、そこにシェリーの姿はなかった。

 どこに行ったのだろう。
 出口がひとつしかないお店。今の間にシェリーが店を出ていったということはまずないだろう。

 キョロキョロと物陰に隠れて店内を見回していると、奥の方からシェリーの声が微かに聞こえてきた。

 それは、店内の奥にあるジャックの休憩所だ。

 そこでお店の事務作業をしたり食料を取ったりしているらしい。
 忙しくて泊まりこむときはここで寝泊まりしているのだと聞いたことがある。

 中で話でもしているのだろうか?


「ん……っ、あ……っ」


 けれど近づいて聞こえた声に、思わず身が強ばった。

 違う。

 これは、決定的な瞬間だと思った。

 もう声だけで二人が何をしているかなんて明白だった。確認なんていらないのに確認してしまったのは、私はどこかでジャックを信じていたからなのかもしれない。


「ああっ、ジャック」

「シェリー、愛してる」


 いくら浮気してるかもと事前に聞かされていたとはいえ、誰が想像ついただろう。

 自分の旦那が、彼の幼馴染みと裸で抱き合っているだなんて……。

 しかも愛してるって……。

 反吐が出そうだ。

 結局、ジャックにとって私との結婚は家同士が決めたからで、ラブラブな新婚生活はただの茶番に過ぎなかった。

 この日、私の中で何かが切れた。
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