暗殺目的で結婚に挑んだ王女は、敵国の王子に溺愛されました。

香取鞠里

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 母親には、暗殺が失敗したこと、私はもうシグノアに帰らないことを手紙に記して、使者に持たせた。
 きっとこんな状態で帰ったところで、私の居場所はない。
 これから、どうしようか。


「どうして自国に帰らない?」

 そのとき、こちらに歩いてきたクラウドに話しかけられる。


「式は明日だが、俺と結婚するつもりなのか?」

「それを許されるのであれば、でも、嫌でしょう?」

「へぇ、誰も嫌とは言ってないが、結婚してゆっくり俺に毒を盛るつもりか?」

「違う。……クラウド殿下を、好きになってしまったから、もう私にあなたは殺せない」

「俺を好きだから? 毒殺しようとしてたのに? ふーん」

 クラウドは少し驚いた顔をした後、皮肉っぽくそう言った。
 予定どおりでは、式は明日だ。
 式が中止になったという話は聞いていないが、一体クラウドは何を考えているのだろう?


「そんなこと手のひら返したように言われたって、信じられるわけないだろ」

「そうね」


 そればかりは、仕方がないだろう。


「けど、私がここを出ていかなかったら、あなたは私と本気で結婚するつもりなの?」

「まぁ、形の上でな」

 クラウドは、私に自国に帰って構わないといいながら、本当のところは両国が友好的な関係であることを形だけでも示したいのだろう。


「私はどうすればいい?」

 クラウドがチラリと私を見る。
 そして、深く息を吐き出すと、窓の外を見つめて言った。

「今の時期、ここから見える崖の真ん中に、黄金色の花が咲いてるはずだ。幻の花といわれている。それを取って来れたらお前をもう一度信じてもいい」

 クラウドの視線をたどると、崖の中腹あたりに少し足の踏み場があった。そこのことだろう。
 一度上まで登って、滑り降りるしかないかしら。


「……わかったわ」

 私はそれだけ告げると、早くとばかりに部屋を飛び出した。



 崖の上の山頂は、部屋の窓から見てた以上に高かった。このふもとがちょうど王宮のはなれの裏にあたるため、私の仮住まいの部屋からこの崖は見えていた。

 部屋から見えていた感じ、中腹は思っていたより下の方なのだろう。

 私は命綱として頼りない感じはあるが、近くの木に充分な長さのロープを縛り付ける。


「アリー様」

「大丈夫よ。万が一のときは、あなたは行って。無事に降りられたらロープは切るから」

「そんなことできません。アリー様に何かあったときは、私もこのロープを伝って降りますので!!」

「それじゃあ意味ないでしょ」


 私はもしものときのことを侍女に託して、崖を滑り降りた。
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