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「もしかして、戦でシグノアの王が命を落としたことを……」
私は小さくうなずいた。
言いたいことはたくさんあったはずなのに、いざとなると、言葉にならなかったのだ。
「あのときは、敵同士だったから。ああするしかなかったんだ。今となってみれば、すまないことをしたと思っている」
すまないだなんて、本当に思っているのだろうか。
そのおかげで、今、ルカリアが勝利し、ルカリア国はより豊かになったというのに。
「そんなに俺が気にくわなくて殺したいなら、殺せよ」
抑揚のない声でそう告げるクラウドは、どこか投げやりのような言い方だった。
私の目的は、クラウド殿下の暗殺。
これは、私に再度チャンスが与えられたということだ。
だけど、私は思わず首を横にふる。
私にはクラウドを殺せない。
いつまでも過去にとらわれていることに、クラウドを殺したところで父親は帰ってこないことに、クラウド殺したところでシグノアが勝利者になるわけでも豊かになるわけでもないと、心のどこかでわかっていたからだ。
今、シグノアが最低限の生活を保証されているのは、他でもないルカリアのおかげでもあるからだ。
そして何より、私は、やはりクラウドに心を奪われているから──。
「なぜ殺さない? ならば、俺はお前を反逆者として罰する必要がある」
反撃とばかりにクラウドは腰の剣を握ると、私に振りかざした。
思わず目をつむると、私の顔のすぐ横を剣が通ったようだ。恐る恐る目を開けると、顔のすぐ隣に銀色の剣が見えた。
「本気で怯えてんの? バカだな。俺がお前を剣で突き刺せるかよ……」
そして、あろうことか私が逃げられないような力で私を抱き締めてきたのだ。
「好きだって言っただろ……。けど、無傷のまま帰せない」
クラウドはそう言うと、私が全く抵抗できないような力で私を押さえつけて、私の服を剥ぎ取った。
「アリー」
乱暴なのに、指先や唇は優しく私の肌に触れる。
「アリー」
そう、何度も私を呼びながら、何度もキスを落として、クラウドは苦しそうに私を抱いた。
抵抗こそしたけれど、全く敵わなかった。
けど、本気で嫌だとは思っていなかった。
私も、クラウドのことが好きになっていたから。
復讐なんて、できなかった。
こんな私、クラウドに剣で突き刺された方が良かったのかもしれない。
どちみちもう、穏やかにクラウドとは過ごせないのだろうから。
「殺そうとするくらい憎い男に抱かれるってどんな気持ちなんだろうな……」
最後に、ご丁寧にそばに脱ぎ捨てたままになっていた服を寄越したクラウドは、静かにそう告げた。
「まぁ、婚約破棄にするつもりなら、式までに自国に帰れ」
私が何かを答えるより先に、クラウドは私の方を見ることもせずにそう吐き捨てると、颯爽と部屋を出ていった。
「アリー様!」
そのあとすぐに、私の侍女が入ってきて、半分しか着れていない服を見て、心底心配してくれていた。
私は何かを言うかわりに、侍女に抱きついて大泣きした。
私は小さくうなずいた。
言いたいことはたくさんあったはずなのに、いざとなると、言葉にならなかったのだ。
「あのときは、敵同士だったから。ああするしかなかったんだ。今となってみれば、すまないことをしたと思っている」
すまないだなんて、本当に思っているのだろうか。
そのおかげで、今、ルカリアが勝利し、ルカリア国はより豊かになったというのに。
「そんなに俺が気にくわなくて殺したいなら、殺せよ」
抑揚のない声でそう告げるクラウドは、どこか投げやりのような言い方だった。
私の目的は、クラウド殿下の暗殺。
これは、私に再度チャンスが与えられたということだ。
だけど、私は思わず首を横にふる。
私にはクラウドを殺せない。
いつまでも過去にとらわれていることに、クラウドを殺したところで父親は帰ってこないことに、クラウド殺したところでシグノアが勝利者になるわけでも豊かになるわけでもないと、心のどこかでわかっていたからだ。
今、シグノアが最低限の生活を保証されているのは、他でもないルカリアのおかげでもあるからだ。
そして何より、私は、やはりクラウドに心を奪われているから──。
「なぜ殺さない? ならば、俺はお前を反逆者として罰する必要がある」
反撃とばかりにクラウドは腰の剣を握ると、私に振りかざした。
思わず目をつむると、私の顔のすぐ横を剣が通ったようだ。恐る恐る目を開けると、顔のすぐ隣に銀色の剣が見えた。
「本気で怯えてんの? バカだな。俺がお前を剣で突き刺せるかよ……」
そして、あろうことか私が逃げられないような力で私を抱き締めてきたのだ。
「好きだって言っただろ……。けど、無傷のまま帰せない」
クラウドはそう言うと、私が全く抵抗できないような力で私を押さえつけて、私の服を剥ぎ取った。
「アリー」
乱暴なのに、指先や唇は優しく私の肌に触れる。
「アリー」
そう、何度も私を呼びながら、何度もキスを落として、クラウドは苦しそうに私を抱いた。
抵抗こそしたけれど、全く敵わなかった。
けど、本気で嫌だとは思っていなかった。
私も、クラウドのことが好きになっていたから。
復讐なんて、できなかった。
こんな私、クラウドに剣で突き刺された方が良かったのかもしれない。
どちみちもう、穏やかにクラウドとは過ごせないのだろうから。
「殺そうとするくらい憎い男に抱かれるってどんな気持ちなんだろうな……」
最後に、ご丁寧にそばに脱ぎ捨てたままになっていた服を寄越したクラウドは、静かにそう告げた。
「まぁ、婚約破棄にするつもりなら、式までに自国に帰れ」
私が何かを答えるより先に、クラウドは私の方を見ることもせずにそう吐き捨てると、颯爽と部屋を出ていった。
「アリー様!」
そのあとすぐに、私の侍女が入ってきて、半分しか着れていない服を見て、心底心配してくれていた。
私は何かを言うかわりに、侍女に抱きついて大泣きした。
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