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結婚式まで数日を残すのみとなり、次第に焦りの気持ちが募る。
クラウドに嘘か本当かわからない好き、本気という言葉をもらって、少なからず困惑する私もいるが、だからといって母親を裏切って復讐を辞めるなんてできない。
どうしよう……。
いろんな意味の籠ったその言葉が頭の中をぐるぐる回る度に、首を強く振ってかき消した。
そんな中、転機が訪れる。
「一緒にティータイムはどうだ?」
「はい?」
「アリー王女の淹れる紅茶が飲みたい」
まさか、自ら毒薬を盛ってくださいとばかりの言葉をかけられると思わなかった。
すぐに私の侍女とクラウドの侍女が私の部屋をティータイムができるように準備をしてくれる。
私は紅茶を淹れるときに、クラウドの紅茶に猛毒の粉末を混ぜて差し出した。
「ありがとう。さすがアリー王女。良い匂いだ」
猛毒が入っていることも知らず、そんな呑気なことを言ってのけるクラウド。
粉末は無味無臭だから仕方ないとはいえ、大切に嗅覚でお茶を味わったあと、何の疑いもなくカップに口つけようとするクラウドを見ていると、何とも言えない気持ちが込み上げた。
「ダメ……!」
今にも紅茶を飲もうとしたクラウドを突き飛ばしていた。
猛毒入りの紅茶は宙を舞い、床に音を立てて落ちた。
せっかくのチャンスだったのに、私は一体何をやっているのだろう。
でも……。
私の淹れたお茶をあんな風に味わってくれたクラウドを、私に本気だと伝えてきたクラウドを、クラウドに対して決してよく思われようと取り繕っていないのに私のことを疑うこともせずに親切に接してくるクラウドを、毒殺するなんて、私にはできなかった。
「どうした? アリー王女」
「飲んじゃ、ダメ」
クラウドを見た感じ、口に紅茶が入ってしまった様子はなさそうだ。
ホッとするのも束の間、少しいぶかしそうにクラウドは私を見つめている。
「ど、毒がはいっているの……」
そう私が口にした直後、私の真意を悟ったらしいクラウドは、私の侍女とクラウドの侍女を部屋から出した。
「大丈夫だから。アリー王女が落ち着くまで、二人にしてほしい」
部屋のドアが閉まる前、酷く心配そうに私を見つめる侍女と目が合った。
「アリー王女? 毒とは?」
「言葉のままです。あの紅茶には、毒が入っていました」
「どうしてそれがわかる」
「そんなの、考えたらわかるでしょう?」
そう告げると、クラウドは少し悲しそうに目を伏せた。
「俺を殺そうとしてたんだな? どうして……」
けれど、すぐに彼はその理由がわかったようだった。
クラウドに嘘か本当かわからない好き、本気という言葉をもらって、少なからず困惑する私もいるが、だからといって母親を裏切って復讐を辞めるなんてできない。
どうしよう……。
いろんな意味の籠ったその言葉が頭の中をぐるぐる回る度に、首を強く振ってかき消した。
そんな中、転機が訪れる。
「一緒にティータイムはどうだ?」
「はい?」
「アリー王女の淹れる紅茶が飲みたい」
まさか、自ら毒薬を盛ってくださいとばかりの言葉をかけられると思わなかった。
すぐに私の侍女とクラウドの侍女が私の部屋をティータイムができるように準備をしてくれる。
私は紅茶を淹れるときに、クラウドの紅茶に猛毒の粉末を混ぜて差し出した。
「ありがとう。さすがアリー王女。良い匂いだ」
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「ダメ……!」
今にも紅茶を飲もうとしたクラウドを突き飛ばしていた。
猛毒入りの紅茶は宙を舞い、床に音を立てて落ちた。
せっかくのチャンスだったのに、私は一体何をやっているのだろう。
でも……。
私の淹れたお茶をあんな風に味わってくれたクラウドを、私に本気だと伝えてきたクラウドを、クラウドに対して決してよく思われようと取り繕っていないのに私のことを疑うこともせずに親切に接してくるクラウドを、毒殺するなんて、私にはできなかった。
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「ど、毒がはいっているの……」
そう私が口にした直後、私の真意を悟ったらしいクラウドは、私の侍女とクラウドの侍女を部屋から出した。
「大丈夫だから。アリー王女が落ち着くまで、二人にしてほしい」
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「アリー王女? 毒とは?」
「言葉のままです。あの紅茶には、毒が入っていました」
「どうしてそれがわかる」
「そんなの、考えたらわかるでしょう?」
そう告げると、クラウドは少し悲しそうに目を伏せた。
「俺を殺そうとしてたんだな? どうして……」
けれど、すぐに彼はその理由がわかったようだった。
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