暗殺目的で結婚に挑んだ王女は、敵国の王子に溺愛されました。

香取鞠里

文字の大きさ
上 下
4 / 8

しおりを挟む
 あれからというもの、クラウドに猛毒の粉末を飲ませるような機会はなく、三日が経過した。
 さすがルカリア国の皇太子殿下というだけあって、ガードが固い。

 とはいえ、このガードの固さは恐らく通常運転で、クラウド自身、今の時点では私の目論見も何もかも気づいてない風なのは一目瞭然だった。

 夕食を食べ終えた後、私の部屋にクラウドが送り届けてくれる。
 私にも侍女がいるのだから、部屋までわざわざ送り届けなくていいと言っているのだが、クラウドがどうしてもというので送らせてあげている感じだ。


「クラウド殿下、今日もありがとうございました」

「少し、話せるかな」

「……え? 何でしょう」

「入るよ」

「ちょっと!」


 そう言っている間にクラウドは私とともに、私の部屋に入り込む。
 一体何だというんだ。
 クラウドと部屋で二人で話をする時間を取ったところで、猛毒を仕込む時間もタイミングもないというのに……!
 せめてこれが、ティータイムの時間ならば話しは別なのだが……。


「あの、どうされましたか?」

「いや。式を前に、一度一緒に寝たいなと思って」

「は?」

 やばい。思わず本音が口から出てしまった。
 慌てて口元を押さえるも、クラウドにはしっかり聞こえたようで、彼はおかしそうに笑っていた。怒ってはいないようだ。


「ははっ。婚約者のアリー王女にそんな反応をされるとは、俺もまだまだだな。結構頑張っているつもりなんだけどな」

 じりじりとにじり寄ってくるクラウドから思わず後ずさるうちに、ベッドにぶつかり、そこに背後からひっくり返ってしまう。


「きゃっ」

 あろうことか、クラウドは私と距離を詰めると、私の体をベッドに押さえつけて、片手で私の顎を持ち上げた。


「俺、そんなに魅力ない? アリー王女のこと、好きなんだけど」

「え?」

 そう口から漏れたのが最後、私の口はクラウドにより塞がれていた。


「……んっ」

 音を立てて唇が離れる。


「……なっ。どうして、こんな……っ」

 一体、どういうつもりだろう。
 私のことをおちょくってあそんでいるのだろうか。
 思わずクラウドを睨み付けると、クラウドはフッと眉を下げて笑った。


「俺は最初から本気だよ」

「そんなわけ……っ」

「一目惚れってやつ? まぁ、建前上は両国に国同士の争いは過去のことで、今は友好的な関係であることを示すためではあるが、俺は最初からアリー王女が好きだったんだ」

「そんなわけ……っ。一目惚れなんて、いつ……」

「三日前……?」


 クラウドは少しとぼけた風に首をかしげる。
 クラウドのはにかむような表情に、胸がざわざわと変な気持ちになった。


「だから、俺は本気できみを欲しいと思ってるから。もっと心を開いてよ」

 最後、クラウドは私の耳元で色っぽくそう告げると、爽やかに部屋を出ていった。
 私は何とも言えない気持ちで、クラウドが出ていったドアを睨み付けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。

櫻野くるみ
恋愛
王太子フェルゼンは悩んでいた。 生まれつきのフェロモンと美しい容姿のせいで、みんな失神してしまうのだ。 このままでは結婚相手など見つかるはずもないと落ち込み、なかば諦めかけていたところ、自分のフェロモンが全く効かない令嬢に出会う。 運命の相手だと執着する王子と、社交界に興味の無い、フェロモンに鈍感な貧乏子爵令嬢の恋のお話です。 ゆるい話ですので、軽い気持ちでお読み下さいませ。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

処理中です...