暗殺目的で結婚に挑んだ王女は、敵国の王子に溺愛されました。

香取鞠里

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 あれからというもの、クラウドに猛毒の粉末を飲ませるような機会はなく、三日が経過した。
 さすがルカリア国の皇太子殿下というだけあって、ガードが固い。

 とはいえ、このガードの固さは恐らく通常運転で、クラウド自身、今の時点では私の目論見も何もかも気づいてない風なのは一目瞭然だった。

 夕食を食べ終えた後、私の部屋にクラウドが送り届けてくれる。
 私にも侍女がいるのだから、部屋までわざわざ送り届けなくていいと言っているのだが、クラウドがどうしてもというので送らせてあげている感じだ。


「クラウド殿下、今日もありがとうございました」

「少し、話せるかな」

「……え? 何でしょう」

「入るよ」

「ちょっと!」


 そう言っている間にクラウドは私とともに、私の部屋に入り込む。
 一体何だというんだ。
 クラウドと部屋で二人で話をする時間を取ったところで、猛毒を仕込む時間もタイミングもないというのに……!
 せめてこれが、ティータイムの時間ならば話しは別なのだが……。


「あの、どうされましたか?」

「いや。式を前に、一度一緒に寝たいなと思って」

「は?」

 やばい。思わず本音が口から出てしまった。
 慌てて口元を押さえるも、クラウドにはしっかり聞こえたようで、彼はおかしそうに笑っていた。怒ってはいないようだ。


「ははっ。婚約者のアリー王女にそんな反応をされるとは、俺もまだまだだな。結構頑張っているつもりなんだけどな」

 じりじりとにじり寄ってくるクラウドから思わず後ずさるうちに、ベッドにぶつかり、そこに背後からひっくり返ってしまう。


「きゃっ」

 あろうことか、クラウドは私と距離を詰めると、私の体をベッドに押さえつけて、片手で私の顎を持ち上げた。


「俺、そんなに魅力ない? アリー王女のこと、好きなんだけど」

「え?」

 そう口から漏れたのが最後、私の口はクラウドにより塞がれていた。


「……んっ」

 音を立てて唇が離れる。


「……なっ。どうして、こんな……っ」

 一体、どういうつもりだろう。
 私のことをおちょくってあそんでいるのだろうか。
 思わずクラウドを睨み付けると、クラウドはフッと眉を下げて笑った。


「俺は最初から本気だよ」

「そんなわけ……っ」

「一目惚れってやつ? まぁ、建前上は両国に国同士の争いは過去のことで、今は友好的な関係であることを示すためではあるが、俺は最初からアリー王女が好きだったんだ」

「そんなわけ……っ。一目惚れなんて、いつ……」

「三日前……?」


 クラウドは少しとぼけた風に首をかしげる。
 クラウドのはにかむような表情に、胸がざわざわと変な気持ちになった。


「だから、俺は本気できみを欲しいと思ってるから。もっと心を開いてよ」

 最後、クラウドは私の耳元で色っぽくそう告げると、爽やかに部屋を出ていった。
 私は何とも言えない気持ちで、クラウドが出ていったドアを睨み付けていた。
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