暗殺目的で結婚に挑んだ王女は、敵国の王子に溺愛されました。

香取鞠里

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 ク、クラウド……!?

 何だかんだ言って、戦の間は城で守られていた私は、クラウドのことは初見だ。
 まさか、こんなに綺麗な人だとは思わなかった。

 ……って、私は一体何を考えているのだろう。
 私は、この男を暗殺するためにルカリアに来たというのに……。
 一瞬でも浮わついた気持ちを抱いた自分を心の中で叱咤する。


「どうぞ、こちらです」


 こちらの目論見を知らないクラウドは、友好敵な笑みを浮かべて私たちに案内を始める。
 その笑みさえ、裏にどんな気持ちが隠されているかわからない。
 クラウドが向かう先を見ながら、警戒心は持ちつつ、私たちの馬車は彼の後をついていった。


「アリー王女、今日からはこちらの部屋を使ってくれ」
「……ありがとう」


 今日から結婚式当日までの住まいは、王宮の離れにあたる建物内の一室だ。
 ここで、私のお付きの者と一緒に結婚式まで時間を過ごす。
 結婚式を挙げた後は、私は王宮内に正式に入り、今までのお付きの者ともお別れだ。

 まぁ、そうなる前にはここを離れる予定だが。
 結婚式を待たずに、早いところ仕事(暗殺)を終わらせてしまいたい。


「そういえば、王女の趣味は?」

「え?」

 頭の中でいろいろと考えを巡らせていると、不意に呑気な質問が耳に届いた。
 声の聞こえた方を見ると、私の仮の部屋まで案内してくれたクラウドはまだ私の部屋に居座っている。
 ちなみに、私の侍女がそばでクラウドの動向を確認するように視線を彼に向けている。


「ほら、これから一緒に暮らすなら、好きなことのひとつやふたつ、知ってた方がいいかなと思って。俺はのんびり外で本を読むのが好きかな」

「はぁ……」

 爽やかに、まるで能天気にそんな風に告げるクラウドを見て、思わず脱力しそうになる。
 少なくとも、初対面のときからそうだが、彼は私のことは全く警戒していないようだ。

 私は少し考えて口を開く。


「そうですね……。私はティータイムかしら」

「ティータイム。本と紅茶は合いますから、俺ら、気が合うかもしれないな。良かった。そうだ、紅茶を用意させる。一緒にティータイムを過ごそう」

 は? 今から??

 何を考えているのか、クラウドは彼の侍女を呼びつけて勝手に私の部屋をティータイムができるようにセットさせ始める。


「あの……っ」

「気にするな。シグノアからの移動で疲れただろう。とっておきの茶を淹れさせるから、疲れを癒してくれ」
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