暗殺目的で結婚に挑んだ王女は、敵国の王子に溺愛されました。

香取鞠里

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 私、アリーは、今日、敵国であったルカリア王国の皇太子殿下、クラウドの婚約者としてルカリアに降り立った。


「ここが、ルカリア……」


 私たちが暮らしていた国、シグノアとは違い、どことなく華やかに見える。
 それは、ここが城下町として栄えているからという理由だけではないだろう。

 皇太子の婚約者とはいえ、私は端から皇太子と結婚するつもりはない。
 母からは、「しっかり仇を取ってくるのよ」という言葉とともに送り出された。

 そう。私は、婚約者としての立場を利用した皇太子暗殺を命じられてここに居るのだ。
 失敗すれば、きっと命はないだろう。
 でも、これは、シグノアの王女である私に課せられた使命のようなものだ。数年前にルカリア兵によって殺された父親の仇を取るために。
 父を討つよう命じた、当時の兵を指示していたクラウドへの復讐のために。

 ルカリアとシグノアは、数年前まで敵対する国として戦が行われていた。
 シグノアの王がルカリア兵に討たれたことにより、戦に終止符が打たれ、今は両国の友好を働くように見えるが、こんなの喜んでいるのはルカリア国民だけだろう。

 シグノアにとって、ルカリアは今も昔も敵でしかない。
 そんな国に急に友好的にされたところで、裏を考えてしまう。
 現に私とクラウドの結婚も友好結婚ということらしいが、そんなのは表向きだけだろう。

 私は一刻も早くクラウドを暗殺して、シグノアに逃げ帰る。暗殺したあとの処置については、母が手配しているそうだ。

 母のためにも、国のためにも、頑張らねばと私は母から預かった巾着を握りしめた。


 そのとき、少し離れたところから「シグノア国の王女か?」という声が聞こえたのとともに、白馬に乗った青年がこちらに現れた。

 金髪で青い瞳が印象的な、目鼻立ちの整った美青年だ。歳は私と同じ二十くらいだろうか。
 かっこいい……。

 私の乗る馬車の周りを、シグノアから連れてきた護衛が囲む。
 すっかり美青年に見惚れてしまっていたことに気づいた私は、慌てて表情を引き締めて、緊張した面持ちで美青年を見つめる。
 危ない、危ない。ここは敵国の領地だ。今日、シグノアから王女が来ると聞き付けた者が、シグノア民に危害を加えに来ている可能性だってあるのだ。
 警戒する私たちを前に、美青年は白馬から降りると、深々とお辞儀をした。


「警戒させてしまってすまない。王女を迎えに来た。ルカリア国皇太子のクラウドだ」
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