暗殺目的で結婚に挑んだ王女は、敵国の王子に溺愛されました。

香取鞠里

文字の大きさ
上 下
1 / 8

しおりを挟む
 私、アリーは、今日、敵国であったルカリア王国の皇太子殿下、クラウドの婚約者としてルカリアに降り立った。


「ここが、ルカリア……」


 私たちが暮らしていた国、シグノアとは違い、どことなく華やかに見える。
 それは、ここが城下町として栄えているからという理由だけではないだろう。

 皇太子の婚約者とはいえ、私は端から皇太子と結婚するつもりはない。
 母からは、「しっかり仇を取ってくるのよ」という言葉とともに送り出された。

 そう。私は、婚約者としての立場を利用した皇太子暗殺を命じられてここに居るのだ。
 失敗すれば、きっと命はないだろう。
 でも、これは、シグノアの王女である私に課せられた使命のようなものだ。数年前にルカリア兵によって殺された父親の仇を取るために。
 父を討つよう命じた、当時の兵を指示していたクラウドへの復讐のために。

 ルカリアとシグノアは、数年前まで敵対する国として戦が行われていた。
 シグノアの王がルカリア兵に討たれたことにより、戦に終止符が打たれ、今は両国の友好を働くように見えるが、こんなの喜んでいるのはルカリア国民だけだろう。

 シグノアにとって、ルカリアは今も昔も敵でしかない。
 そんな国に急に友好的にされたところで、裏を考えてしまう。
 現に私とクラウドの結婚も友好結婚ということらしいが、そんなのは表向きだけだろう。

 私は一刻も早くクラウドを暗殺して、シグノアに逃げ帰る。暗殺したあとの処置については、母が手配しているそうだ。

 母のためにも、国のためにも、頑張らねばと私は母から預かった巾着を握りしめた。


 そのとき、少し離れたところから「シグノア国の王女か?」という声が聞こえたのとともに、白馬に乗った青年がこちらに現れた。

 金髪で青い瞳が印象的な、目鼻立ちの整った美青年だ。歳は私と同じ二十くらいだろうか。
 かっこいい……。

 私の乗る馬車の周りを、シグノアから連れてきた護衛が囲む。
 すっかり美青年に見惚れてしまっていたことに気づいた私は、慌てて表情を引き締めて、緊張した面持ちで美青年を見つめる。
 危ない、危ない。ここは敵国の領地だ。今日、シグノアから王女が来ると聞き付けた者が、シグノア民に危害を加えに来ている可能性だってあるのだ。
 警戒する私たちを前に、美青年は白馬から降りると、深々とお辞儀をした。


「警戒させてしまってすまない。王女を迎えに来た。ルカリア国皇太子のクラウドだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。

櫻野くるみ
恋愛
王太子フェルゼンは悩んでいた。 生まれつきのフェロモンと美しい容姿のせいで、みんな失神してしまうのだ。 このままでは結婚相手など見つかるはずもないと落ち込み、なかば諦めかけていたところ、自分のフェロモンが全く効かない令嬢に出会う。 運命の相手だと執着する王子と、社交界に興味の無い、フェロモンに鈍感な貧乏子爵令嬢の恋のお話です。 ゆるい話ですので、軽い気持ちでお読み下さいませ。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

処理中です...