婚約者は幼馴染みを選ぶようです。

香取鞠里

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 ●ハクト視点

 僕がエリーに背を向けて少ししたとき、思わず足を止めた。

 木の陰に弟であるジャックが立っていたからだ。


「どういうつもりだよ、兄さん」

「何だ、覗いてたのか? タチが悪い」


 ジャックが最近エリーに取り入っていることには気づいていた。

 それ自体最初こそどうでも良かったが、シリアに婚約者がいたなら話は別だ。


「タチが悪いのはお前だろ? お前の身勝手な婚約破棄に、エリーが全く傷つかなかったとでも思ってるのか!?」

 ジャックに首もとをつかまれる。

 ジャックは僕と違って野蛮で熱くなりやすい。

 そんな弟の姿を鼻で笑うと、僕は思い切りジャックを振り切った。


「うるさいな。僕は長男だぞ。お前とエリーがどうかなるより、僕と結婚した方が良いに決まってるのだから、すぐに彼女も考え直すさ」

 ジャックはどこか悔しそうに唇を噛む。

 それでも負けずに僕をにらみ続ける姿が滑稽だ。


「お前、エリーが好きなんだろ? でも残念だな。エリーは元をたどれば僕の婚約者だ」

 僕は事実を突きつけるようにジャックに告げると、その場を後にした。

 ジャックは追いかけては来なかった。

 僕は一人で歩きながらぼんやりと昔のことを思い出していた。

 シリアは、ずっとそばにいた幼馴染みだった。

 ある日、僕が馬に乗っていた時に傷つけてしまった時をきっかけに、足が動かしづらい。そばに居てとシリアに告げられていた。

 それが、エリーとの婚約が決まった直後の出来事だった。

 最初こそ親が決めた結婚になかなか逆らうことができなかった。エリーのことは悪くないと思っていたし、家同士のこともあるのでエリーのことを無下にできなかった。

 けれど、それ以上に僕は幼馴染みのシリアにずっと想いを寄せていたのだ。

 いざ結婚を目前として、シリアにそばにいてと懇願される中、僕は自分に嘘をつけなかった。


 けれど、エリーとの婚約破棄をした直後、シリアの元に行った時、嬉しそうに両足で躍りながら僕に嘘をついていたことを誰にともなく話しているところを聞いてしまったのだ。

 僕はシリアを問い詰めた。

 するシリアは僕が好きだったから、何としても繋ぎ止めたかったんだそうだ。

 それだけなら良かった。僕はそれでも彼女の嘘を許して一緒になっただろう。

 けれど、婚約を申し出た僕にシリアはあっけらかんと告げたのだ。実は彼女には婚約者がいるということを。

 全てを裏切られたような気持ちになった。

 こんなことなら、エリーと結婚しておけばよかった。婚約破棄なんてするんじゃなかった。

 そうすれば、幼馴染みのことは手に入れられなくても、少なくとも将来性はあったというのに……。

 全てを知った僕が、エリーの元に向かったのが今日の話だった。
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