婚約者は幼馴染みを選ぶようです。

香取鞠里

文字の大きさ
上 下
4 / 7

しおりを挟む
「どうして……」

 ようやく口から出たのはそれだけだった。

 声は動揺から震えている。


「君に、考え直してほしいことがあるんだ」


 すると、私の気持ちなんて全く気づいてない様子のハクトは困った笑みを浮かべると、こちらに歩みを進めてくる。

 そして、あろうことか私のそばまでくると、あの私に婚約破棄を告げた日のようにその場にひざまずくと、頭を地に付けるようにして土下座をしたのだ。


「この前のことは本当にすまなかった。あれは僕に非がある。けど、エリーさえよければ、僕達の婚約破棄はなかったことにしてほしい!」

「え……」


 婚約破棄をなかったことにしてほしい。それはつまり、婚約関係を復活させるということだ。

 あの日、彼は私に土下座をしてまで婚約破棄を申し出てきたのだ。

 一体突然どうしたというのだろう。

 すると今度はハクトは私の疑問に気づいたらしい。何の悪びれもなく告げてくる。


「実は昔負傷させてしまった幼なじみ、シリアのことだが、彼女は確かにあの時負傷したが、体が不自由だということは嘘だったんだ」

 ハクトはまるで訴えかけるように私に言葉を続ける。


「しかも、彼女には婚約者がいたのだ。僕は騙されていたのだ!」


 私に婚約破棄を告げる時、ハクトは自分のせいで負傷させて体が不自由になってしまった幼馴染みであるシリアのそばについていたいからだと言っていた。

 そのハクトがシリアに騙されていたと聞いて、全く同情しないと言えば嘘になる。


「そんなの困ります」


 けれど、結局ハクトの心は今も昔もシリアにあるのだ。

 ハクトの世界はシリアを中心に回っているとも取れるハクトの要望に応えることはてきない。


 何より、ハクトに婚約破棄を告げられた直後ならまだしも、もう私はハクトのことを好きではない。

 ハクトにそんな風に言われて頭に浮かぶのは、彼の弟のジャックの姿だ。


「どうして? 君は僕を愛してくれてたのではないか? そう言わずに、考え直してほしい。この話は君のお父様にも相談させてもらう」

「やめてください。父はしばらく都合がつかないので、この話は私から伝えさせていただきます。帰ってください」

「ちょっ、エリー!?」


 低姿勢で、言ってることは強引で自分勝手極まりないハクト背を押して、私は何とかハクトをお屋敷の門扉の外に押し出した。


「わかったよ。けど、君からは何もしなくていい。また来させてもらうよ」


 もっとしつこく何かを言われると思ったが、ハクトはそう言って今日はあっさりと帰っていった。

 けれど、ハクトの様子からまた彼が来るのは明らかだ。


「どうしたらいいのだろう……」


 私はもうハクトと結婚する気はないのだから、答えは決まっている。

 けれど、ハクトの何とも言えない強気で強引な態度に、思わず不安になった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

婚約者に親しい幼なじみがいるので、私は身を引かせてもらいます

Hibah
恋愛
クレアは同級生のオーウェンと家の都合で婚約した。オーウェンには幼なじみのイブリンがいて、学園ではいつも一緒にいる。イブリンがクレアに言う「わたしとオーウェンはラブラブなの。クレアのこと恨んでる。謝るくらいなら婚約を破棄してよ」クレアは二人のために身を引こうとするが……?

隣国へ留学中だった婚約者が真実の愛の君を連れて帰ってきました

れもん・檸檬・レモン?
恋愛
隣国へ留学中だった王太子殿下が帰ってきた 留学中に出会った『真実の愛』で結ばれた恋人を連れて なんでも隣国の王太子に婚約破棄された可哀想な公爵令嬢なんだそうだ

【完結】夫が私を捨てて愛人と一緒になりたいと思っているかもしれませんがそうはいきません。

マミナ
恋愛
ジョゼルは私と離婚を済ませた後、父様を説得し、働いている者達を追い出してカレンと一緒に暮らしていたが…。 「なんでこんな事になったんだ…。」 「嘘よなんでなの…。」 暮らした二人は上手くいかない事ばかりが続く。 新しい使用人が全く入って来ず、父様から急に伯爵の地位を親族の1人であるブレイルに明け渡すと告げて来たり貴族としての人脈作りは上手くいかず、付き合いのあった友人も離れていった。 生活は苦しくなり、父様に泣きついたが、頑なに援助はしないと突っぱねられたので何故そうするのかジョゼルは父様に訪ねると…。

愛人のいる夫を捨てました。せいぜい性悪女と破滅してください。私は王太子妃になります。

Hibah
恋愛
カリーナは夫フィリップを支え、名ばかり貴族から大貴族へ押し上げた。苦難を乗り越えてきた夫婦だったが、フィリップはある日愛人リーゼを連れてくる。リーゼは平民出身の性悪女で、カリーナのことを”おばさん”と呼んだ。一緒に住むのは無理だと感じたカリーナは、家を出ていく。フィリップはカリーナの支えを失い、再び没落への道を歩む。一方でカリーナには、王太子妃になる話が舞い降りるのだった。

私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。

しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。 だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。

【完結】さっさと婚約破棄しろよ!って、私はもう書類を出していますって。

BBやっこ
恋愛
幼い頃に親同士で婚約したものの、学園に上がってから当人同士合わない!と確信したので 親を説得して、婚約破棄にする事にした。 結婚したらいいねー。男女で同い歳だから婚約しちゃう?と軽い感じで結ばれたらしい。 はっきり言って迷惑。揶揄われるし、合わないしでもう婚約破棄にしようと合意は得た。 せいせいした!と思ってた時…でた。お呼びでないのに。 【2023/10/1 24h. 12,396 pt (151位)】達成

侯爵令嬢は限界です

まる
恋愛
「グラツィア・レピエトラ侯爵令嬢この場をもって婚約を破棄する!!」 何言ってんだこの馬鹿。 いけない。心の中とはいえ、常に淑女たるに相応しく物事を考え… 「貴女の様な傲慢な女は私に相応しくない!」 はい無理でーす! 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇 サラッと読み流して楽しんで頂けたなら幸いです。 ※物語の背景はふんわりです。 読んで下さった方、しおり、お気に入り登録本当にありがとうございました!

10年前の婚約破棄を取り消すことはできますか?

岡暁舟
恋愛
「フラン。私はあれから大人になった。あの時はまだ若かったから……君のことを一番に考えていなかった。もう一度やり直さないか?」 10年前、婚約破棄を突きつけて辺境送りにさせた張本人が訪ねてきました。私の答えは……そんなの初めから決まっていますね。

処理中です...