婚約者は幼馴染みを選ぶようです。

香取鞠里

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「どうして……」

 ようやく口から出たのはそれだけだった。

 声は動揺から震えている。


「君に、考え直してほしいことがあるんだ」


 すると、私の気持ちなんて全く気づいてない様子のハクトは困った笑みを浮かべると、こちらに歩みを進めてくる。

 そして、あろうことか私のそばまでくると、あの私に婚約破棄を告げた日のようにその場にひざまずくと、頭を地に付けるようにして土下座をしたのだ。


「この前のことは本当にすまなかった。あれは僕に非がある。けど、エリーさえよければ、僕達の婚約破棄はなかったことにしてほしい!」

「え……」


 婚約破棄をなかったことにしてほしい。それはつまり、婚約関係を復活させるということだ。

 あの日、彼は私に土下座をしてまで婚約破棄を申し出てきたのだ。

 一体突然どうしたというのだろう。

 すると今度はハクトは私の疑問に気づいたらしい。何の悪びれもなく告げてくる。


「実は昔負傷させてしまった幼なじみ、シリアのことだが、彼女は確かにあの時負傷したが、体が不自由だということは嘘だったんだ」

 ハクトはまるで訴えかけるように私に言葉を続ける。


「しかも、彼女には婚約者がいたのだ。僕は騙されていたのだ!」


 私に婚約破棄を告げる時、ハクトは自分のせいで負傷させて体が不自由になってしまった幼馴染みであるシリアのそばについていたいからだと言っていた。

 そのハクトがシリアに騙されていたと聞いて、全く同情しないと言えば嘘になる。


「そんなの困ります」


 けれど、結局ハクトの心は今も昔もシリアにあるのだ。

 ハクトの世界はシリアを中心に回っているとも取れるハクトの要望に応えることはてきない。


 何より、ハクトに婚約破棄を告げられた直後ならまだしも、もう私はハクトのことを好きではない。

 ハクトにそんな風に言われて頭に浮かぶのは、彼の弟のジャックの姿だ。


「どうして? 君は僕を愛してくれてたのではないか? そう言わずに、考え直してほしい。この話は君のお父様にも相談させてもらう」

「やめてください。父はしばらく都合がつかないので、この話は私から伝えさせていただきます。帰ってください」

「ちょっ、エリー!?」


 低姿勢で、言ってることは強引で自分勝手極まりないハクト背を押して、私は何とかハクトをお屋敷の門扉の外に押し出した。


「わかったよ。けど、君からは何もしなくていい。また来させてもらうよ」


 もっとしつこく何かを言われると思ったが、ハクトはそう言って今日はあっさりと帰っていった。

 けれど、ハクトの様子からまた彼が来るのは明らかだ。


「どうしたらいいのだろう……」


 私はもうハクトと結婚する気はないのだから、答えは決まっている。

 けれど、ハクトの何とも言えない強気で強引な態度に、思わず不安になった。
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