婚約者は幼馴染みを選ぶようです。

香取鞠里

文字の大きさ
上 下
3 / 7

しおりを挟む
 ジャックにハクトとの婚約破棄についての愚痴やつらい心境を聞いてもらいながら、街中をまわる。

 美味しいご飯をごちそうになったり、買い物をしたり思いの外楽しい時間を過ごせた。

 気さくなジャックは話しやすく、遊び人と聞いていたが私に何かをしてやろうという雰囲気は全くなく、純粋に私のことを心配してくれている風なのが嬉しい。

 この日、確かに私はジャックに救われたのだ。


 ジャックはそれからというもの、毎日私の住むお屋敷にひょっこり姿を現すようになった。

 時には部屋でお茶をして、時にはこの前のような街に繰り出して、ジャックと過ごすうちにいつの間にかハクトとの婚約破棄により傷ついた心が癒えていくようだった。


「エリー、今日はどこ行く?」

「そうね。天気が良いし、広場でゆっくりお茶をしましょう」


 私はバスケットに焼きたてのパンを入れて、ジャックの手を取る。

 決して恋仲になったわけではないが、親睦を深めた私達はそれに近しい関係になっていた。


 広場で一緒に過ごしたあと、自然と会話が途切れる。

 綺麗な夕陽を見つめながら、心からこの時間が幸せだと感じた。

 自然と触れあった指先に驚いてジャックを見ると、目があって、私達はごく自然に唇を重ねた。


「ねぇ、エリー。君さえよければ、僕達結婚する?」

「素敵ね」

「ありがとう。また改めて君のお父様にお話させてほしい」


 こうして晴れて恋人同士になった私達は、すんなり結婚へのステップが踏めると思っていた。

 ハクトと婚約は破棄されてしまったが、家同士の仲は悪くなっていなかったからだ。


 この夜は幸せな気持ちで眠りに就いた。

 次の日の朝、来客の訪問に、またジャックが会いに来てくれたのだとステップを踏んで外に出る。

 けれど、私は目に見えた人物に目を疑った。

 だって、そこに立っていたのは、私と婚約破棄したはずのハクトだったのだから。


 どうしてハクトがここにいるの……!?

 今更私に何の用があるの!?

 それに、ハクトのせいで体を負傷してしまったためにそばにいたいと言っていたシリアは!?

 わからない。

 今すぐ逃げ出したいのに、こちらに近づいてくるハクトから逃げることができなかった。


「エリー、久しぶり」


 穏やかにかけられた声に、私の体はさらに強ばった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

婚約者に親しい幼なじみがいるので、私は身を引かせてもらいます

Hibah
恋愛
クレアは同級生のオーウェンと家の都合で婚約した。オーウェンには幼なじみのイブリンがいて、学園ではいつも一緒にいる。イブリンがクレアに言う「わたしとオーウェンはラブラブなの。クレアのこと恨んでる。謝るくらいなら婚約を破棄してよ」クレアは二人のために身を引こうとするが……?

隣国へ留学中だった婚約者が真実の愛の君を連れて帰ってきました

れもん・檸檬・レモン?
恋愛
隣国へ留学中だった王太子殿下が帰ってきた 留学中に出会った『真実の愛』で結ばれた恋人を連れて なんでも隣国の王太子に婚約破棄された可哀想な公爵令嬢なんだそうだ

【完結】夫が私を捨てて愛人と一緒になりたいと思っているかもしれませんがそうはいきません。

マミナ
恋愛
ジョゼルは私と離婚を済ませた後、父様を説得し、働いている者達を追い出してカレンと一緒に暮らしていたが…。 「なんでこんな事になったんだ…。」 「嘘よなんでなの…。」 暮らした二人は上手くいかない事ばかりが続く。 新しい使用人が全く入って来ず、父様から急に伯爵の地位を親族の1人であるブレイルに明け渡すと告げて来たり貴族としての人脈作りは上手くいかず、付き合いのあった友人も離れていった。 生活は苦しくなり、父様に泣きついたが、頑なに援助はしないと突っぱねられたので何故そうするのかジョゼルは父様に訪ねると…。

愛人のいる夫を捨てました。せいぜい性悪女と破滅してください。私は王太子妃になります。

Hibah
恋愛
カリーナは夫フィリップを支え、名ばかり貴族から大貴族へ押し上げた。苦難を乗り越えてきた夫婦だったが、フィリップはある日愛人リーゼを連れてくる。リーゼは平民出身の性悪女で、カリーナのことを”おばさん”と呼んだ。一緒に住むのは無理だと感じたカリーナは、家を出ていく。フィリップはカリーナの支えを失い、再び没落への道を歩む。一方でカリーナには、王太子妃になる話が舞い降りるのだった。

私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。

しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。 だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。

侯爵令嬢は限界です

まる
恋愛
「グラツィア・レピエトラ侯爵令嬢この場をもって婚約を破棄する!!」 何言ってんだこの馬鹿。 いけない。心の中とはいえ、常に淑女たるに相応しく物事を考え… 「貴女の様な傲慢な女は私に相応しくない!」 はい無理でーす! 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇 サラッと読み流して楽しんで頂けたなら幸いです。 ※物語の背景はふんわりです。 読んで下さった方、しおり、お気に入り登録本当にありがとうございました!

10年前の婚約破棄を取り消すことはできますか?

岡暁舟
恋愛
「フラン。私はあれから大人になった。あの時はまだ若かったから……君のことを一番に考えていなかった。もう一度やり直さないか?」 10年前、婚約破棄を突きつけて辺境送りにさせた張本人が訪ねてきました。私の答えは……そんなの初めから決まっていますね。

【完結】さっさと婚約破棄しろよ!って、私はもう書類を出していますって。

BBやっこ
恋愛
幼い頃に親同士で婚約したものの、学園に上がってから当人同士合わない!と確信したので 親を説得して、婚約破棄にする事にした。 結婚したらいいねー。男女で同い歳だから婚約しちゃう?と軽い感じで結ばれたらしい。 はっきり言って迷惑。揶揄われるし、合わないしでもう婚約破棄にしようと合意は得た。 せいせいした!と思ってた時…でた。お呼びでないのに。 【2023/10/1 24h. 12,396 pt (151位)】達成

処理中です...