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突然ハクトに婚約破棄を告げられたことは、私の心に相当堪えた。
お父様は最初こそハクトの申し出に驚いていたが、無理に婚約を押し通すようなことはしなかった。
私がハクトとの婚約を楽しみにしていたことを知っていたお母様は私を慰めてくれた。
けれど、私に気を遣ってなのだろう。
お父様もお母様も、料理人も侍女も、まるで腫れ物を扱うように私の顔色をうかがうので、何となく居心地が悪くなって私は部屋にこもりがちになってしまった。
今頃ハクトは、シリアと一緒に過ごしているのだろうか。
ハクトの口からはシリアのそばにいたいからという理由しか告げらなかったが、ハクトはシリアと結婚するつもりなのだろうか。
シリアの家も貴族であることから、シリアとハクトが婚約しても何らおかしくない。
そんなことばかりを考えて、何ともいえない寂しい気持ちになる。
このまま考えたって仕方ない。外に出よう。
私は小さく息を吐き出すと、気分転換に街に繰り出すことにした。
久しぶりの外は、太陽の光が眩しい。
私が婚約破棄をされたことを知る知り合いにあって哀れみの目を向けられるのはもう勘弁だったために、私は帽子を深く被って移動する。
婚約破棄されてから私の中の時は止まったようになっていたけれど、自分の知っている街並みと変わらない風景をみていると、決して世界が変わったわけではないのだと感じさせられる。
何となく新鮮な気持ちになりながら商店を見て回っていた時、不意に前方から歩いてきた男性と肩がぶつかってしまった。
「きゃっ」
「大丈夫?」
思わずよろけた私を大きな腕が抱き止める。
「ええ、ありがとう」
「いいよ。俺こそごめん」
私を見た目の前の男性は大きく目を見開いた。
今よろけた瞬間に、私が深く被っていたはずの帽子が地面に落ちていたこともあっただろう。
けれど、それだけじゃない。
今、目の前に見える男性こそ、ハクトのひとつ年下の弟のジャックだったのだ。
「エリー?」
婚約期間中に数える程しか会ったことはなかったが、ジャックは私のことを覚えていたようだ。
「久しぶり」
「まさかこんなところで会うなんて嬉しいよ。これから予定ないなら一緒に過ごそうよ」
軽い口調で語るジャックは、遊び人として有名だった。
ただでさえハクトに振り回された身だ。
「結構よ。貴方には貴方の都合があるでしょう?」
兄弟揃って嫌な思いをさせられるのではないかと、エリーは内心警戒する。
「兄さんに突然婚約破棄されたんだろう? 少しはエリーの元気が出るように協力させてほしいんだけど」
ハクトとのことをからかうこともなく、エリーのことを過剰に哀れむような空気がないことから、エリーは自然とジャックに手を引かれていた。
お父様は最初こそハクトの申し出に驚いていたが、無理に婚約を押し通すようなことはしなかった。
私がハクトとの婚約を楽しみにしていたことを知っていたお母様は私を慰めてくれた。
けれど、私に気を遣ってなのだろう。
お父様もお母様も、料理人も侍女も、まるで腫れ物を扱うように私の顔色をうかがうので、何となく居心地が悪くなって私は部屋にこもりがちになってしまった。
今頃ハクトは、シリアと一緒に過ごしているのだろうか。
ハクトの口からはシリアのそばにいたいからという理由しか告げらなかったが、ハクトはシリアと結婚するつもりなのだろうか。
シリアの家も貴族であることから、シリアとハクトが婚約しても何らおかしくない。
そんなことばかりを考えて、何ともいえない寂しい気持ちになる。
このまま考えたって仕方ない。外に出よう。
私は小さく息を吐き出すと、気分転換に街に繰り出すことにした。
久しぶりの外は、太陽の光が眩しい。
私が婚約破棄をされたことを知る知り合いにあって哀れみの目を向けられるのはもう勘弁だったために、私は帽子を深く被って移動する。
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何となく新鮮な気持ちになりながら商店を見て回っていた時、不意に前方から歩いてきた男性と肩がぶつかってしまった。
「きゃっ」
「大丈夫?」
思わずよろけた私を大きな腕が抱き止める。
「ええ、ありがとう」
「いいよ。俺こそごめん」
私を見た目の前の男性は大きく目を見開いた。
今よろけた瞬間に、私が深く被っていたはずの帽子が地面に落ちていたこともあっただろう。
けれど、それだけじゃない。
今、目の前に見える男性こそ、ハクトのひとつ年下の弟のジャックだったのだ。
「エリー?」
婚約期間中に数える程しか会ったことはなかったが、ジャックは私のことを覚えていたようだ。
「久しぶり」
「まさかこんなところで会うなんて嬉しいよ。これから予定ないなら一緒に過ごそうよ」
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ただでさえハクトに振り回された身だ。
「結構よ。貴方には貴方の都合があるでしょう?」
兄弟揃って嫌な思いをさせられるのではないかと、エリーは内心警戒する。
「兄さんに突然婚約破棄されたんだろう? 少しはエリーの元気が出るように協力させてほしいんだけど」
ハクトとのことをからかうこともなく、エリーのことを過剰に哀れむような空気がないことから、エリーは自然とジャックに手を引かれていた。
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