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「マリー、本当にすまない。僕は本当に愛すべき人がきみじゃないとわかったんだ。どうかきみとの婚約はなかったことにしてほしい」

 突然王宮内に響いた声に、伯爵令嬢のマリーは目を丸くする。
 
 目の前にいるのは、マリーの婚約者のはずのフィリップだ。

 懇願するように頭を下げるフィリップを見て、マリーは困ったように眉を下げる。


「わかったわ。親が勝手に決めた婚約だし、フィリップがどうしてもというなら解消するわ」

 元々マリーも結婚に乗り気だったわけではない。

 フィリップから婚約破棄してくれるのなら、それに乗ってもいいと思ったのだ。


「ありがとう。それでなのだが、この婚約解消理由は、きみに非があるようにしてほしい」

 何だそれは、濡れ衣というやつではないか。

 それじゃあ、私が悪者ではないか。

 突然のフィリップの提案に応えられるわけがない。


「ちょっと待ってよ。どうして私があなたの代わりに非があることにしなければならないわけ? おかしいじゃない」

「だって、僕には愛する人がいるんだ。その人に迷惑をかけるわけにはいかないだろう?」

「じゃあ私は? 他に女を作って婚約解消を言い渡された、それだけでも世間的には屈辱に値するわ! それなのにどうして解消理由まで私が責任を負わなきゃならないのよ!」

 フィリップを睨み付ける。

 さすがにこんなのウィンウィンの申し出ではないだろう。


「きみは元婚約者に恥をかかせるつもりか?」

「恥もなにも、あなたが恥をかくようなことをしたんじゃないの。冗談じゃないわ! 婚約は解消してくれて結構だけど、婚約破棄理由については今日の婚約パーティーで私の口からみんなに伝えさせてもらうわ!」

 そもそも今フィリップがここにいるのも、マリーとの婚約パーティーをするからだった。

 それなのに、パーティー直前でそんな話をするな!!


「そこを何とか頼むよ。金なら払うから」

「うるさい! 出てけ、このグズ!」


 マリーはうるさいフィリップを押し出すようにして自分の部屋から追い出した。

 冗談じゃないわ!

 ここは早いところお父様に話をして、濡れ衣を着せられることを回避しなければならない。

 マリーは慌てて部屋を飛び出すと、王宮内にいる両親を探しに出た。


「なんで、見つからないの……?」

 間もなくパーティーは始まろうとしているのに、一向に両親の姿が見えない。

 こんなときにどこで何をしているのだろう。


「マリー様、そらそろお時間です」


 そのときお付きの人に呼び止められて、マリーは渋々ながらにパーティー会場に足を運ぶことにした。
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