9 / 9
9
しおりを挟む
どうしたらいいのだろう……?
私が悩んでいると、仲良くしている使用人ジュリアが心配そうに問いかけてきた。
「マリエッタ様、どうされましたか?」
「……あ。ううん、何でもないわ」
「そんなことありません。最近、顔色もよろしくなければ、食欲もないじゃないですか」
ジュリアは中年の使用人だ。私の細かい表情の変化まで見ていてくれて、まるで母親のような存在だ。
そう指摘されると、私は思わず苦笑いを浮かべた。
「……ひょっとして、ここ最近王宮内の空気がおかしいことと何か関係ありますでしょうか?」
ジュリアも、王宮内の異様な空気に気づいていたようだ。
私が、仕事をいい加減にする正妻だと。
殿下は私に何も言ってこないが、きっと耳に届いているのだろう。
「ジュリア……」
私は、明らかに誰かの陰謀にはめられているとしか思えない、身に覚えのない悪事を次々に被せられていることを告げた。
「私、本当に、そんなことしていないの……」
私の話を静かに聞いていたジュリアは、私を落ち着かせるように背に手を当ててくれた。
「大丈夫です。マリエッタ様には殿下がついていらっしゃるじゃないですか。それに、私も。私も少し、王宮内の使用人にいろいろ聞き込んでみます」
「……ありがとう」
このときの私は、決してジュリアに悩みを打ち明けたからといって、何かが変わるなんて思っていなかった。
けれど、それから1ヶ月もしないうちに殿下がものすごい形相で私の部屋に飛び込んできた。
「マリエッタ、今まですまなかった。ようやく、君を苦しめている者を突き止めた」
「……え?」
「あの、神の女神のサクラだ。どこが女神だ」
殿下は、今まで見たことがないくらいに憤慨しているようだ。
殿下によると、サクラが裏で画策して、周りの私のアンチと協力して、私を悪役に仕立て上げようとしていたそうだ。
殿下が私を選んだことが気にくわないからだそうだ。つまりは、サクラの嫉妬によるものだ。
一度目の人生で経験したシナリオとは違うものの、サクラの本質は同じようだ。
すると、これまで頭を抱えていたのが嘘のように、私自身の中にも怒りがわき起こる。
……許せない。
「大丈夫だ。マリエッタ。サクラや、その協力者には、適切な処罰を与える」
そして、殿下はすぐにサクラとその協力者に国外追放の罰を与えた。
一度目の人生で、私が受けた罰と同じだ。
国外追放されると、命に保証はない。
あのときの苦しさを知っているからこそ、同情からサクラたちへの罪悪感のようなものは、おかしなことにゼロではない。
けれど、殿下には気にしなくていいと言ってもらえて気が楽になった。
晴れて、私は平和な王宮生活を取り戻し、現陛下のあとを次ぐ形で、殿下は陛下に、私は二度目の人生では正式な王妃になった。
これからは、悪役令嬢としてじゃなく、私の人生を生きよう。後悔のないように……。
(おしまい)
私が悩んでいると、仲良くしている使用人ジュリアが心配そうに問いかけてきた。
「マリエッタ様、どうされましたか?」
「……あ。ううん、何でもないわ」
「そんなことありません。最近、顔色もよろしくなければ、食欲もないじゃないですか」
ジュリアは中年の使用人だ。私の細かい表情の変化まで見ていてくれて、まるで母親のような存在だ。
そう指摘されると、私は思わず苦笑いを浮かべた。
「……ひょっとして、ここ最近王宮内の空気がおかしいことと何か関係ありますでしょうか?」
ジュリアも、王宮内の異様な空気に気づいていたようだ。
私が、仕事をいい加減にする正妻だと。
殿下は私に何も言ってこないが、きっと耳に届いているのだろう。
「ジュリア……」
私は、明らかに誰かの陰謀にはめられているとしか思えない、身に覚えのない悪事を次々に被せられていることを告げた。
「私、本当に、そんなことしていないの……」
私の話を静かに聞いていたジュリアは、私を落ち着かせるように背に手を当ててくれた。
「大丈夫です。マリエッタ様には殿下がついていらっしゃるじゃないですか。それに、私も。私も少し、王宮内の使用人にいろいろ聞き込んでみます」
「……ありがとう」
このときの私は、決してジュリアに悩みを打ち明けたからといって、何かが変わるなんて思っていなかった。
けれど、それから1ヶ月もしないうちに殿下がものすごい形相で私の部屋に飛び込んできた。
「マリエッタ、今まですまなかった。ようやく、君を苦しめている者を突き止めた」
「……え?」
「あの、神の女神のサクラだ。どこが女神だ」
殿下は、今まで見たことがないくらいに憤慨しているようだ。
殿下によると、サクラが裏で画策して、周りの私のアンチと協力して、私を悪役に仕立て上げようとしていたそうだ。
殿下が私を選んだことが気にくわないからだそうだ。つまりは、サクラの嫉妬によるものだ。
一度目の人生で経験したシナリオとは違うものの、サクラの本質は同じようだ。
すると、これまで頭を抱えていたのが嘘のように、私自身の中にも怒りがわき起こる。
……許せない。
「大丈夫だ。マリエッタ。サクラや、その協力者には、適切な処罰を与える」
そして、殿下はすぐにサクラとその協力者に国外追放の罰を与えた。
一度目の人生で、私が受けた罰と同じだ。
国外追放されると、命に保証はない。
あのときの苦しさを知っているからこそ、同情からサクラたちへの罪悪感のようなものは、おかしなことにゼロではない。
けれど、殿下には気にしなくていいと言ってもらえて気が楽になった。
晴れて、私は平和な王宮生活を取り戻し、現陛下のあとを次ぐ形で、殿下は陛下に、私は二度目の人生では正式な王妃になった。
これからは、悪役令嬢としてじゃなく、私の人生を生きよう。後悔のないように……。
(おしまい)
1
お気に入りに追加
755
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(10件)
あなたにおすすめの小説
本当にあなたは”ヒロイン”なのですか?
凪崎凪
恋愛
スヴァン王国にある国内の貴族が学ぶ王立学院。 その卒業式においてある騒動が上がった。
そこには、悪役令嬢と呼ばれたスヴァン王国の公爵令嬢ロゼリア・ハイダ・エルメストと、男爵令嬢であるアメリア・バダムの姿があった。
物語は終わった。 アメリアの敗北という形で。
そして……
「優秀すぎて鼻につく」と婚約破棄された公爵令嬢は弟殿下に独占される
杓子ねこ
恋愛
公爵令嬢ソフィア・ファビアスは完璧な淑女だった。
婚約者のギルバートよりはるかに優秀なことを隠し、いずれ夫となり国王となるギルバートを立て、常に控えめにふるまっていた。
にもかかわらず、ある日、婚約破棄を宣言される。
「お前が陰で俺を嘲笑っているのはわかっている! お前のような偏屈な女は、婚約破棄だ!」
どうやらギルバートは男爵令嬢エミリーから真実の愛を吹き込まれたらしい。
事を荒立てまいとするソフィアの態度にギルバートは「申し開きもしない」とさらに激昂するが、そこへ第二王子のルイスが現れる。
「では、ソフィア嬢を俺にください」
ルイスはソフィアを抱きしめ、「やっと手に入れた、愛しい人」と囁き始め……?
※ヒーローがだいぶ暗躍します。
悪役令嬢になる前に、王子と婚約解消するはずが!
餡子
恋愛
恋愛小説の世界に悪役令嬢として転生してしまい、ヒーローである第五王子の婚約者になってしまった。
なんとかして円満に婚約解消するはずが、解消出来ないまま明日から物語が始まってしまいそう!
このままじゃ悪役令嬢まっしぐら!?
虐げられた令嬢が愛されるまで
八代奏多
恋愛
伯爵令嬢のリーシャは家族から忌み子と呼ばれ虐げられていた。
妹が流した噂のせいで学院でも白い目で見られていて、せめて結婚したら幸せになりたいと思っていた。
しかし、父の借金を帳消しにするためにと、女殺しで有名な父より年上の公爵と結婚させられることに。
それでもリーシャを好いている人はいて……。
そんな彼女が愛され幸せを掴むまでの物語。
※小説家になろう様でも投稿しております。
農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~
可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。
子犬な殿下が勝手にざまあ始めちゃったんですけど
佐崎咲
恋愛
私はリリシュ=シュローテッド。成り上がりの男爵令嬢で、今そこできゃんきゃんと子犬みたいに喚いている第二王子レトリー殿下の現婚約者。
この度の卒業パーティで婚約破棄という壮大な『ざまあ』をされる、はずだった。
「リリシュ=シュローテッド! このままでは婚約破棄をしてしまうぞ! いいのか? おい、ちゃんと好きと言え!」
あれ?
でも気付いたらこれ、私にじゃなく、意地悪してきてた元婚約者のヴィクトリアに対する『ざまあ』になってない?
おいおいー―。
ちょっと、ヴィクトリアがまだ立ち直れてませんよ、殿下。まだやるんですか……
※無断転載・複写はお断りいたします。
あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです
あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」
伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?
私を殺してくれて、ありがとう
ひとみん
恋愛
アリスティア・ルーベン侯爵令嬢は稀に見る美貌を持っていはいるが表情が乏しく『人形姫』と呼ばれていた。
そんな彼女にはまともな縁談などくるはずもなく、このままいけば、優しい義兄と結婚し家を継ぐ事になる予定だったのだが、クレメント公爵子息であるアーサーが彼女に求婚。
だがその結婚も最悪な形で終わる事となる。
毒を盛られ九死に一生を得たアリスティアだったが、彼女の中で有栖という女性が目覚める。
有栖が目覚めた事により不完全だった二人の魂が一つとなり、豊かな感情を取り戻しアリスティアの世界が一変するのだった。
だいたい13話くらいで完結の予定です。
3/21 HOTランキング8位→4位ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
何で1度目では事情も聞かずにすぐ国外追放したんだろう?
長年婚約者だったのに、仮にサクラに惚れたとしても婚約者の言い分くらいは聞いて真相を突き止めようと努力するよね?
それすらもしなかった男をまた好きになるのはうーんって思いました。
出来れば皇太子も1度目の時を覚えていて理由とかも明白にして謝罪とかして欲しかったかも。
感想をありがとうございます。
モヤモヤさせてしまい申し訳ないです。
確かに逆行前の冤罪事案はかなり巧妙だったということになりますね……。
読んでくださりありがとうございました。
感想をありがとうございます。
混乱させてしまい申し訳ないです。
最初は死刑の設定だったので……確認したつもりでしたが消し忘れがあったみたいですみませんでした。該当の単語変更させていただきました。ご報告ありがとうございました。