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12.それから
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マーティン王子のことを終えてからも、私は騎士としての修行に励んでいた。
それから半年が過ぎたある日、ルキの個別指導を受けている時、ルキにしては珍しく練習中に少し気の抜けた声が耳に届いた。
「イルアは、本気で騎士になるの?」
「え……? ええ、そのつもりよ」
この国に住む貴族の女性は、結婚後は相手方の家に入ることがほとんだし、騎士の家に嫁いだからといって騎士になるわけでもない。
けれど、出来損ないとして生きてきた自分は、今でこそ出来損ないというレッテルは外れたかなと思うが、誰かのお嫁さんになる未来は見えなかった。
「そうか……。いや、まあ、修行もすごくよく頑張ってるし、団員の一員として正式にメンバー入りも決まったもんな……」
そして何より私は来月の頭から正式な騎士団員としての入団がとうとう決まったのだ。
だからこうしてルキの特訓を受けるのももうあとわずかになる。
けれど、どことなく歯切れの悪いルキの言葉に、思わず首をかしげる。
「うん……?」
私が不思議そうにしていることに気づいたのだろう。
ルキは、取り繕うようにして笑う。
「いやお前に騎士をやめろって言ってるわけじゃないんだけどな、お前は本当にそれでいいのかなって思って……」
「私が騎士を目指すことにしたのは確かに出来損ないって言われたくないからだったところもあったけれど、今はこうして特訓を重ねて国のためになる人間になりたいと思っているの」
「そうか……」
ルキはそう言うと、力強くニッと笑った。
「それなら安心したぜ。何より、もうお前は出来損ないなんかじゃねえよ」
そしてルキは私の頭を突然くしゃくしゃと撫でてきたのだ。
「きゃっ、何するのよ!」
「ははは」
楽しそうに笑うルキを睨みつけるけれど、その瞬間、ルキにぎゅっと抱きしめられていた。
「ルキ……?」
「好きだ」
「え……?」
一瞬何を言われたのか理解するのに時間がかかった。
それとルキが何を言ったのか頭の中で理解した瞬間、一瞬にして顔に熱がこみ上げるのを感じた。
「騎士は続けてくれて構わないし、立派な騎士になってくれたら俺も嬉しい。けど俺は、イルアが騎士団の一員として入団した後も、ずっとイルアのそばにいたいと思っている」
武器にしてはたどたどしく不器用な喋り方ではあったが、ものすごくルキの気持ちが伝わってきて胸が熱くなった。
少し不安そうにルキは私を見る。
私の答えは、もう知っている。
「私も大好きだよ、ルキ」
出来損ないだった時から騎士への道を歩む今も、ずっとそばで手を引いてくれていた。
ルキも私のことを出来損ないじゃないと言ってくれるけれど、出来損ないだった私は、世の中のみんなを十分に見返せるくらいになれたのかな。
でも確実に私はあの頃よりもずっとずっと価値のある人間になれたような気がする。
これからも気を緩めることなく。
これからは最良のパートナーのルキとともに、未来を切り開いていくのだ。
(おしまい)
それから半年が過ぎたある日、ルキの個別指導を受けている時、ルキにしては珍しく練習中に少し気の抜けた声が耳に届いた。
「イルアは、本気で騎士になるの?」
「え……? ええ、そのつもりよ」
この国に住む貴族の女性は、結婚後は相手方の家に入ることがほとんだし、騎士の家に嫁いだからといって騎士になるわけでもない。
けれど、出来損ないとして生きてきた自分は、今でこそ出来損ないというレッテルは外れたかなと思うが、誰かのお嫁さんになる未来は見えなかった。
「そうか……。いや、まあ、修行もすごくよく頑張ってるし、団員の一員として正式にメンバー入りも決まったもんな……」
そして何より私は来月の頭から正式な騎士団員としての入団がとうとう決まったのだ。
だからこうしてルキの特訓を受けるのももうあとわずかになる。
けれど、どことなく歯切れの悪いルキの言葉に、思わず首をかしげる。
「うん……?」
私が不思議そうにしていることに気づいたのだろう。
ルキは、取り繕うようにして笑う。
「いやお前に騎士をやめろって言ってるわけじゃないんだけどな、お前は本当にそれでいいのかなって思って……」
「私が騎士を目指すことにしたのは確かに出来損ないって言われたくないからだったところもあったけれど、今はこうして特訓を重ねて国のためになる人間になりたいと思っているの」
「そうか……」
ルキはそう言うと、力強くニッと笑った。
「それなら安心したぜ。何より、もうお前は出来損ないなんかじゃねえよ」
そしてルキは私の頭を突然くしゃくしゃと撫でてきたのだ。
「きゃっ、何するのよ!」
「ははは」
楽しそうに笑うルキを睨みつけるけれど、その瞬間、ルキにぎゅっと抱きしめられていた。
「ルキ……?」
「好きだ」
「え……?」
一瞬何を言われたのか理解するのに時間がかかった。
それとルキが何を言ったのか頭の中で理解した瞬間、一瞬にして顔に熱がこみ上げるのを感じた。
「騎士は続けてくれて構わないし、立派な騎士になってくれたら俺も嬉しい。けど俺は、イルアが騎士団の一員として入団した後も、ずっとイルアのそばにいたいと思っている」
武器にしてはたどたどしく不器用な喋り方ではあったが、ものすごくルキの気持ちが伝わってきて胸が熱くなった。
少し不安そうにルキは私を見る。
私の答えは、もう知っている。
「私も大好きだよ、ルキ」
出来損ないだった時から騎士への道を歩む今も、ずっとそばで手を引いてくれていた。
ルキも私のことを出来損ないじゃないと言ってくれるけれど、出来損ないだった私は、世の中のみんなを十分に見返せるくらいになれたのかな。
でも確実に私はあの頃よりもずっとずっと価値のある人間になれたような気がする。
これからも気を緩めることなく。
これからは最良のパートナーのルキとともに、未来を切り開いていくのだ。
(おしまい)
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