婚約破棄された私は、自由を謳歌します。

香取鞠里

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「じゃあ、きみはこの国に住むアリーナ侯爵家の令嬢なんだね。アリーナ侯爵なら、私も貿易関係で何度かお会いしたことがある」

「そうだったのですか!?」

 話しているうちに、ロバートは私の父親と顔を合わせたことが何回かあるようだ。

「ロバートは、日頃はどんなお仕事をされているのですか?」

 ロバートは少し首をひねって、考えるようにして口を開いた。

「そうだな。国のことを考えたり、他国に挨拶したり?」

「そうなんですね。それで、こちらの国に?」

「ああ」

 詳しくは話すのをためらっていたようだが、話の雰囲気から、政治関係の方なのだろう。
 他国の令嬢に国のことをベラベラ話すことはいかないだろうから、それなら仕方がないのかもしれない。


「君はお屋敷には帰らないのか?」

「気が済むまでここでスローライフをして帰ると決めているので」

「そうなんだ。それはなぜ?」

「……自然が好きで、自然に触れながら生活してみたかったというのもありますが、ありもしない罪を着せられて婚約破棄されてしまったので、何となく居心地が悪いというのもありますね……」

「それは……、とてもつらい思いをしたんだな」

「いえ。おかげで念願のスローライフを送れているので、かえって良かったんだと思います」

 ロバートは心を痛めているように話すが、私としてはそんなに悲しんでいないのだから。

「また来てもいいか?」

「ぜひ。またこちらの国に来られることがあれば、お声をかけてくださいませ」


 ロバートは綺麗な笑みを浮かべると、護衛の人たちを連れて去っていった。

 とても綺麗な人だったな……。

 隣国の方ならそうそう会えないだろうし、また来てもいいかだなんて、挨拶のようなものなのだろうけれど、何となく私は浮わついた気持ちになってワクワクしたのだった。


 ロバートは思いの外私の領地に現れた。

 こちらの国に用事があるときだけでなく、フラッと散歩のように国境を越えて現れるのだから驚かされる。


「サリー」

「今日も来てくれたんですね!」

「僕の植えた花の様子が気になってね」


 そのうちに、ロバートもここで花を育てたいと言い出して、花壇の一部を貸している。

「いいな。スローライフ。僕もサリーとここでのんびり暮らしたくなるよ」

 ドキドキと胸が反応する。
 何たって相手はイケメン男子だ。
 深い意味はないとわかっていても、一緒にのんびり暮らしたいなんて言われるとドキドキする。


「もうっ! ロバートったら、からかわないでください」

「僕はからかってないんだけどな。やっぱり他国の人間は信用できない?」

「そんなことないですけど……」

 クスクス笑うロバートは、きっと私の反応を見て楽しんでいるのだろう。
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