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13.本当はずっと前から

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 扉を開けて飛び込んできたのはライアンだった。


「マリア……!」

 ライアンは慌てたように私のそばまで駆け寄ってくると、後ろから強くぎゅうっと抱きしめてくる。


「……どうして?」

「いきなりごめん、こんなことして。でもマリアが傷ついているような気がしたから」

「私が傷つこうと傷つかなかろうと、もう、ライアンには関係ないでしょう?」

「関係なくなんてない! どうしてそんなこと言うんだ」

「だって、ライアンはデイジーの方がいいんじゃないの?」


 ライアンから切り出される前に、私自身から切り出すことにした。

 同じことを言われるにしても、ライアンの口から言われるよりも自分の口から言った方がマシだと思ったからだ。その方がまだショックは少なくて済む。


「何の話だ。確かに君の妹と話してはいたが、私は君の妹の話はお断りしている」

「……え? デイジーの話を聞いたのに、あなたは私を選んでくれるの?」


 なんとなく信じられないような気持ちになりながら、私はライアンを見つめる。


「どうして……」

「俺は契約として君との結婚が決まる前から、ずっと君のことが好きだったからだよ」

「まさか……!」


 だって契約での結婚が決まる前、私はライアンとほとんど口すら聞いたことがなかった。
 それなのに、どうしてライアンが私のことを好きだっただなんて言えるのだろう。


「君と俺が学園が一緒だったのは君も知っているだろう。君は誰も見ていないところでも細かいところに気がつき気配りが出来る子だった。誰も見ていなくても落し物を拾って持ち主に届けたり、みんなに忘れ去られている花に水を与えたり、最初はそんな君を不思議に思って見ていたけれど、気づいたら好きになっていたんだ」


 日頃はそれほど口数の多くないライアンが、これほど一気にたくさん話すのを、私は初めて聞いたかもしれない。

 それ以前にライアンが、そんなに前から私のことを見ていてくれたなんて知らなかった。

 しかも自分ですら意識してやっていたわけではないから、そうだったかなと思ってしまうような事柄ばかりだ。


「デイジーから色々話は聞いたけれど、俺は見返りを求めず細やかな気配りができる君のことが好きだったんだ。今回契約結婚としてヒューネル子爵の娘と結婚させてほしいという旨を父に申し出たのも、そう言えば俺の結婚相手としてマリアが俺の婚約者になってくれると思ったからだ」


 信じられなかった。そんなに強くライアンから思ってもらえていたことを。


「でもやっぱりマリアにとって俺はただの契約結婚相手でしかない。デイジーの話が本当なら、一緒に住み始めてから俺は相当マリアにとってつらいことをしてきたかもしれないと思っている。だから俺は、マリアの本当の気持ちが聞きたい」


 きっとライアンは一緒に住み始めてから毎晩のように、私のことを愛してくれたことを言っているのだろう。
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