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12. デイジーの再アタック

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 本当ならあの時すぐにでも、ライアンに私の気持ちを伝えれば良かったのかもしれない。

 翌朝にはすでにライアンはもぬけの殻で、部屋にはいなかった。

 ライアン付きの侍女の話によると、ライアンはここ数日業務に追われているらしい。

 私とライアンの正式な結婚式が近づいているというのもあるのだろう。

 ライオンは何を思っているのだろう。

 まるで避けられているかのように、今までライアンと一緒だった時間にライアンと顔を合わせることすらなく、私はすっかり自分の気持ちを伝えるタイミングを逃してしまっていた。


 この日、私が公爵邸のお屋敷の中を歩いていると不意に中庭の方から聞き覚えのある声が聞こえた。

 デイジーだ。

 私に会いに来る口実で来ているはずなのに、全く私と会わずにあの子は一体何をしているのだろう。

 決してデイジーと顔を合わせて何かを話したいわけではないが、あの子が今よからぬことを企んでいることが目に見えて分かっているだけに、とても嫌な気持ちになった。

 私が中庭の方に近づいていくと、デイジーがライアンと一緒にいることが分かった。

 何かを深刻そうにライアンに話すデイジーと、表情を読み取れない顔でデイジーの話に耳を傾けている風なライアン。

 一体、二人は何を話しているのだろう。

 デイジーは先ほどからライアンにボディタッチを繰り返していて、二人の距離も心なしか近く、とても見ていて気持ちの良いものではない。

 これ以上見たくないという気持ちに反して、不安からその場を動けない。

 何より、決して二人の声が聞こえているわけではないから盗み聞きをしているわけではないが、もし二人に私がここで二人のことを見ていることがばれてしまうのはよくないだろう。

 今度こそデイジーに何を言われるか分からない。

 ようやく私の足が動こうとした時、タイミング悪くデイジーとライアンがこちらを振り向き私を見た。


「マリア!?」

「お姉さま!? まさか私たちのこと、ずっと見ていたの……? 何て嫌らしい姉なのかしら。ほら、ライアン様、見たでしょう? きっとまた何か企んでいるのだわ?」


 デイジーのセリフを聞いて、ああ、と思った。

 デイジーはライアンに対してお得意の洗脳をしていたのだ。
 デイジー自身を信じさせて、ライアンの方から私から離れるように仕向ける、いわばデイジーの得意技のようなものだろう。

 今までデイジーと接触して私から離れていく人は、いつデイジーと仲を深めたのだろうと疑問に思っていたけれど、なんとなく昔から漠然と疑問に思っていたことが解けた。

 いつ相手を洗脳しているのだろうと思っていたが、こうして私に見つからないようにターゲットと決めた人物に何度も接触を謀って、相手を徐々に洗脳していた、ということだろう。

 それならば、もうライアンも私のことなんて信じていないのだろか。


「ごめんなさい……」

 もうデイジーの言葉の何かを否定する勇気もなく、私はそれだけ告げてその場を後にする。

 逃げるように私とライアンの部屋に飛び込むと、私は倒れるようにしてベッドに横になった。

 きっと間もなく私はここを追い出されるのだろう。婚約者としてここに来たはずなのに、その婚約者を変更させられるのだろう。

 もうライアンに何かを言われる前に出ていこうか。

 そう思っていたとき、不意に先ほど閉めたはずの扉が開いた。
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