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10.不穏の影

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 ライアンは一人息子だからか、どうやらデイジーのこのような訪問は離れた姉を思ってのことだと思っているようで、特別怪しんではいなかった。


「君の妹は、君と話さなくて本当にいいのかね」


 ライアンはデイジーからの手土産を片手に不思議そうに首を傾げながら部屋に戻ってくる。


「私には特に用はないんだと思う。ライアンは迷惑じゃない?」

「迷惑なわけないよ。だって君の妹だろ?」

「そうだけど……。私にはあの子の考えていることがよくわからなくて……」

「姉妹だからこその心配事かな? 俺には兄弟がいなかったから羨ましい」


 ライアンが思っているのとはちょっと……いや、だいぶ違うだろう。

 けれどライアンには私の言わんとしてることがうまく通じず何とも言えない気持ちになる。

 ライアンも他の人達と同じように、そのうち私よりデイジーを相手にするようになるのだろうか。

 そう考えると寂しいし、ものすごく胸がえぐられるように痛んだ。


「マリア、どうしたの?」

「ううん……」


 契約で決まった婚約者に、ちょっと不安になっただけだなんて言えない。

 けれど、私の雰囲気から何かを感じ取ってくれたのか、ライアンは私の肩を優しく抱き寄せるとふわりと唇を重ねた。

 ちゅっ、ちゅと可愛らしい音を立ててするキスから、徐々に息が上がる濃厚なキスをされて、私はベッドに連れて行かれていた。

 服をはだけさせられるのも、素肌に触れられるのも、最初はあんなに嫌だったのに、今はすんなり受け入れられている。

 むしろ、もっとほしいとさえ感じているのは、きっと私がライアンを好きになってしまったからだ……。


「ん……っ。はぁ、もっと……」


 せめて、ベッドの上で抱き合っている間くらいは、ライアンを強く求めてもいいだろうか。

 ライアンとは、一緒に住むようになってから夜には度々抱かれていたが、私からライアンを求めるような言葉を口にしたのが初めてだったからだろう。

 少し驚いたような顔で私を見つめた後、満足そうな笑みを浮かべると、私に覆いかぶさるようにしてキスをしながら、激しく私のことを突き上げてくれたのだった。




 それから数日後にデイジーが訪れたが、その日はたまたまライアンは留守だった。


「せっかく私がわざわざ出向いてきたというのにライアン様は留守なの?」


 デイジーは大きく溜息を吐くと、信じられないとばかりにドスンと私達のベットの上に腰を下ろす。


「そんな言い方するならわざわざ出向いて来てくれなくてもいいのよ」


 それとなくもう来るなという意味を込めてデイジーに返すけれど、デイジーには聞こえていないようだ。

 涼しい顔で肩にかかる髪を後ろにやって、デイジーは勝ち誇ったように口にした。


「ま、お姉様がそんな風に私に勝ったつもりでいられるのも今のうちよ? 何より、お姉様が婚約者だなんて、ライアン様が可哀相だわ」


 そうニタリと笑うデイジーに、私は背中に悪寒が走るようだった。
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