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7.婚約者の素顔

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 そんなある日のことだった。

 季節の変わり目で朝晩の寒暖差が激しかったことから、私は朝から熱を出してしまった。


「マリア、具合はどうだ? 何か食べられそうか?」

 仕事を終えたライアンは、ホカホカのお粥を載せたお盆を持って私の前に現れた。


「うん、ありがとう。ごめんね」

 ベッドに横になっていた私が起き上がろうとすると、ライアンはさり気なく背に手を添えてくれる。


「無理しなくていい」

 自分よりも一回りは大きい体に包まれて、ただでさえ高い熱が上がってしまいそうだ。


「ほら……」

 そんな私の気も知らずに、ライアンはベッドの上に座った私の口元に、スプーンに掬ったお粥を載せてフーフーして差し出してくる。

 恥ずかしく思いながらも、お腹は空いているし、何よりライアンの気持ちを無下にしたくなかった。

 ぱくりと口に含むと、決して熱すぎずぬるすぎないくらいのぬくもりが口いっぱいに広がり、優しい風味を感じた。


「美味しい……」


 ホッとする感覚とともに、思わずそう口にすると、ライアンは安心したように目を細めて笑った。


「よかった……。マリアに気に入ってもらえるか心配しながら作ったから、嬉しいよ」

「え? 作ったって……? もしかしてこれ、ライアンが作ったの?」


 貴族のお屋敷には、料理人がいるのが常だ。
 私の家は貴族でも貧しかったから全部が全部料理人任せと言うわけにはいかないが、たいていの料理は料理人やその下っ端たちがしてくれるものだから驚いた。

 ライアンって、料理できたんだ……。

 何より、出会う前の印象が嘘のように、ライアンは優しい……。

 こんなに私のことを心配してくれて、こんなに私のためにしてくれる人なんて、ライアンと出会わなければ、一生出会うことはなかったかもしれないとさえ思う。

 熱のせいなのか、今日はいつも以上にライアンにドキドキとしている。


「あれ? さっきより顔が赤いぞ? 大丈夫か?」


 そう言ってライアンは私の額に彼の額をくっつけてくる。思わず私の頬はもっともっと熱くなり、ライアンには心配そうに寝とけと言われる始末だった。

 なんだかライアンには悪いことをしたような気持ちになったが、私はとても幸せだった。

 いつのまにか私は、契約結婚だというのにライアンに惹かれてしまっていたようだ。

 いや、今までライアンの噂だけが独り歩きしていただけだったのだ。

 実際にライアンは冷たくないし、そんなふうな悪評が立ってしまったのは、単純にライアンがクールで言葉数が少なく思ったことをはっきりと口にするところからだったのだろう。

 そのせいで彼の考えていることが最初はわからなかったし、今も分からないところはたくさんあるが、意外と心配性で契約結婚で妻になる私のことを大切に思ってくれていることはすごく伝わってきていた。

 そんな一面を間近で見て、さらには極上のイケメンで、好きになるなという方が難しいだろう。

 私のそばで一生懸命看病してくれるライアンを見つめながら、私はぼんやりする頭のまま静かに目を閉じた。
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