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6. 意外と順調な婚前同居

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 ライアンに激しく求められてから、私達の婚前同居の生活は意外と順調に進んでいる。

 まだ正式に結婚式はしていないから、婚約者という立場ではあるが、ライアンは私を夫婦のように扱ってくれるので、何となくいつの間にか完全に結婚してしまったような錯覚にさえ陥ることがある。

 この日の花嫁修業を終えたあとは、残りの時間は部屋で好きなように過ごしていいと言われていたため、私は本を読んでいた。

 すると、ドアが開く音ともに「マリア」と名前を呼ばれた。

 ライアンだ。


「これから一緒にお茶にしないか?」

「ええ」

 私は本をパタリと閉じて、ライアンが紅茶を用意する室内のテーブル席へ向かう。

 ライアンは一緒に暮らし始めてから、こうして毎日手のあいた時に私に紅茶を淹れてくれる。
 もちろん、ライアン付の侍女はいるのだが、いつも必ずライアンが二人分の紅茶を淹れてくれるのだ。


「はい。熱いから気をつけて」

「ありがとう……」


 湯気の上がる紅茶にふーふーと息を吹きかけて、一口含む。

 淹れたての紅茶はそのくらいのことでは冷めるわけなく、当然ながら熱かった。


「ふふ……っ。だから言ったのに……」


 ライアンは、熱さのあまり思わず肩を跳ねさせた私の姿を見逃さなかったようで、おかしそうに笑っている。

 冷酷だと言われていたのが嘘なくらいに柔らかい表情を浮かべていて、何となく新鮮な気持ちになる。


「……ライアンでも、そんなふうに笑うことがあるんだね」


 失礼ながら思わず口にしてしまった。
 だってあまりに意外だったから。

 ライアンは目を丸くして驚いたように私を見る。
 きょとんと目を丸くすることもあるんだと思うと、さらにおかしかった。


「そりゃ俺だって笑うことくらいあるよ。そんなにおかしいか?」

「ごめんなさい。おかしくなんてないわ。ただ、イメージと違うというか……。あ、でも私の中にあったイメージより全然良かったっていう意味だから、悪い意味じゃないんだよ?」

「そうか……」


 ライアンが冷酷に見えるのは、見た目がイケメン過ぎることに加え、クールな性格もあるのだろう。

 言葉数もそれほど多くないが、実際には、意識して私との時間を取ろうとしてくれるいい旦那様なのだろう。まあ、実際にはまだ正式には結婚していないのだが……。

 会話が弾むというわけではないが、意外にも心穏やかな時間を過ごさせてもらっている。

 これでいて、夜は激しく求められるのだから、心臓がもたない。


 けれど、ひとつだけ気がかりなのは、ライアンの気持ちが読めないことだ。

 ライアンがこんなに私にしてくれるのは、私が契約上であっても彼の花嫁になるからだろうか。

 単純に考えたらそうなのだし、それ以上を求めるつもりはないけれど、そう考えると何となくちくんと胸が痛むのだった。
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