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第19話 ここでゆっくり、誰かが来るのを待とう
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国連加盟国は193あるってこの前授業で習った。それだけあれば、私が知らない国があるのも当たり前だ。
「それじゃなんでみなさん日本語を話しているんですか? エスタ共和国ってそんなに日本語を話せる人がいるんですか?」
「本当にお前は何を言っているんだ? さっきからエスタ語で話しているじゃないか?」
エスタ語? ますます聞いたことがない。
「ミサ君、ここまでどうだ?」
男性が、部屋の隅でペンで記録を取っていた若い女性にそう声をかけた。こっちは濃い臙脂のゴシックロリータ風の衣装だ。
本当にここ、テーマパークじゃないの? 捕縛と取り調べまでがセットのアトラクションじゃないの?
「はい、カハラ署長、ここまでの話は一致しています」
ミサと呼ばれた女性はそう答えた。
この男性は署長なのか。としたらやっぱりここは警察署なのだろう。女性は警官か。
「じゃあ、フジガヤ、お前はアケハラヒバリという女を知っているか? お前よりひとつ上の娘だ」
アケハラ? 明原か?
「いえ、知りません」
「知らないはずがないだろう。お前と同じように、ニホンという国のトウキョウから来たと言っていた。髪もお前と同じように黒い。そして、自分はティーツィアの一員だと言い、力を使った。違うのは、見つかったのが街の広場か、街のそばの森かくらいだ」
あ、もしかしたら、ヒバリさんって人、魔法少女の先輩?
「あの、それはいつのことですか?」
「三ヶ月前だ」
私がティーツィアプロジェクトに誘われる、ちょっと前だ。
箕輪さんが、最後の先輩が「卒業」したのは四月中旬って言っていた。
「その……ヒバリさんは今どうしているのですか」
「知らん、というか、お前たちが知っているのではないか? こうして捕まえたら、次の朝にはもう拘置所にいなかった。力で逃げたのか、お前たちが手助けをして逃がしたのではないのか?」
「いえ、私は全然知らないです」
魔法少女の先輩っていうのは私の推測。それに、アケハラヒバリさんという人を知らないことは嘘ではない。
あれ、でも、アケハラヒバリって、どこかで聞いた名前のような気がする。
どこで聞いたのだろう。思い出せない。
「まあいい、取り調べは続けるからな。今日はもう夜だからここまでにしておくが、絶対に逃げようとは思うなよ。ミサ君、調書は書けたかい」
「はい、カハラ署長」
「では、これを読んで間違いがなければ、ここにサインをするように」
あ、これ、嘘の自白を認めさせるやつだ。ドラマでよく見た。
嘘の調書には絶対にサインしないぞと思いながら、署長に渡された調書に目を通す。
さっきここの看板にあったような、アルファベットのようでアルファベットでない文字が並んでいる。
嘘も何もこれなら読みようがない、と思ったけれど、私の言ったことが一言一句間違いなく書いてある。知らないはずの文字なのに、ちゃんと読める。
サインするしかないので、藤ヶ谷こころとサインをする……確かに藤ヶ谷こころと書いたはずで、そう読めるのに、自然に、この知らないはずの文字で、サインをしている。
これは一体どういうことだろう。理解できないことが多くて、頭がバグをおこしてしまっているのかな。
「しばらくここに泊ってもらうからな」
そう言われて、拘置所の独房に入れられた。
レンガ造りの壁で、質素なベッドが置かれている。あとはトイレがあるくらい。
上の方に小さな嵌め殺しのガラスの窓があるが、手の届く高さではない。
明かりは裸電球がひとつだけ。
ここは本当にどこなんだろう。場所もそうだし、時代も明らかに「現代」ではない。でも、電気があるなら「中世」でもない。
警官だか看守だかが、夕食を持って来た。
パンに、暖かいスープ。スープには野菜や鶏肉が少し入っていて、素朴ながらおいしい。
パンはとても堅く、ちぎるのに苦労する。容疑者として、扱いがよいのか悪いのかよくわからない。
こんなときでもお腹は空くので、しっかりいただく。
食べながら、今日起きたことを考える。
マールムとの戦いの中で、コスチュームを引き裂かれ、瞬間移動させられた。
ここはどこだかは全くわからない。全く知らない国。言葉は普通に通じる。知らないはずなのに読めて、書けてしまう文字。日本も東京も知らないと言われた。
そして、いつだかわからない時代。
ここは、アニメやラノベでよく出てくる「異世界」?
いや、あれはあくまでも空想の産物よ。
訳がわからないからといって、そんな結論に簡単に飛びつきたくはない。
その三文字が頭に浮かばないよう、必死に押さえ込む。
それに、アケハラヒバリという子、いや、ひとつ上の先輩。
多分、魔法少女の先輩でもある。
捕らえられたその夜のうちに消えた、というのは、箕輪さんか東山さんか、誰かティーツィアの人が助けにきてくれて、力で元のところに戻してくれたのだろう。
ここまで私を、そしておそらくヒバリさんも移動させる力がマールムにあるのだから、ティーツィアの人にだって同じ力があるはずだ。
「なるべく力を使わずに、活力を貯めておきたい」って言っていた東山さんも、仲間を助けるためには、力も活力も惜しむはずがない。
自分でも、力でさっきの広場に脱出することくらいはできる。でも、もし力を使ってここから逃げたら、今度は見付け次第監獄行きと言われてしまった。
拘置所と違い、監獄って一度入ったら出られない感じがする。
ここでゆっくり、誰かが来るのを待とう。
「それじゃなんでみなさん日本語を話しているんですか? エスタ共和国ってそんなに日本語を話せる人がいるんですか?」
「本当にお前は何を言っているんだ? さっきからエスタ語で話しているじゃないか?」
エスタ語? ますます聞いたことがない。
「ミサ君、ここまでどうだ?」
男性が、部屋の隅でペンで記録を取っていた若い女性にそう声をかけた。こっちは濃い臙脂のゴシックロリータ風の衣装だ。
本当にここ、テーマパークじゃないの? 捕縛と取り調べまでがセットのアトラクションじゃないの?
「はい、カハラ署長、ここまでの話は一致しています」
ミサと呼ばれた女性はそう答えた。
この男性は署長なのか。としたらやっぱりここは警察署なのだろう。女性は警官か。
「じゃあ、フジガヤ、お前はアケハラヒバリという女を知っているか? お前よりひとつ上の娘だ」
アケハラ? 明原か?
「いえ、知りません」
「知らないはずがないだろう。お前と同じように、ニホンという国のトウキョウから来たと言っていた。髪もお前と同じように黒い。そして、自分はティーツィアの一員だと言い、力を使った。違うのは、見つかったのが街の広場か、街のそばの森かくらいだ」
あ、もしかしたら、ヒバリさんって人、魔法少女の先輩?
「あの、それはいつのことですか?」
「三ヶ月前だ」
私がティーツィアプロジェクトに誘われる、ちょっと前だ。
箕輪さんが、最後の先輩が「卒業」したのは四月中旬って言っていた。
「その……ヒバリさんは今どうしているのですか」
「知らん、というか、お前たちが知っているのではないか? こうして捕まえたら、次の朝にはもう拘置所にいなかった。力で逃げたのか、お前たちが手助けをして逃がしたのではないのか?」
「いえ、私は全然知らないです」
魔法少女の先輩っていうのは私の推測。それに、アケハラヒバリさんという人を知らないことは嘘ではない。
あれ、でも、アケハラヒバリって、どこかで聞いた名前のような気がする。
どこで聞いたのだろう。思い出せない。
「まあいい、取り調べは続けるからな。今日はもう夜だからここまでにしておくが、絶対に逃げようとは思うなよ。ミサ君、調書は書けたかい」
「はい、カハラ署長」
「では、これを読んで間違いがなければ、ここにサインをするように」
あ、これ、嘘の自白を認めさせるやつだ。ドラマでよく見た。
嘘の調書には絶対にサインしないぞと思いながら、署長に渡された調書に目を通す。
さっきここの看板にあったような、アルファベットのようでアルファベットでない文字が並んでいる。
嘘も何もこれなら読みようがない、と思ったけれど、私の言ったことが一言一句間違いなく書いてある。知らないはずの文字なのに、ちゃんと読める。
サインするしかないので、藤ヶ谷こころとサインをする……確かに藤ヶ谷こころと書いたはずで、そう読めるのに、自然に、この知らないはずの文字で、サインをしている。
これは一体どういうことだろう。理解できないことが多くて、頭がバグをおこしてしまっているのかな。
「しばらくここに泊ってもらうからな」
そう言われて、拘置所の独房に入れられた。
レンガ造りの壁で、質素なベッドが置かれている。あとはトイレがあるくらい。
上の方に小さな嵌め殺しのガラスの窓があるが、手の届く高さではない。
明かりは裸電球がひとつだけ。
ここは本当にどこなんだろう。場所もそうだし、時代も明らかに「現代」ではない。でも、電気があるなら「中世」でもない。
警官だか看守だかが、夕食を持って来た。
パンに、暖かいスープ。スープには野菜や鶏肉が少し入っていて、素朴ながらおいしい。
パンはとても堅く、ちぎるのに苦労する。容疑者として、扱いがよいのか悪いのかよくわからない。
こんなときでもお腹は空くので、しっかりいただく。
食べながら、今日起きたことを考える。
マールムとの戦いの中で、コスチュームを引き裂かれ、瞬間移動させられた。
ここはどこだかは全くわからない。全く知らない国。言葉は普通に通じる。知らないはずなのに読めて、書けてしまう文字。日本も東京も知らないと言われた。
そして、いつだかわからない時代。
ここは、アニメやラノベでよく出てくる「異世界」?
いや、あれはあくまでも空想の産物よ。
訳がわからないからといって、そんな結論に簡単に飛びつきたくはない。
その三文字が頭に浮かばないよう、必死に押さえ込む。
それに、アケハラヒバリという子、いや、ひとつ上の先輩。
多分、魔法少女の先輩でもある。
捕らえられたその夜のうちに消えた、というのは、箕輪さんか東山さんか、誰かティーツィアの人が助けにきてくれて、力で元のところに戻してくれたのだろう。
ここまで私を、そしておそらくヒバリさんも移動させる力がマールムにあるのだから、ティーツィアの人にだって同じ力があるはずだ。
「なるべく力を使わずに、活力を貯めておきたい」って言っていた東山さんも、仲間を助けるためには、力も活力も惜しむはずがない。
自分でも、力でさっきの広場に脱出することくらいはできる。でも、もし力を使ってここから逃げたら、今度は見付け次第監獄行きと言われてしまった。
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