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第18話 いや、どこに逃げてよいかわからない
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第四章 捕縛
瞬間移動できない。
もしかしたら、ここに瞬間移動させられたときに力が奪われた?
試しに少しだけ移動してみよう。
5メートル先をイメージして詠唱する。
「ムーヴェンズ!」
移動できた。力が全くなくなってしまったのではないみたい。
でも、だからって状況は変わらない。さて、どうしよう。
まずは、誰かにここがどこか聞いてみよう。
誰かいないかな。
いや、いないどころかたくさんいた。いつの間にか、私は多くの人に遠巻きに取り囲まれていた。
女性は白いブラウスに、赤や緑の長いジャンパースカート。
男性は白いシャツに、同じく赤や緑のベストと黒いハーフパンツ。
どこの衣装かわからないけれど、テーマパークの衣装? キャストさん?
髪の毛はみんな栗毛色で、どこの国の人かよくわからない容貌。
でも、テーマパークのキャストさんと違って、みんな厳しい目で私を見ている。
「力を使ったぞ」
「魔人だ」
「魔人だわ」
「マールムの残党か」
「いや、髪の毛が黒いわ」
「どこの人間だ?」
「この前の奴と同じだ」
「あの消えた子と?」
「そしたらやっぱりマールムか?」
「危険人物だわ」
「危険人物だ」
「捕まえよう」
私を遠巻きにしていた人たちが、じりじりと距離を詰めてくる。
ものすごく緊迫した感じがする。
でも、この人たち、日本語を話している。そうしたら、やっぱりフランス村かポルトガル村よね。ならば、これはアトラクション?
でも、全然安心できない。みんな目が笑っていない。
それに、マールムって言っていた。
普通の人がマールムなんて知っているはずがない。
それと、「マガッシュ」って何? しかも、小刀を取り出した人もいる。
コスチュームに変身した方がいい? 刃物を防げるって言ってたわよね。
だめだ、コスチュームは破れていて、胸が丸出しになってしまう。
それに、今また力を使ったら、もっと悪い方向に行きそうな気がする。
手当たり次第に投げ飛ばして逃げる?
いや、どこに逃げてよいかわからない。
おとなしく捕まろう。多分、捕まったところで誰かがこう言うんだ。
「お疲れ様でした! びっくりしたでしょう。当パークの名物、捕縛アトラクションはいかがでしたか?」
そんな期待も空しく、私は捕らえられ、手を縄で縛られて、レンガ造りのいかめしい建物に連れて行かれ……いや、とっとと歩けとひったてられた。
建物の入口に看板が掛かっている。
その文字は、アルファベットに似ているような、似ていないような。
少なくとも日本語では全くないが、なぜかそれが「シカーワ警察署」という意味であることがわかってしまった。
なんでだろう。
小部屋に入れられ、飾り紐の付いた古めかしい軍服のようなものを着た、髭面の男性の取り調べを受ける。
手の縄はほどいてくれた。
「初めに言っておく。絶対に力は使うな。もし力を使ってここから逃げたら、今度は見付けたら即、監獄にぶち込む。わかったか」
「は、はい」
訳がわからないうちは、おとなしくしておこう。
「それでは、名前と年齢は?」
「藤ヶ谷こころです。15歳で、もうすぐ16歳になります」
「お前はどこから来た?」
「日本の、東京です。住所は杉並区南阿佐……」
「もういい。この前の奴もニホンとかトウキョウとか言っていたな。マールムではそう言えって言われているのか。嘘を言うとお前のためにならないぞ」
この前の奴?
それに、またマールムって言った。
やはりフランス村とかアトラクションとかではなく、「現実」なのだろうか。
「嘘なんかじゃありません。それに私はマールムなんかじゃありません。東京でマールムと戦って、ここに飛ばされたんです。私はティーツィアの一員です。誰かティーツィアの人を呼んでくださればわかると思います」
私の知っているマールムが、こっちのマールムと同じなのかはわからない。
ただ、マールムと思われたら、確実によくない方向に行きそうなことは感じられる。
それに、マールムが同一の存在だったら、ティーツィアの人もいるかもしれない。
もしティーツィアの人がいて、私のことを仲間と言ってくれれば、怪しい者でないことが証明される。
だから、そこに賭けてみる。
「何を言っている? マールムでない者が、なんで人前で力を使ったのか」
「それはいきなりここに飛ばされたので、元の場所に戻れないか試してみただけです。だから、とにかく誰かティーツィアの人をお願いします」
「この街にはティーツィアとわかる者はいない。というか、国中探しても、自分はティーツィアだと申し出る人間はまずいないだろう」
「申し出ない? どういうことですか?」
「どういうことだと? こっちが聞きたいぞ。ティーツィアは自分がティーツィアであることを隠して生きているのがこの国では普通なのは、誰でも知っているではないか」
ティーツィアという人たちがいるのは確からしい。でも何で隠して生きているの?
「この国? そもそもこの国ってどこなんですか?」
「そこから白を切るのか。エスタ共和国もなめられたものだな」
エスタ共和国? 聞いたことがない国だ。
瞬間移動できない。
もしかしたら、ここに瞬間移動させられたときに力が奪われた?
試しに少しだけ移動してみよう。
5メートル先をイメージして詠唱する。
「ムーヴェンズ!」
移動できた。力が全くなくなってしまったのではないみたい。
でも、だからって状況は変わらない。さて、どうしよう。
まずは、誰かにここがどこか聞いてみよう。
誰かいないかな。
いや、いないどころかたくさんいた。いつの間にか、私は多くの人に遠巻きに取り囲まれていた。
女性は白いブラウスに、赤や緑の長いジャンパースカート。
男性は白いシャツに、同じく赤や緑のベストと黒いハーフパンツ。
どこの衣装かわからないけれど、テーマパークの衣装? キャストさん?
髪の毛はみんな栗毛色で、どこの国の人かよくわからない容貌。
でも、テーマパークのキャストさんと違って、みんな厳しい目で私を見ている。
「力を使ったぞ」
「魔人だ」
「魔人だわ」
「マールムの残党か」
「いや、髪の毛が黒いわ」
「どこの人間だ?」
「この前の奴と同じだ」
「あの消えた子と?」
「そしたらやっぱりマールムか?」
「危険人物だわ」
「危険人物だ」
「捕まえよう」
私を遠巻きにしていた人たちが、じりじりと距離を詰めてくる。
ものすごく緊迫した感じがする。
でも、この人たち、日本語を話している。そうしたら、やっぱりフランス村かポルトガル村よね。ならば、これはアトラクション?
でも、全然安心できない。みんな目が笑っていない。
それに、マールムって言っていた。
普通の人がマールムなんて知っているはずがない。
それと、「マガッシュ」って何? しかも、小刀を取り出した人もいる。
コスチュームに変身した方がいい? 刃物を防げるって言ってたわよね。
だめだ、コスチュームは破れていて、胸が丸出しになってしまう。
それに、今また力を使ったら、もっと悪い方向に行きそうな気がする。
手当たり次第に投げ飛ばして逃げる?
いや、どこに逃げてよいかわからない。
おとなしく捕まろう。多分、捕まったところで誰かがこう言うんだ。
「お疲れ様でした! びっくりしたでしょう。当パークの名物、捕縛アトラクションはいかがでしたか?」
そんな期待も空しく、私は捕らえられ、手を縄で縛られて、レンガ造りのいかめしい建物に連れて行かれ……いや、とっとと歩けとひったてられた。
建物の入口に看板が掛かっている。
その文字は、アルファベットに似ているような、似ていないような。
少なくとも日本語では全くないが、なぜかそれが「シカーワ警察署」という意味であることがわかってしまった。
なんでだろう。
小部屋に入れられ、飾り紐の付いた古めかしい軍服のようなものを着た、髭面の男性の取り調べを受ける。
手の縄はほどいてくれた。
「初めに言っておく。絶対に力は使うな。もし力を使ってここから逃げたら、今度は見付けたら即、監獄にぶち込む。わかったか」
「は、はい」
訳がわからないうちは、おとなしくしておこう。
「それでは、名前と年齢は?」
「藤ヶ谷こころです。15歳で、もうすぐ16歳になります」
「お前はどこから来た?」
「日本の、東京です。住所は杉並区南阿佐……」
「もういい。この前の奴もニホンとかトウキョウとか言っていたな。マールムではそう言えって言われているのか。嘘を言うとお前のためにならないぞ」
この前の奴?
それに、またマールムって言った。
やはりフランス村とかアトラクションとかではなく、「現実」なのだろうか。
「嘘なんかじゃありません。それに私はマールムなんかじゃありません。東京でマールムと戦って、ここに飛ばされたんです。私はティーツィアの一員です。誰かティーツィアの人を呼んでくださればわかると思います」
私の知っているマールムが、こっちのマールムと同じなのかはわからない。
ただ、マールムと思われたら、確実によくない方向に行きそうなことは感じられる。
それに、マールムが同一の存在だったら、ティーツィアの人もいるかもしれない。
もしティーツィアの人がいて、私のことを仲間と言ってくれれば、怪しい者でないことが証明される。
だから、そこに賭けてみる。
「何を言っている? マールムでない者が、なんで人前で力を使ったのか」
「それはいきなりここに飛ばされたので、元の場所に戻れないか試してみただけです。だから、とにかく誰かティーツィアの人をお願いします」
「この街にはティーツィアとわかる者はいない。というか、国中探しても、自分はティーツィアだと申し出る人間はまずいないだろう」
「申し出ない? どういうことですか?」
「どういうことだと? こっちが聞きたいぞ。ティーツィアは自分がティーツィアであることを隠して生きているのがこの国では普通なのは、誰でも知っているではないか」
ティーツィアという人たちがいるのは確からしい。でも何で隠して生きているの?
「この国? そもそもこの国ってどこなんですか?」
「そこから白を切るのか。エスタ共和国もなめられたものだな」
エスタ共和国? 聞いたことがない国だ。
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