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第17話 天上界10日目 その1 さっさと起きろ、このブタ野郎!

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「さっさと起きろ、このブタ野郎!」

 いや、モニア様、そう言ったのは俺ですが、やっぱり朝からそれはつらいです。
 それに、朝はやっぱり妹に、「お兄ちゃん、起きないと遅刻しちゃうよ。起きないと、チューしちゃうよ」と起こしてもらうのが至高だな。
 いや、さすがにチューは幼馴染のセリフかな、俺にはそういう幼馴染はいないけど。

 妹に朝起こしてもらうセリフは、何が一番なんだろう。
「お兄ちゃん、起きないとせっかく作った味噌汁が冷めちゃうよ」
 圭が味噌汁を作ったことはなかったけど。
「お兄ちゃん、起きないとパジャマが洗濯できないでしょ」
 圭が洗濯しているのも見たことないな。
「お兄ちゃん、起きないと部屋の掃除ができないでしょ」
 圭が自分の部屋の掃除をしているのかさえも怪しいけど。

 俺も味噌汁を作ったり、洗濯をしたりしたことがないのは、生前の反省点だ。
 でもそうすると、母親でも妹でも、女性が早起きして家事をして、寝ている男性を起こすというのは固定概念だな。
「圭、起きないとパジャマが洗濯できないぞ」
「バカ兄、なんであたしの部屋に入ってきて、パジャマを洗おうとするのよ!」
 こうなる可能性もあるな。

 難しい問題だな。今はもう「起こしに行く」ということ自体、時代遅れなのかもしれない。家族の誰かが早起きをしていることが前提なのだから。
 そういえば、毎朝俺がモニア様に起こされていることを、俺は当たり前だと思っていた。
 今度は俺がモニア様を起こしに行こう。
 いや、そんなことしたら、圭にまた責められるな。 

 そう思ったとたん、圭がどこからともなく現われた。
「お兄ちゃん遅い! あたしは朝四時に目覚ましをかけて、お兄ちゃんが呼んでくれるのを待っていたのに!」
 目覚めのチューどこころか、ゲシゲシと蹴られた。というか、圭、気合い入り過ぎ。

「だから起きろ、ブタ野郎!」
 モニア様まで面白がって、一緒に俺を蹴るのはやめてくれませんか。
 モニア様の言いつけを守って、この時間まで圭を呼ぶのを待ったのですよ。
 いや、圭もモニア様を止めてくれよ。
 妹と女神様に蹴られて朝起こされるって体験は、貴重ではあるけれど。

「さて、昨日の実験の続きをするわ。これが成功したら、実験はおしまいよ」
「まさかまた俺を荒野に飛ばすんじゃないでしょうね」
「飛ばすのはあなたじゃないわ。圭ちゃん、圭ちゃんも、気が付いたら私の名前を呼んでね。さあ、新しい世界に旅立ちなさい!」
 そう言ってモニア様は今度は両手のひらを圭に向けて、光を浴びせた。
 今度は俺とモニア様の前から、圭の姿が消えた。

「モニア様、圭をどこにやったんですか! 事と次第によっては許さないぞ!」
 俺はモニア様に詰め寄った。
 もし圭をどこかに追い払ったのなら、神様であっても絶対に許さない!
 モニア様を殺して俺も圭の後を追う!
「血の気の多い兄妹ね。落ち着いて。なんでふたりして同じ反応をするのよ。気が付いたら私の名前を呼んでって言ったでしょ。見ていてよ」
 モニア様はそう言って、耳を澄ませて何か遠くの音を聞くようなポーズを取った。
「よし、今ね!」

 そして、さっきまで圭がいた場所に向けて両手を伸ばし、何もない空間に光を浴びせた。
 そして、光が消えたら、そこにポカンとした顔をした圭が立っていた。

 え、ちょっと待って。
 天上界に戻ったと思ったら、いきなりモニア様に光を浴びせられた。
 モニア様とお兄ちゃんが視界から消えたと思ったら、一瞬気を失った。
 気が付いたら、あたしは何もない荒野にいた。
 ここって、お兄ちゃんが昨日飛ばされたところ?
 これが転生っていうこと?
 中学一年生で転生を経験してしまったら、中二病になるどころではないわ。
 でも、なんで今度はモニア様はあたしを飛ばしたの。
 モニア様に文句を……ああ、そう言えば、モニア様、気が付いたらモニア様の名前を呼んでって言っていたわね。

 よくわからないけど、とりあえず呼んでみよう。
「モニア様! モニア様!」
 そう呼んだ瞬間、再びあたしの全身が、空から降ってきた光に包まれた。
 そして気が付いたら、元の天上界に戻っていた。

「実験はすべて成功ね。生きている人間を異世界に飛ばして、そして引き戻すのはエネルギーがかなり必要だったけど」
「エネルギーがかなり必要って、実験が失敗したら圭はどうなっていたんですか? あんな世界に圭がひとりで取り残されたらどうなっていたことか」
 モニア様には怒られてばっかりだったけど、これは俺が怒ってもいいのかもしれない。
「大丈夫よ。研修でもやらなかったけど、私は私の力を信じていたから」
「研修でもやってなかったんかい!」

「そりゃそうよ。そもそも生きている人間が天上界に来ることなんか、想定していませんでしたからね。ましてや、それから異世界に転生させ、すぐに引き戻すなんてこと、誰も思いもしなかったわ」
「モニア様、あたしたちを実験動物か何かと思っていませんか?」
「そんなことはないわ、圭ちゃん。これはみんなあなたたち兄妹のためなのですからね」

「あたしたちのため?」
「そうよ。それに、万一圭ちゃんを引き戻すのに失敗したときのことも、ちゃんと考えてあったわ」
「あそこは何もないところでしたよ。どんなことですか、モニア様?」
「いい、圭ちゃん。そのときはね、あの世界でもあなたたちふたりで生きていけるよう、ありったけのスキルをあなたのお兄ちゃんに授与して、同じ世界に転生させたわ。アダムとイヴのように、あなたたちふたりから新しい世界が始まるの」

「アダムとイヴって、俺たちは血の繋がった兄妹ですよ。なあ、圭?」
「あたしとお兄ちゃんがアダムとイヴ、あたしとお兄ちゃんがアダムとイヴ……」
 圭が目をぐるぐる回しながらそうつぶやいていた。
 こりゃダメだ。

「それにモニア様、アダムとイヴって、モニア様の世界でもいるのですか?」
「あなた方にわかりやすい例えを使っただけよ」
「それはそうと、モニア様、これまでの実験、俺には何が何だかわからないんですけど」 
「え、わからない?今までの実験結果を振り返ってみて」
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