4 / 31
第4話 天上界1日目 その3 冒頭のシーンがつまらなかったら、読者や視聴者はそれだけで離れてしまうんです
しおりを挟む
そもそも、誰でも死んだら転生できる訳ではないわ。
普通は、同じ世界で別の人間として生まれ変わる。もちろん、前世の記憶や能力は引き継がれない。
転生できるのは、ほんの一握りの、転生させるに足る人間だけよ。
転生者は、天上界の上層部が出席する、転生者選定会議で選定されるの。
先日開かれた会議で、移転先の世界を発展させるために非常に有用な人材だという理由で、こいつは満場一致で転生者に選ばれたそうだ。
だいたいの転生者は、転生させるかどうか論議があるらしいのだけれどね。
選ばれたそうだ、というのは、私のような駆け出しの女神は、まだその会議に出ることができないから。
たいていはその日の朝一に、課長から会議の結果の「今日の転生者リスト」を渡されて、「じゃあ今日はこの人たちをお願い」と言われておしまいなの。
なので、原則としては、リストに書いてある名前と簡単な経歴や死因、選出理由の概要を知ることができるだけで、会議の様子を知ることはない。
ただ、こいつの場合は、課長から会議で満場一致って聞かされて、「ちょっと変わっているかもしれないけれど、この男は転生先で十分に活躍できるよう、丁寧に転生させてやってくれ。頼んだよ」と指示されたわけ。
よし、こいつをビシッと転生させて、課長の覚えをよくしようと張り切って臨んだらこのザマだ。
エリートだからいろいろ希望はあるとは思っていたけど、まさかしょっぱなに私の姿に難癖を付けられるとは思っていなかったわ。
もしかしたら、頭がよすぎて、こんな振り切れた感じになってしまっているのかしら。
頭がよいのも考え物だわ。
思わず切れかかってしまったけど、ここは我慢、我慢ね。
もう少し話を聞いてあげましょ。
「じゃあ、どうすればいい転生ができそうなのかしら?」
あれ、もしかして俺の希望が通ったりするのか。
せっかく転生できるのならば、モチベーションの上がるスタートを切りたい。
どこまで希望が通るかわからないけれど、ダメ元でやってみよう。
「モニア様、最初からやり直しませんか? 俺が目が覚めるときにイメージし直しますから、モニア様はそのイメージ通りの姿になってください」
モニア様はまたため息をついた。
「仕方ないわね。じゃあやり直すから、あなたの言う『つかめる』姿をイメージするのよ」
よーし、それじゃどんな格好をしてもらおうかな。
これは悩むなあ。
「あのね、さっき言ったように、私にはノルマがあるの。今日はまだあと何人も転生させないといけないの。早くしてね」
モニア様は手に持ったリストを振り回した。
天上ではまだ紙ベースなんだな。
神だけに。
電子カルテみたいなものはないのかな。
「なんかうまいこと考えたような顔をしているわね。イメージできた?」
「いや、せかさないでくださいよ。冒頭のシーンがつまらなかったら、読者や視聴者はそれだけで離れてしまうんですよ。一話切りどころの話じゃないんです」
「ラノベやアニメからいい加減離れてよ」
こいつはすっかり考え込んでしまったわ。
激務の上にラノベを読んでいたりアニメを見ていたりしたら、それこそ寝る時間もなかったのではないかしら。
でも、そうしたものがあったから、頑張ってこられた面もあるかもしれないわね。
気の済むようにしてあげたいけど、今日のノルマも心配だわ。
「あのね、いつまでもあなたひとりに時間を割くわけにはいかないの。そのやり直し、明日でいい? 今日はまだ何人も転生させないといけないの」
「明日と言わず、残業して今日中に片付けませんか。俺だったら何時まででもつきあいますよ」
これだから社畜は。いや、官庁だから「庁蓄」か。
「こっちにも『働き方改革』ってものがあってね、残業は制限されているの。それに、残業が多すぎると、効率的に神務、私たちの場合は仕事じゃなく神務って言うんだけど、神務ができないって査定に響くの」
「そしたら、こっそり持ち帰り残業をすればいいんじゃないですか。モニア様の家まで行きますよ、俺」
「持ち帰りって、別の意味で言っているんじゃないでしょうね。そんな危険なことができる訳ないじゃないの」
「大丈夫。何もしませんって」
「そう言って今まで何人の女性をだましてきたの?」
いや、品行方正だったから転生者に選ばれたのはわかっているのだけれど。
「とにかく、明日! それまでにしっかりイメージ作ってね」
「明日って、俺はどこで寝ればいいんですか? 夕飯は? せめてモニア様の家で夕飯くらいは食べさせてくださいよ」
本当に品行方正なのかしら。
「そこら辺で寝なさいよ。ここは暑くも寒くもないのだから。それに今のあなたには実体がないのだから、お腹なんて空かないわよ」
「あ、明日って、人間界の、地球での明日ですよね。天上界では違う時間軸で、俺たちの世界での一年くらい待たせるつもりじゃないですよね」
疑い深くもあるのね。
「大丈夫よ。それも順序が逆で、天上界の時間軸に人間界を合わせてあるの。明日は朝一番に転生させてあげるから、とにかく待ってなさい」
あんまりモニア様もご機嫌をそこねてもいけないので、俺は渋々引き下がった。
そのあと、少し離れた場所から、モニア様が転生者対応を行う姿を眺めていた。
モニア様。真面目にやっている。神様も本当に大変なんだなあ。
俺も真剣に考えなきゃいけないな。ただ、最初から設定てんこ盛りではそのあとが大変だ。設定のインフレーションは避けないといけないのだ。
しかし、モニア様、かりそめの姿とはいえ、きれいだったなあ。
そうだ、その美しさを生かさない手はない。
素材のよさを引き出すには、あまりごてごてと飾り立ててはいけない。
ひとつよい手を思いついたので、俺は安心して眠りに就いた。
普通は、同じ世界で別の人間として生まれ変わる。もちろん、前世の記憶や能力は引き継がれない。
転生できるのは、ほんの一握りの、転生させるに足る人間だけよ。
転生者は、天上界の上層部が出席する、転生者選定会議で選定されるの。
先日開かれた会議で、移転先の世界を発展させるために非常に有用な人材だという理由で、こいつは満場一致で転生者に選ばれたそうだ。
だいたいの転生者は、転生させるかどうか論議があるらしいのだけれどね。
選ばれたそうだ、というのは、私のような駆け出しの女神は、まだその会議に出ることができないから。
たいていはその日の朝一に、課長から会議の結果の「今日の転生者リスト」を渡されて、「じゃあ今日はこの人たちをお願い」と言われておしまいなの。
なので、原則としては、リストに書いてある名前と簡単な経歴や死因、選出理由の概要を知ることができるだけで、会議の様子を知ることはない。
ただ、こいつの場合は、課長から会議で満場一致って聞かされて、「ちょっと変わっているかもしれないけれど、この男は転生先で十分に活躍できるよう、丁寧に転生させてやってくれ。頼んだよ」と指示されたわけ。
よし、こいつをビシッと転生させて、課長の覚えをよくしようと張り切って臨んだらこのザマだ。
エリートだからいろいろ希望はあるとは思っていたけど、まさかしょっぱなに私の姿に難癖を付けられるとは思っていなかったわ。
もしかしたら、頭がよすぎて、こんな振り切れた感じになってしまっているのかしら。
頭がよいのも考え物だわ。
思わず切れかかってしまったけど、ここは我慢、我慢ね。
もう少し話を聞いてあげましょ。
「じゃあ、どうすればいい転生ができそうなのかしら?」
あれ、もしかして俺の希望が通ったりするのか。
せっかく転生できるのならば、モチベーションの上がるスタートを切りたい。
どこまで希望が通るかわからないけれど、ダメ元でやってみよう。
「モニア様、最初からやり直しませんか? 俺が目が覚めるときにイメージし直しますから、モニア様はそのイメージ通りの姿になってください」
モニア様はまたため息をついた。
「仕方ないわね。じゃあやり直すから、あなたの言う『つかめる』姿をイメージするのよ」
よーし、それじゃどんな格好をしてもらおうかな。
これは悩むなあ。
「あのね、さっき言ったように、私にはノルマがあるの。今日はまだあと何人も転生させないといけないの。早くしてね」
モニア様は手に持ったリストを振り回した。
天上ではまだ紙ベースなんだな。
神だけに。
電子カルテみたいなものはないのかな。
「なんかうまいこと考えたような顔をしているわね。イメージできた?」
「いや、せかさないでくださいよ。冒頭のシーンがつまらなかったら、読者や視聴者はそれだけで離れてしまうんですよ。一話切りどころの話じゃないんです」
「ラノベやアニメからいい加減離れてよ」
こいつはすっかり考え込んでしまったわ。
激務の上にラノベを読んでいたりアニメを見ていたりしたら、それこそ寝る時間もなかったのではないかしら。
でも、そうしたものがあったから、頑張ってこられた面もあるかもしれないわね。
気の済むようにしてあげたいけど、今日のノルマも心配だわ。
「あのね、いつまでもあなたひとりに時間を割くわけにはいかないの。そのやり直し、明日でいい? 今日はまだ何人も転生させないといけないの」
「明日と言わず、残業して今日中に片付けませんか。俺だったら何時まででもつきあいますよ」
これだから社畜は。いや、官庁だから「庁蓄」か。
「こっちにも『働き方改革』ってものがあってね、残業は制限されているの。それに、残業が多すぎると、効率的に神務、私たちの場合は仕事じゃなく神務って言うんだけど、神務ができないって査定に響くの」
「そしたら、こっそり持ち帰り残業をすればいいんじゃないですか。モニア様の家まで行きますよ、俺」
「持ち帰りって、別の意味で言っているんじゃないでしょうね。そんな危険なことができる訳ないじゃないの」
「大丈夫。何もしませんって」
「そう言って今まで何人の女性をだましてきたの?」
いや、品行方正だったから転生者に選ばれたのはわかっているのだけれど。
「とにかく、明日! それまでにしっかりイメージ作ってね」
「明日って、俺はどこで寝ればいいんですか? 夕飯は? せめてモニア様の家で夕飯くらいは食べさせてくださいよ」
本当に品行方正なのかしら。
「そこら辺で寝なさいよ。ここは暑くも寒くもないのだから。それに今のあなたには実体がないのだから、お腹なんて空かないわよ」
「あ、明日って、人間界の、地球での明日ですよね。天上界では違う時間軸で、俺たちの世界での一年くらい待たせるつもりじゃないですよね」
疑い深くもあるのね。
「大丈夫よ。それも順序が逆で、天上界の時間軸に人間界を合わせてあるの。明日は朝一番に転生させてあげるから、とにかく待ってなさい」
あんまりモニア様もご機嫌をそこねてもいけないので、俺は渋々引き下がった。
そのあと、少し離れた場所から、モニア様が転生者対応を行う姿を眺めていた。
モニア様。真面目にやっている。神様も本当に大変なんだなあ。
俺も真剣に考えなきゃいけないな。ただ、最初から設定てんこ盛りではそのあとが大変だ。設定のインフレーションは避けないといけないのだ。
しかし、モニア様、かりそめの姿とはいえ、きれいだったなあ。
そうだ、その美しさを生かさない手はない。
素材のよさを引き出すには、あまりごてごてと飾り立ててはいけない。
ひとつよい手を思いついたので、俺は安心して眠りに就いた。
20
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
拝啓、無人島でスローライフはじめました
うみ
ファンタジー
病弱な青年ビャクヤは点滴を受けに病院にいたはず……だった。
突然、砂浜に転移した彼は混乱するものの、自分が健康体になっていることが分かる。
ここは絶海の孤島で、小屋と井戸があったが他には三冊の本と竹竿、寝そべるカピバラしかいなかった。
喰うに困らぬ採集と釣りの特性、ささやかな道具が手に入るデイリーガチャ、ちょっとしたものが自作できるクラフトの力を使い島で生活をしていくビャクヤ。
強烈なチートもなく、たった一人であるが、ビャクヤは無人島生活を満喫していた。
そんな折、釣りをしていると貝殻に紐を通した人工物を発見する。
自分だけじゃなく、他にも人間がいるかもしれない!
と喜んだ彼だったが、貝殻は人魚のブラジャーだった。
地味ながらも着々と島での生活を整えていくのんびりとした物語。実は島に秘密があり――。
※ざまあ展開、ストレス展開はありません。
※全部で31話と短めで完結いたします。完結まで書けておりますので完結保障です。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
殺し屋令嬢の伯爵家乗っ取り計画~殺し屋は令嬢に転生するも言葉遣いがわからない~
雪野湯
ファンタジー
異世界の少女からの復讐依頼。
報酬は死にかけている殺し屋へ自分の肉体を捧げ、新たな人生を渡すこと。
少女は亡霊のように現れ、報酬だけを置いて復讐内容を告げずに消えてしまう。
少女となった殺し屋は異世界での自分の立場を知る。
少女は伯爵の令嬢でありながら、家族から虐待を受けていた。
そこから殺し屋は復讐相手を家族だと断定し、伯爵家を乗っ取り、家族を破滅させつつ財を奪うことを画策する。
だが、その画策を横から奪われ、思わぬ惨劇へと発展してしまう。
この騒動によって、伯爵家には奇妙な謎があることを知り、さらに少女の復讐が本当に家族に向けたものなのかという疑問が浮かび上がる。
少女が目指す復讐とは? 誰に対する復讐なのか? 伯爵家の謎とは?
殺し屋は復讐相手を探し求め、謎に立ち向かう。
【TS転生勇者のやり直し】『イデアの黙示録』~魔王を倒せなかったので2度目の人生はすべての選択肢を「逆」に生きて絶対に勇者にはなりません!~
夕姫
ファンタジー
【絶対に『勇者』にならないし、もう『魔王』とは戦わないんだから!】
かつて世界を救うために立ち上がった1人の男。名前はエルク=レヴェントン。勇者だ。
エルクは世界で唯一勇者の試練を乗り越え、レベルも最大の100。つまり人類史上最強の存在だったが魔王の力は強大だった。どうせ死ぬのなら最後に一矢報いてやりたい。その思いから最難関のダンジョンの遺物のアイテムを使う。
すると目の前にいた魔王は消え、そこには1人の女神が。
「ようこそいらっしゃいました私は女神リディアです」
女神リディアの話しなら『もう一度人生をやり直す』ことが出来ると言う。
そんなエルクは思う。『魔王を倒して世界を平和にする』ことがこんなに辛いなら、次の人生はすべての選択肢を逆に生き、このバッドエンドのフラグをすべて回避して人生を楽しむ。もう魔王とは戦いたくない!と
そしてエルクに最初の選択肢が告げられる……
「性別を選んでください」
と。
しかしこの転生にはある秘密があって……
この物語は『魔王と戦う』『勇者になる』フラグをへし折りながら第2の人生を生き抜く転生ストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる