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第4話 天上界1日目 その3 冒頭のシーンがつまらなかったら、読者や視聴者はそれだけで離れてしまうんです
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そもそも、誰でも死んだら転生できる訳ではないわ。
普通は、同じ世界で別の人間として生まれ変わる。もちろん、前世の記憶や能力は引き継がれない。
転生できるのは、ほんの一握りの、転生させるに足る人間だけよ。
転生者は、天上界の上層部が出席する、転生者選定会議で選定されるの。
先日開かれた会議で、移転先の世界を発展させるために非常に有用な人材だという理由で、こいつは満場一致で転生者に選ばれたそうだ。
だいたいの転生者は、転生させるかどうか論議があるらしいのだけれどね。
選ばれたそうだ、というのは、私のような駆け出しの女神は、まだその会議に出ることができないから。
たいていはその日の朝一に、課長から会議の結果の「今日の転生者リスト」を渡されて、「じゃあ今日はこの人たちをお願い」と言われておしまいなの。
なので、原則としては、リストに書いてある名前と簡単な経歴や死因、選出理由の概要を知ることができるだけで、会議の様子を知ることはない。
ただ、こいつの場合は、課長から会議で満場一致って聞かされて、「ちょっと変わっているかもしれないけれど、この男は転生先で十分に活躍できるよう、丁寧に転生させてやってくれ。頼んだよ」と指示されたわけ。
よし、こいつをビシッと転生させて、課長の覚えをよくしようと張り切って臨んだらこのザマだ。
エリートだからいろいろ希望はあるとは思っていたけど、まさかしょっぱなに私の姿に難癖を付けられるとは思っていなかったわ。
もしかしたら、頭がよすぎて、こんな振り切れた感じになってしまっているのかしら。
頭がよいのも考え物だわ。
思わず切れかかってしまったけど、ここは我慢、我慢ね。
もう少し話を聞いてあげましょ。
「じゃあ、どうすればいい転生ができそうなのかしら?」
あれ、もしかして俺の希望が通ったりするのか。
せっかく転生できるのならば、モチベーションの上がるスタートを切りたい。
どこまで希望が通るかわからないけれど、ダメ元でやってみよう。
「モニア様、最初からやり直しませんか? 俺が目が覚めるときにイメージし直しますから、モニア様はそのイメージ通りの姿になってください」
モニア様はまたため息をついた。
「仕方ないわね。じゃあやり直すから、あなたの言う『つかめる』姿をイメージするのよ」
よーし、それじゃどんな格好をしてもらおうかな。
これは悩むなあ。
「あのね、さっき言ったように、私にはノルマがあるの。今日はまだあと何人も転生させないといけないの。早くしてね」
モニア様は手に持ったリストを振り回した。
天上ではまだ紙ベースなんだな。
神だけに。
電子カルテみたいなものはないのかな。
「なんかうまいこと考えたような顔をしているわね。イメージできた?」
「いや、せかさないでくださいよ。冒頭のシーンがつまらなかったら、読者や視聴者はそれだけで離れてしまうんですよ。一話切りどころの話じゃないんです」
「ラノベやアニメからいい加減離れてよ」
こいつはすっかり考え込んでしまったわ。
激務の上にラノベを読んでいたりアニメを見ていたりしたら、それこそ寝る時間もなかったのではないかしら。
でも、そうしたものがあったから、頑張ってこられた面もあるかもしれないわね。
気の済むようにしてあげたいけど、今日のノルマも心配だわ。
「あのね、いつまでもあなたひとりに時間を割くわけにはいかないの。そのやり直し、明日でいい? 今日はまだ何人も転生させないといけないの」
「明日と言わず、残業して今日中に片付けませんか。俺だったら何時まででもつきあいますよ」
これだから社畜は。いや、官庁だから「庁蓄」か。
「こっちにも『働き方改革』ってものがあってね、残業は制限されているの。それに、残業が多すぎると、効率的に神務、私たちの場合は仕事じゃなく神務って言うんだけど、神務ができないって査定に響くの」
「そしたら、こっそり持ち帰り残業をすればいいんじゃないですか。モニア様の家まで行きますよ、俺」
「持ち帰りって、別の意味で言っているんじゃないでしょうね。そんな危険なことができる訳ないじゃないの」
「大丈夫。何もしませんって」
「そう言って今まで何人の女性をだましてきたの?」
いや、品行方正だったから転生者に選ばれたのはわかっているのだけれど。
「とにかく、明日! それまでにしっかりイメージ作ってね」
「明日って、俺はどこで寝ればいいんですか? 夕飯は? せめてモニア様の家で夕飯くらいは食べさせてくださいよ」
本当に品行方正なのかしら。
「そこら辺で寝なさいよ。ここは暑くも寒くもないのだから。それに今のあなたには実体がないのだから、お腹なんて空かないわよ」
「あ、明日って、人間界の、地球での明日ですよね。天上界では違う時間軸で、俺たちの世界での一年くらい待たせるつもりじゃないですよね」
疑い深くもあるのね。
「大丈夫よ。それも順序が逆で、天上界の時間軸に人間界を合わせてあるの。明日は朝一番に転生させてあげるから、とにかく待ってなさい」
あんまりモニア様もご機嫌をそこねてもいけないので、俺は渋々引き下がった。
そのあと、少し離れた場所から、モニア様が転生者対応を行う姿を眺めていた。
モニア様。真面目にやっている。神様も本当に大変なんだなあ。
俺も真剣に考えなきゃいけないな。ただ、最初から設定てんこ盛りではそのあとが大変だ。設定のインフレーションは避けないといけないのだ。
しかし、モニア様、かりそめの姿とはいえ、きれいだったなあ。
そうだ、その美しさを生かさない手はない。
素材のよさを引き出すには、あまりごてごてと飾り立ててはいけない。
ひとつよい手を思いついたので、俺は安心して眠りに就いた。
普通は、同じ世界で別の人間として生まれ変わる。もちろん、前世の記憶や能力は引き継がれない。
転生できるのは、ほんの一握りの、転生させるに足る人間だけよ。
転生者は、天上界の上層部が出席する、転生者選定会議で選定されるの。
先日開かれた会議で、移転先の世界を発展させるために非常に有用な人材だという理由で、こいつは満場一致で転生者に選ばれたそうだ。
だいたいの転生者は、転生させるかどうか論議があるらしいのだけれどね。
選ばれたそうだ、というのは、私のような駆け出しの女神は、まだその会議に出ることができないから。
たいていはその日の朝一に、課長から会議の結果の「今日の転生者リスト」を渡されて、「じゃあ今日はこの人たちをお願い」と言われておしまいなの。
なので、原則としては、リストに書いてある名前と簡単な経歴や死因、選出理由の概要を知ることができるだけで、会議の様子を知ることはない。
ただ、こいつの場合は、課長から会議で満場一致って聞かされて、「ちょっと変わっているかもしれないけれど、この男は転生先で十分に活躍できるよう、丁寧に転生させてやってくれ。頼んだよ」と指示されたわけ。
よし、こいつをビシッと転生させて、課長の覚えをよくしようと張り切って臨んだらこのザマだ。
エリートだからいろいろ希望はあるとは思っていたけど、まさかしょっぱなに私の姿に難癖を付けられるとは思っていなかったわ。
もしかしたら、頭がよすぎて、こんな振り切れた感じになってしまっているのかしら。
頭がよいのも考え物だわ。
思わず切れかかってしまったけど、ここは我慢、我慢ね。
もう少し話を聞いてあげましょ。
「じゃあ、どうすればいい転生ができそうなのかしら?」
あれ、もしかして俺の希望が通ったりするのか。
せっかく転生できるのならば、モチベーションの上がるスタートを切りたい。
どこまで希望が通るかわからないけれど、ダメ元でやってみよう。
「モニア様、最初からやり直しませんか? 俺が目が覚めるときにイメージし直しますから、モニア様はそのイメージ通りの姿になってください」
モニア様はまたため息をついた。
「仕方ないわね。じゃあやり直すから、あなたの言う『つかめる』姿をイメージするのよ」
よーし、それじゃどんな格好をしてもらおうかな。
これは悩むなあ。
「あのね、さっき言ったように、私にはノルマがあるの。今日はまだあと何人も転生させないといけないの。早くしてね」
モニア様は手に持ったリストを振り回した。
天上ではまだ紙ベースなんだな。
神だけに。
電子カルテみたいなものはないのかな。
「なんかうまいこと考えたような顔をしているわね。イメージできた?」
「いや、せかさないでくださいよ。冒頭のシーンがつまらなかったら、読者や視聴者はそれだけで離れてしまうんですよ。一話切りどころの話じゃないんです」
「ラノベやアニメからいい加減離れてよ」
こいつはすっかり考え込んでしまったわ。
激務の上にラノベを読んでいたりアニメを見ていたりしたら、それこそ寝る時間もなかったのではないかしら。
でも、そうしたものがあったから、頑張ってこられた面もあるかもしれないわね。
気の済むようにしてあげたいけど、今日のノルマも心配だわ。
「あのね、いつまでもあなたひとりに時間を割くわけにはいかないの。そのやり直し、明日でいい? 今日はまだ何人も転生させないといけないの」
「明日と言わず、残業して今日中に片付けませんか。俺だったら何時まででもつきあいますよ」
これだから社畜は。いや、官庁だから「庁蓄」か。
「こっちにも『働き方改革』ってものがあってね、残業は制限されているの。それに、残業が多すぎると、効率的に神務、私たちの場合は仕事じゃなく神務って言うんだけど、神務ができないって査定に響くの」
「そしたら、こっそり持ち帰り残業をすればいいんじゃないですか。モニア様の家まで行きますよ、俺」
「持ち帰りって、別の意味で言っているんじゃないでしょうね。そんな危険なことができる訳ないじゃないの」
「大丈夫。何もしませんって」
「そう言って今まで何人の女性をだましてきたの?」
いや、品行方正だったから転生者に選ばれたのはわかっているのだけれど。
「とにかく、明日! それまでにしっかりイメージ作ってね」
「明日って、俺はどこで寝ればいいんですか? 夕飯は? せめてモニア様の家で夕飯くらいは食べさせてくださいよ」
本当に品行方正なのかしら。
「そこら辺で寝なさいよ。ここは暑くも寒くもないのだから。それに今のあなたには実体がないのだから、お腹なんて空かないわよ」
「あ、明日って、人間界の、地球での明日ですよね。天上界では違う時間軸で、俺たちの世界での一年くらい待たせるつもりじゃないですよね」
疑い深くもあるのね。
「大丈夫よ。それも順序が逆で、天上界の時間軸に人間界を合わせてあるの。明日は朝一番に転生させてあげるから、とにかく待ってなさい」
あんまりモニア様もご機嫌をそこねてもいけないので、俺は渋々引き下がった。
そのあと、少し離れた場所から、モニア様が転生者対応を行う姿を眺めていた。
モニア様。真面目にやっている。神様も本当に大変なんだなあ。
俺も真剣に考えなきゃいけないな。ただ、最初から設定てんこ盛りではそのあとが大変だ。設定のインフレーションは避けないといけないのだ。
しかし、モニア様、かりそめの姿とはいえ、きれいだったなあ。
そうだ、その美しさを生かさない手はない。
素材のよさを引き出すには、あまりごてごてと飾り立ててはいけない。
ひとつよい手を思いついたので、俺は安心して眠りに就いた。
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