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三三 だらしねぇぞ
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三三 だらしねぇぞ
「おいっ! おっさん大丈夫かよ!!」魁地と山田が結浜に走りよる。
「……大丈夫だ。致命傷ではない。多綱くん、山田くん、すまない……君たちは逃げるんだ」
「おいおい、おっさん。そういうわけにはいかねぇだろ。何とかするぜ! なぁ、山さんよ!」
「ったりめぇよ! いくぜ魁地!」
「おう、霧生。バレットクロスとブレードだ!」
「分かりました!」
魁地がバレットクロスで弾丸を連発し、フェルベアードの気を引く。
その隙に山田が宙を低空でスライド飛行して、フェルベアードの直前で軌道を急展開し、閃光刀をギリギリでかわす。その瞬間、山田は空中で横回転しながらフェルベアードの背後をとり、思い切り回し蹴りを打ち込んだ。
すると、蹴り飛ばされてバランスを崩したフェルベアードが、魁地の方に倒れこんできた。ここまでの連携は余地も併用したあうんの呼吸で想定通り。
――よし、次の一手、それで決まる。
魁地はバランスを取ろうとガードをといたフェルベアードに向けてタイミングを合わせ、フォールディングブレードをアッパーカットの軌道で振り上げて、その顔面に叩き入れた。
「よしっ、完璧だ!」
カキーーーンッ!
まるで、超音波がエコーした耳鳴りのように、その甲高い音が強弱を繰り返して脳内を拡散している。
顎にブレードが当たった瞬間、フェルベアードの顔面が光って、ブレードの刃先が金切り音を発したようだ。
刃先から伝わる音叉のような振動が、魁地の骨格を直に響かせる。
彼は体幹にむず痒さを覚えた。
「そんな、馬鹿な……」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるフェルベアードの目が、艶やかに光を反射してギョロリと魁地を見ている。彼のブレードは、フェルベアードの顎先で止まり、傷一つ付けられていないようだった。
「馬鹿な奴だ」
フェルベアードが無防備な魁地に向かって閃光刀を走らせる。
『多綱くん、すぐに逃げてください!』
気が付くと、その攻撃を見透かしたように魁地の足がホップモードに切り替わっており、彼は瞬間的にフェルベアードから距離をとることができた。
「ナイス、霧生!」
『すぐに次が来ます。油断しないで!』
フェルベアードは再度魁地との間合いを詰め、両刀で連続攻撃を仕掛ける。
一瞬でも触れたらアウト――魁地はそれを必死に避けるので精一杯だ。
山田も隙を見てフェルベアードに攻撃をするが、まるで素手で鋼を殴っているかのようにその表面で弾き返される。
「これは絶対おかしい。こいつ何か他にも能力があるぞ!」
フェルベアードは慌てる二人を見て笑い出す。
「くははっ、お前たちのCPUはスペックが足りていないのか? 相反する現象も元を辿れば同一因子の裏返しということだ。俺の能力はマテリアルの分離だけじゃなくメカニズムを逆転させれば固結もまた可能。キサマらに俺を切ることはできない。諦めるんだな」
フェルベアードは両手の閃光刀で軽やかな太刀筋を描き、デスクや機器を両断しながら魁地と山田を追い詰めていく。そして彼らはついに壁に背を付け、逃げ場を失う。
「さて、もう逃げられんぞ。死んでもらおう」
フェルベアードがそう言って刀を構えたその時、信司の声が背後から響いた。
「待て、フェルベアード! こいつがどうなってもいいのか?!」
「……ほぉ、これは面白い」
フェルベアードが振り向くと、そこにはエンバッシュを背後から締め上げる信司の姿があった。
エンバッシュは結浜から受けた致命的なダメージで憔悴し、糸が絡んだ可愛げもないマリオネットのように体を折り曲げている。
信司はエンバッシュの体内から引き出した心臓を握り締めている。その心臓は有機的な外殻を有し、内部から透かして漏れ出した薄い光に包まれている。
「これを引き抜いたらこいつは終わりだ。フェルベアード、二人から離れるんだ!」
フェルベアードは、乾いて剥がれ落ちそうな笑顔を湛えたまま、動じることなくゆっくりと信司に近付きながら言う。
「そいつは俺と同じただのプログラムだろ。そいつがどうなろうと俺の知ったことじゃない」
それを聞いたエンバッシュは慌てた。
「ば、馬鹿野郎! フェルベアード、俺はザルバンの研究者だと言っただろう。謂わばお前の管理者だ。アバターとは言え、アーティファクトで受けた極度の痛みや傷は、強烈なスパイクノイズになって本体の脳にダメージを与えるんだ。ある程度のダメージは耐えられるが、もしこの体が死ぬようなことがあれば、脳に物理的な破壊を起こす可能性がある。お前を解放したのは俺だろう。フェルベアード、俺を助けろ!」
フェルベアードの両手から閃光が消える。そして彼は「やれやれ」と言った表情で魁地と山田に背を向け、エンバッシュとペネルの方へ歩いていく。
「それ以上近付くな! 本当にこいつの心臓を引き抜くぞ!!」
フェルベアードが二人の前で立ち止まる。そして哀れみを帯びた表情で言う。
「おい、エンバッシュ。安心しろ、俺に任せな」
「あ、ああ、ベリーグッドだ……」
すると、フェルベアードの両手が光輝き、閃光刀が伸びる。エンバッシュに一筋の汗が垂れ落ちる。
「おい、フェルベアード、何を……?」
エンバッシュは次にフェルベアードが発した「やっぱ俺には関係ないね」という言葉で、自分が犯した間違いに気付いた。
……時代遅れの糞野郎が。
エンバッシュはフェルベアードをシャットダウンしようと手に握った端末を操作する。彼はフェルベアードのアクセス制限を解除してコアデータベースに接続した。
後はパワーコンポーネントを開いて電源を遮断するだけ、――しかし、フェルベアードの振り下ろす閃光刀がそれよりも少し早かった。
薄く研がれたような残光の帯が弧を描き、エンバッシュの心臓諸共彼の胴体を真っ二つに切り裂く。心臓の外殻が弾け飛び、不安定化して消失していく核融合の光と彼の悲鳴が溶け合い、周囲に散らばる。
そして、切り替えした刀の軌道は後ろで咄嗟に身を引いた信司の首下に向かっていく。
信司にはその動きがとてもゆっくりに見えた。
刃先が七色に輝き、顎のすぐ下に伸びてくる。一秒しない内に首が胴体と離れ、外にある自分の本体も脳を破壊されるだろう――彼はそう思った。
「えっ?!」
それは一瞬の出来事だった。
その瞬間、信司の目に映ったのは、とてつもないスピードで飛んできた大きな金属物が、フェルベアードを彼の視界の端まで突き飛ばす様だった。
十メートル程弾き飛ばされたフェルベアードの上には衝撃で崩れ落ちた天井の瓦礫が積み重なる。そしてその横には屈曲した図太い鉄柱が落ちている。
「おめぇら、だらしねぇぞ!」
信司は声の主を目で追った。
すると、そこには患者用の病衣のままで立つ華凛の姿があった。彼女は接合した腕をかばいつつ、もう一方の手にアビリティーを集中していた。
「華凛さん!」
「華凛!」
信司はエンバッシュの残骸を残してその場から離脱し、魁地らと共に彼女のもとに駆け寄る。
「華凛、大丈夫なのか?」
「へっちゃらよ、このくらい。それより、アイツなんとかしねぇと。また起き上がるよ」
「ああ、でもどんな攻撃もきかねぇんだ……どうしたらいいか分からねぇ」
「あの能力がある限り、ダメージを与えることはできそうもありません。直接奴にアクセスできれば、僕のインターフェースで停止命令を与えることも可能なんですが、古代ウェアではそれができませんし、正直僕も手詰まりです」
そう言って信司が頭を抱えている。
「直接アクセス……」
真理望は考える。そして周囲を見渡した。すると彼女は切り飛ばされたエンバッシュの腕が端末を掴んでいるのを見つけた。
「ひょっとして……」
「おいっ、どこに行くんだ、真理望!」
真理望は魁地の言葉を無視して、突然走りだした。
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