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三二 誤算(2)
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三二 誤算(2)
「君はまだ分かっていないんだよ。結合というものの本質をね」
「おっさん、一体何しようってんだよ」
魁地はそう言って山田を見る。
「いや、俺にも分からん……」山田も困惑している。
「さぁ、フェルベアードとやら、私が相手になってやろう」
結浜はそう言っていつのまにか手に持っていた装置を頭部にセットする。
それは霧生のルーナーのようなものにも見えるが、左目の部分には大型の顕微鏡のようなごつくて精巧なレンズが仕込まれており、一眼レフカメラのオートフォーカスのようにクルクルと回ってピントを合わせている。
そしてレンズを通し、結浜の眼には様々な表示が背景を透かして出力されている。
「ふざけた男だ。では、お前からアーティファクトのデータトラッシュに送ってやろう」
フェルベアードが両手から光を放ち、二本の閃光刀を振り上げる。結浜はヨガや気孔術のように両手を構え、息を吐きながらゆっくりと正面に伸ばす。
「みんな、耳を塞いで身を隠してくれ」
魁地たちは何のことか分からぬまま、咄嗟に物陰に身を隠した。するとそのとき、空気を唸らせるような重たい音と共に施設内の補助システムが復旧し、弱いパルス化していた照明が煌々と光を灯した。
そして、それを合図にするかのように、結浜がそれを『発射』した。
「……っ?!」その時、フェルベアードの胸付近で一瞬大きな火の玉が出来上がり、それが一点に凝縮されると痛みさえ伴うほどの眩い光が爆発的に広がって辺りを包み込んだ。同時に発せられた爆音は両手で塞いだ魁地たちの耳にも抉じ入り、耳鳴りが襲う。
「な、何が起きたんだ?!」
周囲は一瞬で煙に包まれたが、天井の集気ダクトがそれを徐々に吸い上げて視界に色を付けていく。魁地と山田は状況を理解できず、両手で耳を押さえたまま薄れていく煙を見つめる。そしてそこに先程の構えのまま立つ結浜の姿が現れる。その先にはフェルベアードの姿はなく、奥の壁が崩れ落ちている。横にいたエンバッシュは爆風を浴びて吹き飛ばされ、ちぎれて皮一枚でぶら下がる右腕とごっそり抉られた胴体を唖然と見ている。
「おっさん、一体何やったんだよ!」
「核融合爆弾だよ。所謂、水爆という奴だ。ボンダーで水素原子の核を融合させて太陽と同じ核融合エネルギーを発生させたんだよ。本来の水爆は原子爆弾の核分裂エネルギーを利用して核融合させるが、私にはその必要がない。放射能汚染のないクリーンな水爆を作れるのは地球上でこの私だけだろう」
「は、ははは……おっさん、あんたマジやべぇな」
魁地と山田は結浜に対する態度を改めようと心に誓う。
「そうは言ってもこれは相当ハードルの高いスキルだ。かなりの体力も失われるし、コントロールもむずか……」
突然、結浜が言葉を詰まらせた。それは奥で崩れた壁の下からむっくりと立ち上がったフェルベアードの姿が彼の目に入ったからだ。正面からその爆発を受けたはずのフェルベアードは先程となんら変わりなく、首を左右に振ってコキコキ鳴らしながら歩いてくる。
「なにっ?! ……なぜダメージを受けていないのだ?!」
「おやおや、どうしたのかな? 確かに今の攻撃にはたまげた。まさか両面宿儺以外に俺を驚かせる奴が現れるとは思わなかった。が、結局はそこまでだ。所詮、お前たちは俺を驚かせることくらいしかできねぇんだよ。さて、これで終わりか?」
「くっ……ま、まだまだ!」
結浜は連続してフェルベアードに核融合エネルギーをぶつける。魁地たちはあまりの音と衝撃に身を伏せ、ただ静けさが戻るのを待った。そして、やがて爆音は止み、結浜の切らした息の音だけが残る。魁地はゆっくりと目を開いた。
そこには瓦礫の山が積み重なっている。フェルベアードはそこに埋もれているようだ。
「はぁ、はぁ、はぁ。……まさか。なんて、こった」
瓦礫を押し退け、フェルベアードが呆れた顔で出てくる。彼は片手を上げ、光を放つと結浜目掛けて振り下ろす。限界まで消耗した結浜は閃光刀の起動から自分の急所を外すのがやっとだった。彼は背中を深々と切られ、その白衣に真っ赤な血を滲ませて魁地の前に倒れこんだ。
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