欠陥だらけの彼は箱庭で救世主と呼ばれる【イラスト付き】

へっど

文字の大きさ
上 下
10 / 55

七 宿儺(1) 伝承

しおりを挟む
 エミリーと私は言葉を交わすことは無かったけど、二人揃って自然とテラスに足が向く。
 庭の中でひときわ目立つんだもん。遠目には白で統一された素敵なテーブルセットにブドウの蔦なんてものも見えてて、とても気になるの。

「う、まあ、そうよね」
「お掃除すれば綺麗になりますよ!」

 騎士団は週に何度もルルーシュ僻地を訪れるわけではない。
 更に訪問しても宿泊しないこともある。
 ハウスキーパーがいるわけでもなく……となると汚れ放題になってしまうわよね。
 きっとこのお屋敷は貴族の別荘感覚で作ったのだと思う。たまにきて掃除を……となると掃除をしているだけで一日が終わってしまう。
 騎士団が宿泊するのはたったの一泊。
 つまり……設計と用途が合っていないの。時間はあるのだし、使うところからお掃除すればいいかな。
 うー、それにしても地面なら砂がいくらあっても気にならないけど、泥の上に砂が積もってこびりついていると気になるものなのよね。
 水で洗い流してゴシゴシとすれば綺麗になるかな?
 
「ご安心ください」

 私の気持ちを察したのかエミリーが胸の前で両手をぎゅっと握りしめる。
 彼女のメイド魂に火が付いたのか背後からメラメラとした炎が浮かんでいるような。
 わ、私だって、お掃除するんだから。一緒にやろうね、エミリー。
 
 カサリ。
 伸び膨大の雑草が不自然に動いたような。
 う、ううん。気のせいじゃない。
 真っ黒の棒に先に丸い球をつけたようなものがぴょこっとしているのが見えたわ!

「あ、あれ」
「は、はい。動物の何か、でしょうか」

 気が付いたのはエミリーと同時だったみたい。
 眉をひそめ、お互いに目くばせする。

「や、やっぱり動いた!」
「は、はいい」

 しかも、ぴょこぴょこが二本に増えた!
 何かしらあれ、水辺に住むぬめっとした生き物にああいう角を持つ生き物がいたかも。
 ひゃ、う、うわあ。
 黒い頭が出てきた!
 ん、でも、意外に可愛いかも。動いてなかったらぬいぐるみに見間違えるかもしれないほど。
 その子は毛の生えていない黒と白のツートンカラーで、人間だと髪の毛が生えている部分が黒で顔の部分が白になっている。
 さっき見た棒状のものは触覚に当たるのかなあ。
 三角の目に鼻がなく唇がない口。
 背中から小さな翼が生えていて、長い黒の尻尾を備えていた。胴体と頭のサイズが同じくらいで手足が短い。
 宙に浮くその子の大きさは30~40センチくらいだろうか(尻尾を除く)。

「キイ!」
「きゃああ」

 黒い二頭身の子が金切り声をあげたから、エミリーと抱き合って悲鳴をあげる。
 な、何。可愛い見た目とは裏腹に凶暴なの?

「ル、ル、ルチルさ、様あ。わ、私が、ま、護りま、す」
「う、ううん。エミリーは後ろに。私が出るわ」
「だ、ダメです。ルチル様は魔法が。わ、私が、何とか。むぐう」
「っし!」

 エミリーの魔法ならば襲い掛かって来ても護ることはできると思うわ。
 だけど、これほど動揺していては、魔法を使うことなんて無理よ。魔法を使うには多少の集中がいるんだもの。
 じりじりと睨み合う黒い子と私たち……。
 じわりと手に汗が滲み、相手も警戒と緊張から動けないのかと考えたの。
 だったら――。
 半歩だけ前へ踏み出す。
 
「キイイイ!」

 すると、さっきより遥かに大きな金切り声をあげて、黒い子はぴゅうと飛んで行った。
 へなへなと力が抜ける。
 さすがに膝が落ちるまではいかなかったけど。
 エミリーの肩を支え、「大丈夫?」と目配せする。対する彼女は小さく頷き、胸に手を当てた。
 
「と、とてもビックリしました。取り乱してしまい、申し訳ありません」
「ううん。私も似たようなものだったもの。一緒だね」
「そ、そうですね」
「うん!」

 あははと笑い合う。
 これが壁の外なのね。魔法の壁で護られたシルバークリムゾン王国の中では、さっきのような生物に出会うこともない。
 あれもきっとモンスターの一種よ。可愛らしいけど。
 私たちにはモンスターと出会った経験がない。だから、小さいモンスターでも取り乱してしまう。
 今回は幸い強くはないモンスターだったから、逃げて行ってくれたからよかったものの。好戦的なモンスターだったとしたら、と思うとゾッとするわ。
 
 その後、エミリーとしっかり手を繋いで庭の探索に向かう。
 内心かなりびくびくしていたから、歩みも遅く小屋を発見したところでレオが戻って来た。
 
「レオー!」

 門のところで待つ彼の姿に安堵し、エミリーと手を繋いだまま駆け寄る。

「おいおい、どうしたんだ?」
「小さな黒いモンスターがいたの!」
「小さな黒い? こう角みたいなのと尻尾が生えた」
「そうそう、翼もあったわ。小さくて見た目は可愛らしい」

 「ふむ」と顎に手をやった彼はパチリと指を鳴らす。

「インプだな。ルルーシュ僻地でたまに見かける」
「危ない子なの?」
「直接人間に危害を加えてきたりはしないみたいだぜ。剣を向けると逃げて行く」
「そ、そうなんだ。他にも村の中にモンスターがいたりするの?」
「いんや。インプ以外は見かけねえな。たまに凶暴なのも来るとか聞いたけど、見たことねえや」
「い、いるんだ……」
「村の『外』にな。もし来襲したとしたら、家の中に隠れろ。エミリーの魔法で固めて凌げば何とかなるはずだ」
「が、頑張ります」

 青い顔でエミリーがそう言ってくれたけど、声が震えている。
 ゆっくりと時間をかけて彼女に落ち着いてもらい、魔法を使ってもらうようにしなきゃ。
 彼女が安心して魔法を使えるように手を考えなきゃね。
 
「レオ、少し付き合ってもらう時間はある?」
「おう。隊長からも出発まではルチルとエミリーを見ててくれと言われて、戻ってきたんだよ」
「ありがとう!」
「俺の代わりに騎士団が荷物を届けてくれるから安心してくれ」
 
 レオが付いていてくれたから、足どり軽くお屋敷の中まで見回ることができたわ。
 小屋の中は鋤やクワ、ガーデニングに使うような道具が入っていたけど、錆が浮いていてそのまま使うと怪我をしそうだった。
 お屋敷には一通りの家具や食器が置いてあり、こちらは埃で汚れてはいるけど使用するに支障は無さそう。

「これ、紅茶かな?」
「はい! まだ使えそうですよ! ルチル様、お茶にいたしませんか?」

 棚の中に銀色の箱があって、開けてみたら中に入っていたのは茶葉だった。
 ちょうど一息入れたいと思っていたところだったの。
 このお屋敷、今のところ井戸を発見できてないのよね。だから、私だと紅茶を淹れることもできない。
 そのため、エミリーが気を利かせて自分から誘ってくれたのね。

「頼んでもいいかしら」
「もちろんです! 先ほどからもう喉がカラカラで」
「レオも一緒にね」
「おお。いいのか」

 嬉しそうな顔をしたレオに笑顔で雑巾を渡す。
 もちろん、私の分もあるわよ。

「エミリー。先にこっちにお水をお願いできるかしら?」
「え、お二人がお掃除なさるのですか!」
「うん。待っている間にせめて座れるようにしたいなって」
「そ、そんな畏れ多い」
「二人で協力していかなきゃ。お屋敷は広いのよ」

 と言うと、納得してくれたのかエミリーがバケツに手をかざす。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ニートの俺がサイボーグに改造されたと思ったら異世界転移させられたンゴwwwwwwwww

刺狼(しろ)
ファンタジー
ニートの主人公は一回50万の報酬を貰えるという治験に参加し、マッドサイエンティストの手によってサイボーグにされてしまう。 さらに、その彼に言われるがまま謎の少女へ自らの血を与えると、突然魔法陣が現れ……。 という感じの話です。 草生やしたりアニメ・ゲーム・特撮ネタなど扱います。フリーダムに書き連ねていきます。 小説の書き方あんまり分かってません。 表紙はフリー素材とカスタムキャスト様で作りました。暇つぶしになれば幸いです。

処理中です...